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龍宴庭note

突発小話&気まぐれ雑記用。 詳細などは「Category」→「★ABOUT」に記載。
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【竜神王主drago】Rosa dea Glacies

■意外と影響がある

痛みのある箇所に気をつけて日々を過ごしていたら、今度は手首を軸に痛みだしたというちょっとした永久機関を体験中。人体の神秘をしみじみ実感(痛い)
そして、今のPCがそろそろ本格的にピンチで新PCに設定などを少しずつ手動にて引継ぎ中。
時間が足りない。

それはさておき。
先日の「十六夜誘い〜」内にあった「竜神王と一対一、素手で何があってそうなった」の小話を書き落とし。こんなことがありましたという余談。
実際の攻略だとほぼ運で、あとはちょっとした判断力が鍵だろうかとか、痛恨の一撃が裏ボスではなかろうかと思った今日このごろ。
(挑戦した他者の動画を鑑賞。)

以下、竜神王と氷の女神サマとのあれやこれ。
タイトルは「氷の薔薇の女神サマ」







女神は全てを持って行く――この心さえも、みな等しく攫いあげて。


茨の呪いを受けて時が止まっていたトロデーン城。
ツタに絡めとられ、彫像と化してしまった城内の人々にククールは祈ってくれた。
敬虔な祈りを捧げるその横顔は、正しい聖職者のもの。
エイトの視線に気づいたのだろう、祈り終えたククールがちょっとはにかみ、気まずそうに頭を掻いて口を開く。
『俺みたいなのが祈ったところで、こいつらが助かるわけでもないよな。……悪い、これは俺の気休めだ。』
そう言って、何も無かったようにふいと顔を逸らした彼の眼差しはそれでもやはり美しく、エイトはククールの本性に少し触れられた気がした。

『ひと目あったら友達で、会話をしたらみな家臣。これがトロデーンの掟なのじゃ!』
無表情で愛想の欠片も無い孤児に、いつも優しく声を掛けてくれたのは城主その人だった。
遠巻きにせず、他の者たちと平等に扱い、姫君と共に育ててくれた大切な恩人。

そんな彼らから手を引け、と。
手離して里に戻れ、と。
里長である竜神王が言った。

勿論、悪意はないのだろう。
分かっている。戯れからの誘い。彼の竜神王は単に己が興味を引いた人形を見てみたいだけ。
解っている。彼は偉大なりし竜神王。美しいだけのヒトガタに触れてみたいだけ。
だからエイトは誘いを断り続けていた。
恩人、友人たちが地上に在る限り、自分の帰る場所はここなのだと思っているから。
それ故に、幾度も持ち掛けられた提案は退け、示された条件は丁重な断りを入れて跳ね除けていた。
何度か繰り返し、幾度も過ぎた誘いの棄却。
それで済むのだと思っていた。
事実、何も確約せず通り過ぎる戯れ。

けれど――その日は違ったのだった。

始まりは父母の墓参にて。
一人ひっそりとそこを訪れ、献花をした後は密やかに地上へ戻る予定だったそこへ、唐突に姿見せたは竜神王。
人の姿でエイトの前に現れた彼の王は、いつものように戯れを持ち掛け、エイともまたいつものように断りを返す。
そうして踵を返し、その場より立ち去る――筈だった。
腕を掴まれ、強く引き戻されさえしなければ。
足を止めて振り向いたエイトは、冷たい笑みを湛えた竜神王と視線を交わすことになる。
氷の美貌を持つ青年を捕えた竜神王は、威厳のある声で話しかけた。
「エイト。そろそろ里へ戻らぬか。ここはお前の故郷、グルーノも孫と共に過ごしたいだろう。」
「……祖父殿は、俺の意思に――自由であれと、言ってくれている。それに、俺は咎人の筈では」
「ああ、それならば恩赦を与えよう。お前は他の人間と共に地上の平和を取り戻した上、竜の力を驕った愚かな王をも正気に返した。罪科は相殺されよう。里の者たちも納得する筈だ。」
「……、……俺などには勿体ないこと――だが、拝辞させて頂く。」
そう答え、離れようと竜神王の手に触れれば更に強く掴まれる。
神の制止。
エイトが僅かに眉を寄せて相手を見れば、竜神たる王は言う。
「では、手合せをしよう。……私とお前だけの一騎打ちを。」
「何故。」
「なに、いつもの戯れだ。……戯れなのだ、エイト。」
穏やかな声で語り掛ける竜神王の瞳はけれど冷めていて――どこか狂気を孕んでいるような?
エイトは掴まれた箇所に視線を落とし、それから相手に目を向けて問い掛ける。
「それも、辞退すると言えば」
「お前の祖父は、お前の帰る場所を守っている。――ならば、お前も守るべきではないか、エイト?」
婉曲な表現は、一見するとこの提案を受けなければ祖父を追い出すと言うような言葉に聞こえる。
けれど、彼の王の眼差し。
声音に反して瞳の奥にちらつく妙な光は、こう言ってはいないだろうか――「受けなければグルーノを手に掛ける」と。
ふっ、と血の匂いを嗅いだ気がした。
エイトは静かに息を吐くと、竜神王に答える。首肯一択、それだけを許された言の葉を紡いで。

例え相手が王だとしても。
例え相手が神だとしても。
偉大で強大な力を持った竜だとしても、それは決して引けぬ「戯れ」となった。


◇  ◇  ◇


(この男は化け物か。)
吹きつけられる竜の息吹。目も開けられぬ灼熱の炎の中をエイトは構わず突っ切り、そのまま竜神王に拳を叩き込んだ。
衝撃で上体をぐらつかせるも、竜神王は体勢を立て直した勢いそのままに強靭な尾を横に薙ぎ払った。
しかしそれは読まれていたようで、後ろに飛んで躱される。
砂塵舞い、熱気冷めぬ中で佇む美しい人影。
吐いた火は毛先を焦がし、その白い肌を焦がしたが彼の存在は怯まない。ふー……っと、静かに息を吐いてバンダナを外すと、ポケットにしまい込んで竜神王を見据える。
その瞳は冷たくも澄んでおり、憎悪や敵意は窺えなかった。
溶けない氷。水晶を思わせる透明感を持つその気配。
美しい眼差しにただ純粋な闘争心を宿し、彼の存在は、エイトは立ち向かってくる。
澄み切った氷塊。傷一つなく、溶けることもなく自らを武器にする。
致命傷を与えても、紙一重で耐えきり倒れない。それどころかベホマを唱えて傷を癒すなり、また拳一つで向かってくるものだから手に負えない。

……いいや、正直にいうならば「恐ろしい」。
己が命を躊躇うことなく刃にし、全くに引かないその姿勢が。
冷徹な女神の一片を垣間見て、竜神王は汗腺にじわりと何かが滲みだすような感覚がした。
オーロラを思わせる深い闘気を身に纏い、渾身の一撃を叩きこんでくるそこに慈悲は無い。
自らの拳も傷ついているだろうに、それには委細構わず挑みかかってくる。

美しき自己犠牲。
だが、ここまでくれば脅威でしかない。

「ぐっ……!」
何度目かの拳の乱打の後、切り替えて放たれた正拳づきが、竜神王の眉間を殴りつけた。
人の形態であれば見っとも無く鼻血の一つでも流していただろう。
渾身の一撃に一瞬ばかり目が眩むも歯を噛み締めて、どうにか耐える。
人の身の上で生意気な。
流石に仕置きが必要だと大きく口を開け、そら噛みついてやろうと――その白い肌に血を流せと――いわんばかりに飛びかかった、が。

どこにそんな体力があったのか。
エイトは既の所で身をかわし、鋭い眼差しで竜王を捉えたまま拳を握りしめる。
その姿勢から再度放たれたは会心の一撃。必殺の。
竜の巨体は大きく揺らぎ、やがて重力に従うかのようにその場にくずおれた。
顔を歪めて喉奥で唸っていれば、その竜の視界に人の足が映り込む。それは足音なく静かに近づいてきたエイトでいて、竜神王を見下ろす様に立っていた。

「……っ、見事だ、人の子よ。」
竜神王は荒い息の下からそう言った。絞り出した声に、どうにか王の威厳を混ぜて。
エイトはどこか憂いの表情で――これは己の願望か――地に伏す竜を見つめていたが、やがて片手を差し伸べて口を開く。
「……無礼千万、誠に申し訳なく。」
恭しくも、その態度は毅然としており悪びれた様子はない。
元より非などありはしないのだ。
炎で身を焦がされ、爪で肌を裂かれても氷の相貌を崩さず立っている青年を見ながら、竜神王はその身を人の姿へと変える。差し出された手を掴めるように。
「……戯れの、結果は。」
立ち上がった竜神王に、早速投げられたのは短い問いかけ。
苦笑を返し、竜神王は答えを返す。
「ああ、私の負けだ。お前の自由は守られた。――お前の祖父と共に。」
「……そうか。」
「――待て。」
頷いたエイトが手を離し、その場から離れようとするので竜神王が再びその腕を掴んで引き止めた。今度は拘束力もない力にて、丁寧に足を止めさせて。
「そのような身で何処へ行く。」
魔力が尽きたのか、エイトは傷を治していない。
それどころか体のあちこちの焼け焦げ、引っ掻き傷より流れる一筋の血などもそのままに歩き去ろうとしているので竜神王が止めたのだ。
その場に留めておいて、竜神王が質問を重ねる。
「よもやそのような状態で地上へ戻るのではあるまいな?」
エイトは答えない。
けれど、視線を伏せて逸らしたことが答えとなっていた。
竜神王は溜息を吐き――いやそもそも私が原因だ――エイトの腕を掴んでいた手を離すと、静かな声で言った。
「私と共に来い。その傷と衣類もどうにかせねばなるまいからな。」
「だが、」
「戯れ時は終わった。我が爪はお前に掛かりはせぬ。……来てくれるな、エイト。」
その誘いを持ちかけた竜神王の目から、狂愛的な色は消えている。
エイトは考え込むように少しの間、無言でいたがやがて考えを纏めたのか視線を上げて竜神王を見る。
「分かった。」
それでいい、と竜神王は頷き、手にした杖で地面を突いた。
シャン、と音がして眩い光が二人を包む。


◇  ◇  ◇


一人用にしては大きすぎるベッドの上に、エイトは居た。
縁に腰を下ろし、自分の体をあちこち見やって焼けた服の状態を確かめている。
怪我の痕はすっかり消えている。竜神王が癒しの魔法を唱え、治療を施してくれたのだ。
「お前の闘争心には感服するぞ、人の子よ。……いや、竜人と人との子だというべきか?」
「……どちらでも、構わない。」
素っ気ない返事を投げ、エイトはチュニックの襟や袖口を触っていたがやがて、ふうと静かな吐息を零して。
「なっ……エイト、お前は何を!?」
竜神王が思わず驚きの声を上げたのは無理からぬこと。エイトは何の前動作も無くチュニックを脱ぐと、その白い裸体を曝け出した。
癒しの魔法にて傷のない肌は白い陶器のように滑らかで、白い花のような清楚な美しさがある。
性別を超越した美。ましろなる宝石。だが当人はどうとも思っていないようで、焦げた服を手に立ち上がると竜神王に訊ねる。
「洗い場があれば、借りたい。」
「洗い場、だと? ……何をする気だ?」
動揺抑えつつ話す竜神王に、返されるのは予想外の言葉。
「これを洗濯し、繕おうか、と。……このままでは、詰問されかねない故。」
「は、……詰問とは、誰にだ?」
「……、……。」
しかしエイトはそこでふつりと言葉を切り、明かさぬままその場から立ち去ろうと背を向ける。
「待て、エイト――」
再度引き止めようと竜神王が名を呼び、その腕を掴もうとエイトに向かって手を伸ばせば相手が肩越しに振り返り――。

――氷の一閃。
言葉なく、視線だけで止められる。
スッと、見えない境界線を真一文字に引かれたような。
それは幻覚。だが、竜神王はエイトに向かって伸ばした手が自然と下がるのを自覚した。
感情の見えない無機質の、けれどもその瞳は何者に代えがたい程に美しく、冴え冴えとした冷気で竜神王を縫い留める。
硬直する目の前で、形のいい鮮やかな唇が言葉を紡ぐ。

「浴室を、一時借り受ける。……竜神王は、そこへ。」
――そこから動くな、というように。
抑揚のない声で淡々と告げると、エイトは浴場へ続く扉を開けて足音なく出ていった。
消える気配。
竜神王は深々と息を吐き、寝台の縁に腰を下ろす。そこは先程までエイトが腰掛けていた場所であり、ほんのりと温もりが残っていた。
無意識にその箇所に触れながら、竜神王は苦笑を零す。

「よもやここまで翻弄されるとは思わなかった。相も変わらず見事な人の子だ。」
触れられる距離にあるのに、触れさせない不可侵の女神。
頑なに心を開かず、中に踏み込むことを許さない。
その心は無慈悲な氷。その振る舞いは無情なる刃がごとく。
けれども、どうしようもなく惹かれるその存在感。

ああ、だからこそ引き止めたくなる。ここへ。この場所へ。
――この腕の中に引き込み、抱き寄せ、誰の目にも触れぬよう閉じ込めて。

「……全く、とんでもない形見を遺してくれたものだ。」
愛しい人の子。
まだこの手は届かない。
今は、まだ。

けれど、いつかは。


竜神王は薄っすらと笑みを浮かべ、捕食する獣に似た眼差しでエイトが姿を消した扉を見つめる。
扉の向こうの彼を思い、獰猛な笑みを浮かべ――しかしそれは霧散し――竜神王たる表情に戻ると、さてエイトが出てくるまでどうしようかと考えるのだった。

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