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龍宴庭note

突発小話&気まぐれ雑記用。 詳細などは「Category」→「★ABOUT」に記載。
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【クク主drago】花束を君に

■blog拍手からのメッセージに対する御礼です。

「Drago di Isolament」が一番好きだとあったので、その設定の小話をば。
当初はクク+マルの話だったのですが、dragoは表裏型なのだということを思い出して書き直し。
クク主とマル主と分けるという暴挙に出たために時間が掛かりました。
言い訳です。すみません。


先ずはクク主版から。
以下よりどうぞ。






その町では、春の女神祭が行われていた。
今年度の豊作を願い、女神に祈りを捧げる為に神官や供物を用意して行う厳粛なる神事――であったのは、昔のこと。
今はそう堅苦しいものではなく、素直に常日頃の恵みに感謝して行う「ちょっと大きなお祭り」となっている。
人で賑わう町のあちこちに、点々と。
並ぶのは、露店や屋台。
並べられるのは、様々な商品。
浮足立った人々の喧騒の中、“それ”はそこにいた。

「――花を買いませんか。」
あまり感情のない、けれど艶やかな低音に誘われて。
視線を向けた先、屋台の端の端に、ひっそりと。
見つけたのは年端もいかない幼い少女と、少し年上の兄らしき少年。

それと――誘いの声の持ち主。

小さな兄妹の側に、実に密やかに。影のようにして。――影よりも昏い気配を纏わせた青年の衣装は、深みのある空色のチュニックと、袖のない黄色のコート。頭には赤いバンダナといった装いで実に色彩豊かであるが、しかし当の青年の相貌はそれとは対極をなしていた。
陶磁のように白い肌に、闇色の黒瞳。まともに直視すれば正気を失いそうな美貌は、しかし表情は無く硬質で――それ故にいっそう美が際立って見えるが――長めに伸ばされた前髪によって、その毒のような艶は幾らか身を潜め、どうにか人心の、世の平穏は、保たれていた。

そんな氷の美貌を持った青年が、幼い兄妹と共にいて花を売っている――となれば、足を止めないわけも無く。
更には、見知った顔であるからこそ、なおさら何もせずにその場を素通りするわけにもいかなかった。

気になったから、足を止めた。
ただ、それだけ。
他意はない……筈だ。
だから。

火に焦がれて自ら飛び込む蛾の姿が過ぎったのは、気のせいだろう。


◇  ◇  ◇


――惹かれるようにして。
花売りの前で足を止めたのは、赤い聖堂騎士服を身に着けた青年。怪訝そうな顔をして首をひと傾げし、相手に声を掛けた。
「……そんなところで何をしてるんだよ、エイト。」
すれば、美貌の青年――エイトが、無表情のままに答える。
「ククールか。」
伏せられていた視線が、そうしてククールに絡む。
「花を売っている。一束、5ゴールド。……今なら、三つで10ゴールドだから、買うなら多い方が良い。……と、思う。」
「……いや、俺はセールスの続きを聞きたいんじゃなくてだな。」
「薬を買う金が、必要だ。」
「え? なんだ、お前どこか怪我でも――」
一瞬ぎょっとし、エイトに触れようとするが、白い手がすいと持ちあがりククールの行動を制す。
「この子供たちの、母親が。」
「……あー……病気か? 流行り病?」
「いや。そこまで酷くはないようだ。」
「成程。で、それはそうと、なんでエイトが一緒に居るんだ?」
もう答えは分かっていたが、一応訊ねてみた。
すると、返されたのは予想通りの言葉。
「祭りの出店は自由参加型だと聞いて……やって来たは良いが、ほとんど売れずに立ち尽くしていた。」
「ああ。で?」
「……俺が、足を止めて見ていたら、……泣かれて、しまった。……俺が、気味悪いから、だろう。」
「いやお前、それは誤解――」
「――故に、謝罪の意味も込めて手伝うことにした。贖罪に足るかは分からない、が。」
「だから、違っ、……あー……分かったよ。」
ククールはがしがしと側頭部をかき、溜息をつく。
子供たちはエイトが恐ろしくて泣いたわけではないだろう。
頼りになる大人も居ない中、商品は売れず、心細くて悲しくて、どうしようもなかったに違いない。
そんな時に、エイトが彼らのところで立ち止まった。女神を祭る行事にて、正しく女神然とした相貌の男が。
子供たちはそこに光を見たに違いない。――寄る辺となる陽光を。
だから泣いたのだ。
自分たちは孤独ではないのだと。
救いの手が、今まさにやって来たのだと。

――子供たちは手を伸ばしただけなんだぜ、エイト。お前が希望に見えたから、泣いたんだ。
などと、ククールが誤解を解くためにそうしたことを説明しても、当人は「気休めは良い」と答えるだろう。無表情に。頑なに、認めようとはせず。
どうしてだか、この女神様は自身の美貌には無頓着で、曲解する節がある。
……一先ず話を進めよう。ククールは別の言葉を吐く。
「仕事の方はいいのか?」
「早馬を出して、連絡はした。……承諾されたので、ここにいる。」
「いつまでいる気だ?」
「全てが消えるまで。」
「消え、……せめて、完売って言え。」
完結ながらもぞんざいな物言いに、ククールは呆れて二度目の溜め息を零す。後ろで一つに束ねられている長い銀髪が、心情を表すかのようにさらりと揺れる。
なにはなくとも、この慈善事業。
氷の女神たる兵士長サマは、とうてい接客には向いていない。
――さて、どうしたものかな。
特にエイトに用事があったわけではないが、ここで会ったのも何かの縁だろうと考えたククールは、目の前の状況を改めて眺めた。

手作りであろう木製のテーブルの上には、手製の花束と花冠が幾つか並べられている。
そこら辺の野草を集めたものにしては、綺麗に、丁寧に作られていて、子供の作品にしては上等な方だった。
花束を見る。
赤みの強い、けれど柔やかな色合いの花をメインに、黄色い小花と白い綿のような花らしきもので構成されたそれは、市販のものと比べると小ぶりではあったが、幼い女児が一生懸命集めて作ったものだろうと想像すると、なんだか優しい気持ちになれる商品に思えた。

花束の作り手であろう妹の方が、ほわっとした笑顔をククールに向けて、小さな手を差し出す。
「きれいなお花、かいませんか。ひとたば、5ごーるどです。」
「あー……そうだなー……。」
買わない、という選択肢はこの場においては良策ではない。
それに、場末で飲む酒やカジノで遊ぶ交際費に比べると、たった少しの金額だ。それだけでこの子供たちは喜び、感謝し、そして――……。

(……こいつも何か反応したりするのか?)
冷たい気配を纏う、美しく無表情な青年。
ここで自分が花束を買えば、彼は隣に寄り添う女児のように、あどけなく微笑んでくれるだろうか――?
不純な動機。
しかし試してみる価値は大いにある。
(でも、素直に買っちまっても面白くないよな。)
ふと湧いたのは悪戯心。
ククールは少女を見て、優しい笑みを浮かべる。
「そうだな。一つ貰おう。……ああ、折角だから大きな花束にしてくれ。」
「おおきな、ですか?」
「そう。お嬢さんの両手いっぱいの、な。」
「わあ。ありがとうございます!」
少女が破顔し、せっせと小さな花束を纏めはじめた。

「できました! どうぞ!」
木も集まれば森になる。
そうして小さな細工師によって出来上がったのは、胸に抱えるほどの大きな花束。町の店先で売っているものと比べると拙いが、花の配色と配分が見事に調和しており、遜色ない出来だった。
母の教えか、彼女自身の才能か。

(将来有望なレディだな。)
そんなことを考えながら、ククールは少女に代金を支払い――20束の集合体だが、計算が面倒だったので300ゴールドにした――花束を受け取ると、そのまま流れるような動作で歩いて机からエイトの前へと回り込んだ。
「どうした?」と無表情に首を傾げたエイトの片手をとると、そのまま引き寄せて。

「――受け取ってくれるか?」
「――。」
想定外だったのだろう、驚いた風に目を瞬かせてエイトがククールを見上げる。
「なぜ、俺に。」
詰められた距離に何か思うところがあるのか、微かに眉根を寄せたエイトが囁くような低音で問う。
「女神様に感謝を、って祭だろう? で、この子たちにとって、お前はそういう存在みたいだからな。」
「俺は、女神などでは――」
距離をとるかのようにエイトが一歩後ろへ後退するのに合わせて、ククールがまた距離を詰めつつ同じ声量で囁く。

「いいから、受け取っとけ。……母親の薬代になるんだろう? 色もつけてる。」
「……色?」
「そう、色。――お前の受け取り賃。」
「……。」
エイトはまだ何か言いたげにしていたが、肩越しに兄妹を見遣り、それからククールに視線を戻すと大人しく花束を受け取った。

「ははは。似合うぜ、エイト。」
氷の美貌を持った青年が大きな花束を一抱えしている光景を前に、ククールが笑う。
これなら宣伝にもなるだろう。なにせ、ククールがここへ近づいた辺りから、遠巻きにしていた人々が目を向け、耳を傾けていたのだ。その強い美貌にたじろいでしまい――理由は分からなくも無い――なかなか行動に移せなかったようだが、ククールとのやりとりで、この氷の女神様に対する「壁」は幾らか剥がれたことだろう。
そうなると、この小さな店の商品もあっという間に売れる――売り切れるはずだ。

(俺も一応は聖職者の端くれだからな。)
たまには、こういう“偽善”も良い。
花束に目を落としてじっとしているエイトの姿にどこか妙なおかしさを見出しつつ、ククールは声を掛ける。

「じゃあ、俺は行くから。あとは頑張れよ。」
そうして颯爽と踵を返し――かけたところで、腕を掴まれる感触があった。
「ん? なんだ?」
振り向こうとしたククールの、その左側。
すっと伸びてきたのは、しなやかな指先。耳の上あたりに風を通すかの如く差し込まれたかと思うと、ひと撫でしてからそれは離れた。
そよ風に似た軽い接触はしかし、ククールを動揺させるには充分でいた。

「お、まえ、……なにっ、を」
「――お裾分け、を。」
言葉をうまく継げないククールに、返されたのは咲き誇る花のような絶佳の微笑。
お裾分け?と滅多に見られない微笑にどきまぎしつつ、凪いだ風の跡残るこめかみの辺りに手を伸ばせば、耳の所で何か触れるものがあった。
ひんやりとした冷たい感触を持つそれは柔らかで、ククールはハッとする。

「これ、花か?」
「ああ。……赤い花を、ククールに。」
「おっ前なあ――」
「――似合うと、思った。」
抗議しかけたククールの言葉より早くに、艶やかな低音が重なる。

「似合っている。……お買い上げ、ありがとうございます。」
「……っ。」
氷の気配はすっかり潜められて。
感謝の言葉と共に向けられた微笑を前に、ククールはそれ以上何も言えなくなってしまう。
言えるわけがないだろう。
その接触はひどく甘く身を焦がし。
その浸食はひどく強く焼き付いて。


炎の熱気で空に舞い上がる蛾の残骸を見た気がした。


「……、……暗くなる前に、とっととそれ売り切ってしまえよ。」
捨て台詞めいた忠告を投げると、足早にその場を後にする。
背後から「ああ。ありがとう。」という声が聞こえたが、そこに氷の欠片は無かったと感じるのは都合のいい妄想かもしれない。

「女神のお膝元で悪戯をしかけたこどもに対するお仕置きか、これは。」と一人呟いたククールのこめかみ辺りで、赤い花が優しく揺れていた。

花束を君に。
その欠片を貴方に。

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