■感動と感謝と
記念日前に、とても嬉しい祝いの言葉と添付されていたクク主小説を頂いてしまい、
それからずっと有頂天気分でいます。
至上の夢見心地というのはこういう気分なのかと、
時々、見返しては幸せな気分に浸っております。
御礼になるか判りませんが、感謝のクク主小話を。
少しだけ七夕っぽくしようと字数に拘った為に、無駄に時間が掛かってしまうという体たらくの中で仕上がりましたものではありますが、宜しければどうぞ。
ちなみに7777字です。笑って下さい。
――夜の中に身を浸すのが好きだ。
ただただ静けさが横たわる夜の中を当てもなく歩き、何もない場所に腰を下ろして宵闇に浮かぶ月を眺めることが好きだ。
城を抜け出して、当てもなく夜の中を散り散りに歩むそれは正しく散歩。
勿論、勤務に支障が出ない範囲でする。寝る前のちょっとした時間や、夜勤後の隙間時間に。
常に、一人になれる場所を探していた。
最初から独りきりだと、何も気にしなくて済むから。
上手く表情が作れずに仏頂面で、どうにも口が回らないから碌な会話も出来ない自分が、とにかく情けなくて、どうにかしたかったのもある。
だから、せめて勇気の一つでも身につけようと、一人夜の中へ飛び出したのが始まりだったか。
変わろうと足掻くもどうにもならず、何も変えることができず、それがまた無性に歯痒かった幼少時代。
所詮は子どもだ。
届く範囲など知れている。
成長しない自身の情けなさにどうしようもなく泣きたくなって、一人で飛び込んだ真夜中の屋外。
道ならぬ道を歩き、辿り着いたはとある丘の上。夜露で濡れた草の上に、膝を抱えて蹲った。
声を上げて泣こうとしたが、その言葉すら当時は上手く紡げず、ただ無力に戦慄くばかり。
泣くことすら不器用なのかと心底惨めになったその中で、ふと顔を上げて見えたのは満月。暗いながらも濃紺の夜にぽつりと浮かぶその姿を見て、何だか心が晴れる気がした。
静かにそこに在るのに、美しかった。
儚く朧げな姿であっても、雲に隠れても、それは確かにそこに居て、そこに在って。
――静寂を纏った強い存在。
夜の中でそうした光を知り、情けなさも惨めさも全部自分自身を構築する確かなものだと理解して以降は泣くのも減った。強くなれたかはまだ分からないが。
――それも今は昔。
そんな夜の徘徊を、単なる趣味の一環としての散歩だと言えるまでになったのだから、少しは成長できたのかもしれない。
だからか、内勤時に「夜の警備」が回ってくると非常にわくわくしたものだ。(勿論、表情には欠片も出ていない。悲しい。)
担当と場所を決めるのは当番制だが、ここトロデーン城ではその際になんと「クジ引き」がある。
表向きは公平性を謳ってのことだが、実情は「オマケを付けやすい」からだという。
それぞれにちょっとした「労い的な何か」――例えばチョコレートを数欠片、とか、温かいスープをいっぱい、とか――そうしたものを付けることによって、夜勤当番を簡単に労えるので、クジ引きを付けることになった事情を、新人の時に先輩兵士から聞いたことがある。
いつから始まったのかは定かではないが、少なくとも俺が初めての夜警当番になった時にはもう存在していたから、自分が生まれる前からだろうと思っている。
トロデーンは人も環境も優しく、実に良い場所だ。
俺は、この城に仕えることが出来て誇らしい。
そんなこんなで、今夜の俺は夜勤に出掛ける。
場所は、城から南下した場所にある泉の近く。近場なので担当は一人、テントを張って野営する。
城を出る前に声を掛けてもらえたので、「くじ引き」をし忘れないで済んだのが嬉しい。
相変わらず、目を逸らされてはいたけど。(赤い顔をしていたから熱でもあるのかと顔を覗き込んで訊ねたら、首を振って逃げられてしまった。……悲しい。)
門番から包みを受け取り――中身は何だろう?――身支度と手荷物の確認をしてから、野営場所へと向かう。
背後で、温かくしろよとか気をつけろよと聞こえたのは気のせいじゃないだろう。
……やっぱり、嬉しい。
◇ ◇ ◇
――時は遡り。
「彼」に「初めての夜勤」が当たった日。古株の兵士たちが集まる詰所にて――。
「アイツはまだ新卒なのに、寒い中での夜勤とか可哀想じゃないのか? しかも、よりにもよって担当人員が一人の所とかさあ。」
「でも順当に回った当番テーブルの結果だしなあ。……そうか、下手したら初回で一人になるとかあるのか。」
「なあ。俺の担当に、アイツ当ててやって。交代するわ。」
「いやいや。それだと後々、贔屓だなんだと騒いで変な餌付け始める奴が出てくるぞ。……せめて、温かいスープでも差し入れてやるか。」
「……それもエコ贔屓になるんじゃないか? 今まで、そういうの無かっただろ。」
「あー、そうか……そうだ! クジ引きをしよう。」
「いや担当が決まったのに、今更クジ引きって……あ。それで贔屓を付けるのか。」
「アタリ。これからの夜勤者は、クジを引かせて何か一つオマケをつけようぜ。そしたら、アイツだけじゃなくて、当番になる俺達もモチベーション上がるしな。」
「いいな、それ。よし、採用しよう。他の皆にも連絡回しとくわ。」
「頼んだ。じゃあ俺は早速アイツにクジ引かせてくるわ。」
「おい、こら! スープはまだしも、チョコレートとスコーンとクッキーはやり過ぎだ! 置いて行け!」
◇ ◇ ◇
――時戻りし、現在。「彼」の夜勤場所にて。
(あー……美味しい。)
夜勤当番として俺が引いたクジの結果は、「小さなブラウニー」だった。
「小さな」という割には何だか一カット分の量に見えるのだが、恐らくミーティアがしたお茶会の余りだろう。今日の彼女には、午後に優雅なティータイムをする予定があった筈だ。
招待客にゼシカの名前があったのを見たが、生憎とその時の俺は仮眠をとっていたので会えずじまい。
俺としては、久し振りに懐かしい友人(と思ってもいい筈! ……良いよね?)の顔を見てみたかったのだが、まあ、別に俺に会うのが目的ではないのだから、都合が合わなくて当然だ。
決して、俺の顔など見たくもない、とかではない、と思う。……思いたい!
思考がそのまま沈みかけたので、小さいながらも濃厚で甘いその欠片を口に放り込む。
途端に、口内に広がる純度の高い甘み。
荒みかけた心がたちまちのうちに癒される。(単純だろうと自分でも思う。が、美味しいものは正義だ!)
そして、携帯している水袋の中身を一口。ごくり。澄んだ水が喉を通って気分が更に良くなる。
上質な糖分を補給したので、今回の勤務も十分に頑張れそうだ――と決意したところで、ふと人の気配を感じた。
これは――。
ひゅう、と風が横を通り過ぎるのに合わせて振り返れば、尖塔の物陰から出てくる人影があった。
夜の中、銀糸を揺らめかせた長身のその人は――。
◇ ◇ ◇
「――ククール。」
「……さすがに敏いな、女神様。」
綺麗な色彩を纏った男が苦笑を浮かべ、何の躊躇いも無く近づいてくる。
ククールだ――!
わあわあわあ。どうした。どうしたー?
今日は約束……しては、なかったよな? いつぶりだっけ、えーと……ひと月なるか、ならないかくらいか。先月にマイエラ騎士団の用事を手伝って以来だったか。(このところ、とある無神論者の団体が示威行動をして騒ぎを起こすとかなんとかで、俺も説得だか警備だかの依頼を受けて手伝いに行ったのだ。……なんか途端に静かになって、結構早く事態が収束したけど。話せば分かる素直な人たちだったのかもしれない。)
そんな事を考えていれば、ククールが俺の目の前で足を止めた。
「今日のお前は夜勤だって、城の人間に聞いてな。それでちょっと、様子を見に来たんだ。」
迷惑だったか?と言うので首を振って否定する。(友人が会いに来てくれるなんて、嬉しい!)
「何を食べてるんだ?」
月光に照らされて煌めく美しい銀髪をさらりと揺らし、ククールが俺の手元を覗き込む。
――想像して欲しい。
目の前に、とんでもない美形の横顔がある光景を。
「へえ、ブラウニーじゃないか。……甘いもの、好きなんだ?」
……想像してみて、ほしい。
長い睫毛で縁取られた深みのある青い瞳で、流し目めいた眼差しを向けてくる美形を。
その上、どこか色気のある声音で囁くように訊ねてくるのだ。美形が。近距離で。
「な。俺にもひとくち、ちょうだい?」
……っ、……そうぞう、して、みて……。
長身痩躯で年上の、美形のお兄さんが、焼き菓子を持つ俺の手をそっと掴んで、おねだり風の仕草をして、更には甘えたような声を出すのを。
……。
……。
ククールが女性にもてる理由を、垣間見るどころかよもや自分が実体験させられる羽目になるとは。
言葉が出ない以前に、俺は対人関係においては非常に経験値が少ないので、こういう時はどう対処して良いのかが分からない。
けれども無反応でいるのも失礼だから、俺はとにかく思考を走らせて考えに考える。
極上の焼き菓子。目の前のすこぶる美形。身を屈めているからいっそう距離が近くて。肩口に添って流れている銀色の髪がとにかく綺麗で。背後に見える月を背負うようにしているせいで、余計に艶麗で。その上で手を掴まれているから、逃げようも無く。
「エイト?」
そう名を呼ぶ声は、何かを探るような甘さがあって……その眼差しに、声に、突き動かされた。
空いているもう一方の手で、ククールの頬に触れる。――僅かに驚いた顔をするのが見えた。
そして掴まれたほうの手をそのまま動かし、彼の口元へそれを近づけた。――何を?と視線に問い掛けられる。
だから、答えた。
「――欲しいんだろう?」
え、とククールが何か言いかけるように口を軽く開いたので、そこでブラウニーを放り込んでやった。
消える俺の夜食。
少々勿体なかったが、親友(だと俺は思ってる!)にお裾分けをするのはやぶさかではない。というか、こうした「友人との分けっこ」をするのは夢だったのだ。
一口しか食べてないけど、上等なブラウニーだったからもうちょっと食べたかったなー、などと後ろ髪を引かれつつ自分の手にふと視線を落とせば、そこに残滓が幾らかついていた。
あ、勿体ない。
そんな気持ちから、残った欠片を唇で食み、僅かな滓を舌で舐めとる。
甘い。欠片なのに、味が強い。……ああ、意地汚いとか、浅ましいとか、そうしたものはお許し願いたい。屋外ではあるものの野営であることと衛生上、食べ滓を零すのは避けておきたいのだ。
しかし、やっぱりこのブラウニーは上等な代物だ。
少しの欠片でも、深い甘みと芳醇な香りがとにかく美味しい。
(明日、ミーティアに聞いてみるかな。……口頭だと緊張して分かりにくくなるかもしれないから、て、手紙で。手紙のほうで!)
そんな翌日の予定を脳内で組み立てつつ指先を舌で舐めていれば、目の前の人影がふらりとよろめいたように見えてギョッとする。
「……ククール?」
あ、ごめん。行儀が悪かったよな、と意識と視線を向ければ、相手は顔を真っ赤にして片手で口元を押えていた。
しまった、気持ち悪がられてしまったと反省する。少しだけとはいえ、相手の目の前で指についたチョコやブラウニー片を舐めとるというのは、まずかった。せめて背を向けて隠すべきだったと後悔するも遅い。
謝罪するべくククールを見上げた俺は、しかしその顔の赤さを見て出立前に見た同僚のことを思い出す。
これはもしかして熱でもあるのか?とその額に向かって手を伸ばせば、更にずさっと後退られたのでちょっぴり傷つく。
ああ、そうか。舐めていたから汚いよね……。(手はコッチのほうじゃないんだけど。あと、すぐに手持ちの消毒布で拭いたんだけど。)
それとも、本当にブラウニーをねだったのではなくて、社交辞令的な軽口だったのかな。
それを俺が真に受けて、汚い手で押し付けたから……それで気分が悪くなったんだったとしたら、もう謝り倒すしかないわけだが、実情はどうなんだろう。
ここは訊こう。意見の食い違いがあるかもしれない。(俺が気持ち悪いわけじゃないかもしれない!)
内心でびくびくしながらも、俺は勇気を振り絞って言葉を吐いた。
「――冗談だったのか。」
社交辞令なのに無理矢理食べさせて悪かった、と続けようとすれば――「そうじゃなくて!」とククールが遮って言い返す。
「お前が、急に口に入れたから。それで、ちょっと驚いたんだよ。あー……美味しかったよ。ありがとな。」
「……、……そうか。」
よ、良かった~!
俺からの「分けっこ」が気持ち悪いとか嫌だったとか、そういうのじゃなくて本っ当に良かった~っ!
心の中で盛大に安堵し、ほっと胸を撫で下ろしていると頭上にスッと影が差した。
不思議に思って見上げれば、眉根を寄せて困ったような――怒ったような?――顔をしたククールが、こちらをじっと見つめている。
どうかしたのか、と訊ねる言葉を紡ごうとした俺の唇は、形の良いククールの指先に押さえられて行動権を失った。
え、あれ。
これは……えっと、黙れってことかな?
こ、心の声が出てた? おおお俺、煩かった!?
「……ククール。手、を」
盛大にどぎまぎしながらも、一先ず指を離して欲しくて(くすぐったい!)、触れている左腕に手を掛けるが相手はこちらから視線を外さないまま、その指を動かして輪郭をなぞりはじめたのだから堪らない。
え、いや、あの。
ちょ、ちょっと、待って、なに、ククール、どうした!?
唇の上を柔らかく滑る、自分のものではない体温。
背筋がぞわりとして思わず眉を寄せてしまったが、許してもらいたい。
このどうにも表現しづらいぞわぞわした感覚に妙な嫌悪感を覚えてしまい、押し返そうと両手をククールの胸元に当てたのだが――逆に空いている右腕によって腰を抱き寄せられてしまう。
それで空白がなくなり――見上げた顔も近くなっていた。
月光を背負った美形からの、急接近。
もう直視など出来ず、つい視線を横へ逸らしてしまった俺はきっと悪くない。
すると耳元に(耳元で!)、苦笑する声が聞こえた。
「何だよ。仕掛けてきたのはソッチだろ、女神様。」
し、仕掛けたって、何を。
いやその前に毎回言ってるけど、女神ってなに――って、あああああ、吐息が耳に掛かってくすぐったい!
距離もそうだけど、綺麗な顔が近いし、響きの良い声も近い!
ええ、と、ええと……俺が何かを仕掛けたから、ククールは怒っていて? いや困っていて?
それで俺は、これから仕返しをされるわけで……?
ぐるぐる、ぐるぐる。渦巻く思考が纏まらない。
美形に脅されるような形で迫られた中で、冷静さを保てというのはちょっと難しいと思う。
「――俺からも供物を捧げたほうが良いよな?」
低く囁いたククールの声は僅かに掠れていて、そのせいかやけに肺腑に響いて聞こえた。
それとまた、背筋がぞわり。……今のは、腰に回されたククールの手が背中を撫で上げたせいだ。
この感覚は、なんというか……なんだか、嫌だ。
心が変にざわざわして、落ち着かなくなるから、……嫌だ。
少し息が詰まる。
反射的に見上げたのは、ククール――ではなく、その肩越しから覗く月。
三日月として形を変えてはいるが、いつもと同じようにぽつりと浮かんでこちらを見下ろしている。
どうしてだろう、静かな夜が遠い。
いや、手を伸ばせばまだ届く。届いてくれる、はず。
「……エイト?」
吐息のかかる距離。あと少しで顔ごと影が重なるというそこで、不意にククールが動きを止めた。
俺の両手はククールの肩をそっと抑えていて、そしていつの間にか視線は月ではなく地面に落ちていたことに気づく。
「……、……ちょっと悪ふざけが過ぎたみたいだな。」
深い溜息と共にククールは拘束を解くと、こちらの頭を軽く叩いてから(慰めてくれた?)離れてくれた。
不自然な息苦しさが、消える。
再び顔を上げた時には、遠いように感じた月はいつもの距離に戻っていたので安堵する。
気分が落ち着いたので、ククールに目を向ける。
月明かりの下、逆光のせいで表情はよく見えない。
けれども、酷く落ち込んでいる気配がしたので――きっと、「悪ふざけ」に対する俺の反応がイマイチだったせいだろう――今度は俺が慰めるべきだと思った。
なので。
「ククール。」
「ん? ああ、すまなかっ――」
身長差があるので、ククールの頭を撫でるのは少し厳しかった。
なので、はしたないというか不作法も承知の上でこちらからククールに近づいて、抱きしめてみた。
あまり焦点を合わさないで動いたのでククールの首にしがみつく形になり、慌てて修正しようにも勢い余って首筋に顔を埋める格好になってしまったので――もうどうにでもなれと思った。
「エイト、お前……」
――違うんです。俺は、格好良くククールの肩を抱いて「冗談に乗れなくて悪かったな」って明るく言い返したかっただけなんです。供物が何なのか分からないけど、差し入れという意味でならククールが顔を見せてくれたからそれでもう間に合ってるんです。――そんなことを言いたかっただけで、こんな駄々をこねた子供みたいにしがみつく予定じゃ無かったんです。気持ち悪いよな、ごめん。いっそ思いきり突き飛ばして!
心に浮かべたその言い訳を、どうにか形にする為に俺は頑張ってみた。
「……供物は、ここにある。だから、充分だ。」
「……っ。」
意趣返しのつもりではなかったが、ククールの耳元で囁き返す形になってしまった。
――今度こそ本当に突き飛ばされても、おかしくなんじゃないか。
そう思って身構えていたが、予想はいつまで経っても訪れず。
ふっ、とククールの体から強張りが解けた。
溜息が耳朶を打ち――ククールが言う。
「なんでこうも飴と鞭が上手いんだろうな、この女神様は。」
「……。」
何のことだろう?と首を捻っている俺を余所に、ククールは少しの間くつくつと笑っていたが、やがてこちらを包むように抱きしめ返してくると耳元でまた囁く。
「……夜食、奪っちまって悪かったな。」
いやいや、気にしてないから。大丈夫!
首を振ろうとするも、しっかと抱きしめられているので(これはこれでまた息苦しい!)、代わりにククールの背中をポンポンと叩き返しておいた。
するとまたククールが、何が可笑しいのかクックと笑って……俺の首筋に鼻先を擦りつけて頷く。
「お前、ほんと懐深すぎ。……仕事の邪魔して、ごめんな。」
気にしてないよ。それよりも、この抱擁のほうが俺としては気になるわけでしてね?
「……なあ。また、こうやって会いに来ていい? 今度はちゃんと、差し入れするからさ。」
そんな気を遣ってくれなくてもいいってば。俺としては、友達(……にしては、この距離感はどうなんだろう?)が、顔を見せに来てくれるだけで嬉しいんだよ。
ぽんぽんぽん、と背中を叩き返し、俺は少し顔を上げて空を見る。
月はやはり静かにそこにいて、その光でククールの銀色の髪を綺麗に映してくれていた。
――昔の自分に教えてあげたい。
数年後には、大切な仲間と親友が出来るんだぞ、と。
そのうちの二人は年上で、とりあえず片方は大型のネコ科のようにしなやかな体躯と相貌の、それでいてイヌ科の人懐こさというか……こう、甘えたさんというか。
とにかく、何をするにも格好いい青年が俺の親友(……だからだろうか、こうも近い距離感なのは?)になってくれているんだぞ、と声を大にして言いたい。
あ、俺の誇張か勝手な勘違いかも知れないので、やっぱり声は小さめで。偽証罪とかで牢屋に入れられたくないので!
……ごほん。
ともかく俺は、綺麗な月夜にとても美しい銀髪の青年に抱き着かれていて、少しばかりの多幸感に浸っていたりするので――だから、大丈夫だよとあの頃の俺に今の想いが届いて欲しいと願った。
それは、ある夜勤の日の出来事。
甘い夜食と引き換えに、親友との談笑時間を得た日。
……。
……ええと。
ところで、ククールはいつになったら俺から離れてくれるんだろうか?
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