長くなったので折り畳み。
何となく突発乗り遅れハロウィン。11カミュ主で小話。
「よう相棒。Trick or treat!」
買い出しから戻ってきたセロの目の前に、そう言って降り立ったのは始まりの旅を導いてくれた青い髪の男。
海賊から盗賊を経て、今は肩を並べた隣にいる。相棒として。
黒いマント。仮装用のマスク。それを見てセロは、今日が収穫祭であることを思い出す。
買い出し先の町や村で見かけた屋台や灯りがいつもより装飾がかっていたのは、そういえばこのせいだったのか、と――気づくのに遅れたのは、偏に「勇者サマ稼業」のせいだろう。希望を目指して育った村を旅立ち、幾月。
勇者から悪魔の子へと称号が変異し、追われ、ああそれこそ色々な目に遭ったあの日々はもう昔話。魔王を倒し、失った命を掬う為に時を戻って再び魔王を倒し、今は平和になった世界では祭りごとも抜かりなく行われる。みながみな、喜びで溢れた世界を楽しんでいる。
――もう、肩の力を抜いて生きていいのだ。
分かってはいるが、そう簡単に「勇者サマ」を脱ぎ捨てられたら苦労はしていない。セロは荷物を持ったまま、長い間、木の上に居たであろう相棒に歩み寄る。
「いつからそこに?」
「さーてな。ま、そんなことはいいじゃねえか。」
扮装に身を包んだ相棒――カミュはセロの問いを受け流すと、彼の手から荷物を半分取って隣を歩く。
「これ、何の買い出しだよ?」
「んー……お爺様の腰に貼る薬草と、ティナの髪につける艶油と、シルビィがオーダーしていたスーツと、あとは……ベロニカとセーニャたちのお土産。」
「……お前はどこの配送人だ。――って、俺には? あと、グレイグのも何かあったんじゃなかったか?」
カミュが指摘すれば、隣を歩くセロの眉根が一瞬顰められた。視線を横へ流し、セロが呟く。
「……、グレイグのは、城に届くように手配してるから。」
この勇者様は盾の将軍の事に触れると、僅かに機嫌が悪くなる。世界が崩壊して皆と離れ離れになった期間に何やらあったらしいのだが、そこ頃はカミュ自身も記憶喪失になっていたので追及しようとは思わない。本当は、何があった!?何をされた!?と色々山ほど個人的に尋問したいのだが、この勇者様は下手につつくと蛇以上のものが出る。普段が優しそうな雰囲気と柔らかな物腰であるだけに、怒ると怖いのだ。(ほんとうにこわい)
カミュは質問を飲み込むと、空を見上げて別のことを言った。
「なあ相棒。俺には。」
「何が?」
「お土産的な何かは無いのか? それに、今日はコレだぜ?」
コレ、と言いながらカミュは自分のマントとマスクを指でつついてみる。するとそれを見たセロが「ああ」というような顔をした。
「とりっくおあとりーと、だっけ。」
「そうそう。」
「うーん。お菓子持ってたかなあ……ちょっと待って。探してみる。」
セロが足を止めて荷物を地面に置き、ポケットや鞄を探り始めた。
「薬草、と……木の実と……」
鞄に視線を落としてあちこちを探る勇者様の髪が、さらさら揺れている。絹糸を思わせる艶やかな髪。手触りが良く、何度か触れて指で梳いたことがある。主に夜の帳の中で。
亡国の王子。世界の勇者様。……美しい相棒は、この盗賊の手の中に。
「駄目だ、何もない。」
小さな世界の探索をようやく諦めた勇者様が顔を上げて、カミュを見た。
小首を傾げて、ふわりと微笑む。
「ごめん。お菓子ないから、イタズラしても良いよ。」
「……っ、お、前、なぁ……!」
てっきり「お菓子がないからどうしよう!?」と困惑して顔を赤くする姿でも見れるかと思ったのに、相手はあっさり降参してくれたのだ。
カミュはマスクを外してセロの肩を掴むと、顔を近づける。
「それ、どういう意味で受け取られるのか分かってるのか、相棒?」
「うん? 他にも何か意味がある?」
きょとりとして問い返すセロの顔は純真無垢な子供に似ているが、けれど口にする言葉は悪辣な糖蜜。カミュとの距離を自ら詰めて、息を吐くように囁く。
「今日は収穫祭だから、美味しく食べてもいいよカミュ。」
「~~~~っ!?」
心眼一閃。自らの技を返されて、落ちる盗賊。ああ一撃だ。
「ほんっとにどうしようもない相棒だよな、お前は!」
カミュは荷物を足元に集めると、セロの鞄から笛を取り出した。
「ほら。これであのクジラ呼んで。」
「なんでわざわざ……、ああ、荷物。」
カミュから笛を受け取り、聖獣を呼び出して空へ上がる。
流れる風の中、セロを背後から抱きしめた格好からカミュが言う。
「なあ相棒。」
「うん?」
「さっきの話に戻るけどさ、俺の分の買い物って本当に何もなかったのか?」
少しだけ沈んだ声で訊ねれば、腕の中の相手が微かに笑う気配がした。
「何だよ。そんな笑うこと――」カミュの言葉の途中でセロが振り返り、言葉を攫う――「俺がお土産じゃ、不満?」蟲惑的に微笑んで、唇に軽く触れるキス。カミュは目を丸くし、それから片手で口元を抑えて呻く。
「この、悪魔。」
「うん。知らなかった?」
月明かりの下で笑うその姿は実に小悪魔的で、自分はこの相棒に一生勝てないな、と思う。
せめてベッドの中では勝とう、と誓ったりなんだったりしたとかなんとか。
Trick or treat! ―― OK. Bring it on!
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以前、雑記に主人公設定らしきものを書き落としたんですが、あれから脳内で色々あり、
天然庇護系勇者様は、世界崩壊を経て、曲者小悪魔勇者サマへ変異(進化?)しました。
したらばこんな内容に。
ラスト英文は、「上等だ、かかって来い!」的な言葉になってます。
なので、カミュはベッドのほうでも負けると思われ。
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