忍者ブログ

龍宴庭note

突発小話&気まぐれ雑記用。 詳細などは「Category」→「★ABOUT」に記載。
MENU

【イシュ主drago】Perpetual Moon(改)

■気紛れ書き落とし小話。


唐突にヤンデレ風味の月人でお送りします。
外見は同じ属性だけど中身は月人のほうが危ないという話。
全てはCVがついたせい。

※後で色々足します(個人的に不完全燃焼な中身の為)

(4/19:追記)
足して幾らか改変しました。
端的にまとめると、曲者→虜囚。
それでも宜しければ、以下よりお読みください。

不完全燃焼だった改稿前の小話への感想ありがとうございます!
結構内容を変えてしまいましたが、こちらも楽しんで頂ければ幸いです。









――それは無上の至福となる鎖。


水晶を思わせる青く美しい空間に、一人の男が弦楽器を鳴らしていた。
奏でるは、時の向こうに沈んだ思いを引き出すハープ。銀色のそれは、砂の跡地に古代船を浮き上がらせたこともある不思議な楽器。
男は緩やかな手つきで、そのハープを奏でている。髪を梳くような、撫でるような仕草で。
曲線を描くような音色が流れ、青い空間に光の粒子が浮かび上がる。
それは何かの記憶だろうか。初めのうちは弾き手の周りにいたが、やがて側を離れ――引き寄せられるようにして流れついた先には、もう一つの人影があった。

青い空間の中央、バルコニーに似た中二階にあるスペースの階段付近に腰を下ろし、胸の前で両腕を組んで目を閉じている。
それだけなのに、青年の周りは時間が止まったかのような静謐さがあった。
極上の石膏を削って生み出された美術品だと説明されても、するりと飲み込んでしまうだろう。それほどに青年は美しい容姿をしていた。
少し俯き加減にしているその横顔は硬質な美があり、無遠慮に触れることなど出来ない――許されないような、冷たい気配が漂っている。
髪は艶やかで、青い空間に溶け込むような色合いだが決して混じらぬ輝きがあった。
そんな美貌に反して青年の服装は簡素で、衿のついた青いチュニックとくすんだアイボリーの長いパンツを身につけているほかは、何の飾り気も無い。
人を寄せ付けない冷気じみた美貌を持つ青年は、大国トロデーンの兵士長――だった。かつては。

しばらくして、美しい音色は止まる。
そこで演奏は終わったのだと気づいたらしい青年が――エイトが目を開けると、吐息のような声で言った。
「……良い演奏だった」
短い言葉。感情混じらぬ声はエイトの美貌と同等の冷ややかさがあったが、ハープの弾き手であるイシュマウリは微笑を浮かべて、穏やかに答える。
「ありがとう。気に入ってくれたようで嬉しいよ」
イシュマウリは、エイトの氷の声に混じる微細な感情を読み取っていた。
ここは月の世界、彼の領域。
夜の帳が下りていたとて、その幕に手を掛けることが出来る。
イシュマウリは、エイトを外見だけで判断していない者の一人だ。月影のハープで一度、エイトの心を見たことがある為に。――それでも、最奥の真実までは見透かすことは出来なかったが。
今もまだ、覗けてはいない。秘密の逢瀬を何度も重ねてきたが、エイトの氷は相変わらず神秘的なベールに覆われたままでいる。

雲間に隠れた朧月。
そこへ、そっと手を掛けて。
イシュマウリはエイトに微笑みながら問いかける。

「今日は、どうするのかね。君の好みに合いそうな紅茶を手に入れたのだけれど?」
「今日、は……」
階段に腰掛けたまま、イシュマウリを見つめるエイト。青い空間の光を映した黒曜の瞳は僅かな逡巡を見せた後に一度伏せられ、再びイシュマウリへと留まる。
「……泊まることは、難しい」
「……仕事が忙しいのかい?」
とっておきの提案を断られるとは思わなかった。
それは常に凪いだ精神を持つイシュマウリを僅かに動揺させ、彼は思わずハープをとり落としそうになる。
「世界は平和になったというのに、君はまだ、大地を駆け回っている?」
どうにか平静を装い――慌てて取り繕いつつ――、ハープを傷つけぬようテーブルへと置いて、エイトの元へ歩み寄る。
無意識からの早足で地面から少し足が離れていたが、誰かに見られて困ることはない。今この世界には二人きりである故に。
真夜中の色を思わせる長い髪が歩行に併せて揺れ、静かな空間にさらりと細い音を立てる。
まるで人のように急いてエイトの側に立った月人は、早口にならないよう気をつけながら言葉を紡いだ。

「もしかして……まだ脅威は去っていないのかい?」
口元に片手を当て、敢えて困惑したような仕草にてイシュマウリが問い掛ければ、エイトが緩やかに首を振った。
そのようにして先に動作で否定して不安を取り除いてから、答えを返す。
「……平らな世界でも、時は常に巡ってある。世界が静寂となるのは、人がいなくなった時だ」
第三者が聞けばそれは実に難解な言葉であったが、イシュマウリは読み取り、苦笑を零す。
「ああ、君を働かせている世界を責めているわけではないよ。ただ、以前のようにお茶を楽しむ時間が減ったことに対する疑問を投げただけだ」
「…………今日は、言付けをしていない」
「……うん?」
「……今は、連絡をしていないと、無断外泊とみなされて……、……説教を、受けるゆえ」
「…………説教? 君が? なぜ――ああ、そうか」
眉を寄せていたイシュマウリはすぐに答えを見つけ出し、苦笑する。
「そういえば、今の君はマイエラにいるのだったか」
「ああ。……トロデーンも、兼任してはいるが」
「彼の高貴な姫君は息災かい?」
「…………ああ」
少しばかり長い間があったが、エイトが短く頷く。返答はそれだけであった。
イシュマウリもそれ以上は訊ねない。
知りたいのは彼の麗人の心の奥にあるものであり、表層に抱えた問題ごとではないのだ。

人の世界にそう興味はない。
あるのはただ一つ。
水晶を思わせる透明な輝きを持つ美しさを持った、彼の人の子のみ。

けれど、そんな己の無関心をエイトに悟られるわけにはいかない。
自身がエイトにどう見られているのかについての確信を持ってはいないが、それでもこうして隣に立つことを許されている以上、余計な不興を買いたくはない。

だから、穏やかな声で「そうか」とだけ言って、エイトの肩にそっと手を置くに留めた。
まるで昔からの親友のように。
――尤も、人の機微など真に理解してはいないのだが。
追及がないことに、エイトは安堵したのだろう。
どこか硬い雰囲気が、ふっと緩められたのを感じたイシュマウリは、これ幸いにと誘いかける言葉を重ねる。

「そうだ。泊ることは叶わずとも、お茶を楽しむ時間はあるだろう? 少しばかり、ここで休んでくれると嬉しいのだけれどね」
「……そう、だな。分かった。暫しの休息を」
微かな――本当に微かな微笑を零して頷いたエイトを見て、イシュマウリも微笑む。

漆黒の夜の中においてもきっとその美しさは変わらぬ、月を思わせる氷の佳人。
こんなにも手が届く場所にいるというのに、いつも掴みきれないことがどうにも歯痒い。
何故なら彼の居場所は、外の世界。赤と青の色彩によって守られた場所。
そこに彼は置かれ、繋ぎ、繋がれたその見えない手枷の先には、実に獰猛な番犬が二匹いるという。
少し、羨ましいと思った。

――その束縛に焦がれた。
繋ぐものとしてか、繋がれるものとしてか。
その判別はできなかったけれども。

「では、テーブルのほうへ行こうか。――さあ、エイト」
階段に座っている相手に、イシュマウリは手を差し伸べる。
自分を真っ直ぐに見つめる闇色の美しい瞳を見返しながら――そのまま掴み返された手を、優しく引き上げるはずだったのに。

気づけば強く引き寄せて、抱きしめていた。
抱擁する腕の中で、驚いたらしいエイトが身じろぐ。
イシュマウリもまた自身の行動に驚いたが、それも一瞬。間近に美しい青年がいるという現実に、眩暈に似た疼痛を覚えて感動する。

「ああ、そう暴れないでおくれ。階段から落ちてしまうよ」
耳元で囁くように告げれば、吐息が触れるのを嫌ったのか抱き締めるエイトの背中が強張ったのを感じる。
青い布地を通して伝わるのは、警戒。緊張。
怯え……はないようなので、安堵する。
そのせいで、いっそう手放しがたくなったのだけど。

「イシュ、マウリ――」
感情のない声が名前をなぞり、肩の辺りに触れた白い手が距離をとろうと押し返してくる。
エイトは、その外見に反して戦闘能力が高い。なにせ竜神王に素手で挑んで勝利したという風の噂がある兵士だ。
月人とはいえ人の形をしただけの存在であるイシュマウリなど、本当ならば簡単に突き飛ばせるはず。
だが、エイトはそのようなことをしない。
冷徹な眼差し、冷気めいた雰囲気を纏わせた孤高の姿とは裏腹に、懐に入れた者にはとても深い情けをかける青年であることを、イシュマウリは知っている。
彼のマイエラ兄弟などは、そんなエイトのことを女神だと宣い、忠誠を誓う騎士が如く側に付き添い、共に行動していることが多い筆頭だ。
人の執着は凄まじいものだ、と当初のイシュマウリは苦笑していたのだが、いつの間にか自身も同じ信徒となっていることに気づいた今では何もかもが可笑しくて――この美しい存在が愛しくて堪らない。
だからこそ、この柔らかな抵抗に甘美を覚える。
だからこそ、更に深く触れたくなって。

イシュマウリは、己の肩を押し返そうとしているエイトの片手を取り――もう片方の手は相手の腰に回したまま――ゆっくりと倒れ込み、自然な動きでエイトを床の上に押し倒した。
手練れの兵士であるエイトは瞬きをして、イシュマウリを見上げている。
そこに驚きの色はなく、冷たい無表情があるばかり。
怜悧な氷に直視され、イシュマウリは僅かに怯む。
底が見えない闇色の双眸に、緩やかに惹かれ――引き摺り込まれる。

「本当に君は人の子なのか、エイト」
「……ああ」
柔らかな紅色をした唇が少し開き、吐息のような答えが返された。
感情のない冷たい声だと、知らぬものは言うだろう。
しかしその美貌、その冷たさを越えた先を知っている者は違う。
水面にそっと落ちる水晶が見せる波紋のように、静かに響いた声がイシュマウリの耳朶を打つ。
組み敷かれているというのにこの兵士の表情に焦りはなく、それどころかこんな状況に置かれてもなお孤高の気配を崩さない。
イシュマウリはエイトの手に自分の手を重ね、指を絡めるようにして押さえつけてみる。
それは少しばかりの威圧。
脅迫、かもしれなかったが。
しかしエイトは涼やかな美貌をそのままに、イシュマウリに視線を留めたまま口を開く。

「何を目的としている」
問われ、イシュマウリは苦笑する。
「君に触れることを」
「いま、そうしているだろう」
「そう。けれども、もう少し――もう少し深く、君に触れてみたいのだよ、私は」
「……」
はあ、と。
エイトの唇から零れた吐息は、何の為だろう。
絡めとられていないほうのエイトの手が動いたのを、イシュマウリは視界の端で見ていた。
平手が飛んでくるのか、それとも拳だろうか。
そんな妄想すらも愉しんでいたイシュマウリに、待ち受けていたものは――。

強く引き寄せられる抱擁だった。

それは先程にイシュマウリがエイトに仕掛けたのと同じもの。
エイトの肩口に顔を押さえつけられる格好になったイシュマウリの耳元で、抱擁相手がやはり同じように囁きを返す。

「許せるのはここまでだ、イシュマウリ」

冷たい声が紡いだのは不可侵の宣告。
青い夜を映したような色合いをしたイシュマウリの髪が、エイトの肩をとろりと流れる。
絶対なる拒絶。
それでもイシュマウリには蕩けるように甘い響きに聞こえた。
輪郭に沿うようにして背中を撫で上げ、這い上がってきた手がイシュマウリの髪に触れる。その手は幾度か動いてイシュマウリの髪を弄び、やがてスッと離れた。
艶めかしくも淫らなものを感じないその愛撫に、イシュマウリは震え、ゆっくりと息を吐きだす。

「ああ……ああ、人の子、エイト、君はなぜ――」
なぜそうも清麗なまま簡単に堕としてくれるのか。
乱し、汚し、自分のものにしたいというイシュマウリの情欲は掻き消され、後に残ったのは甘噛みに似た痛み。
拒絶を受けたというのに、全身に広がるは不可思議な歓び。
月人は打ち震え、身を預けるようにエイトの胸元に顔を埋める。

「すまないが、少しこのままでいてくれないだろうか。何もしないと誓おう。だから、あと少しだけ……どうか、君の美しさに溺れさせておくれ」
答える声は無かった。
ただ、髪を梳いた感触があった。
イシュマウリはそれを了承だと捉え、エイトと抱擁したまま、大人しく床の上にいるのだった。

掴んだその手が見えない枷となったことを、イシュマウリは気づいただろうか。
月はそうして夜に囚われ、静かに幕を引く。
何ごともなく魅了されて。
永劫の虜となって。

拍手[2回]

PR

× CLOSE

× CLOSE

Copyright © 龍宴庭note : All rights reserved

TemplateDesign by KARMA7

忍者ブログ [PR]