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龍宴庭note

突発小話&気まぐれ雑記用。 詳細などは「Category」→「★ABOUT」に記載。
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【クク主drago】手袋をした猫は女神を捕らない

■感情五連鎖

( ゚д゚)

(つд⊂)ゴシゴシ

(;゚д゚) ・・・

(つд⊂)ゴシゴシゴシ
  , .
(;゚ Д゚) …!?

丁寧な感想だけでなく、誕生祝いの言葉まで頂けて本当に嬉しいです!
そしてその後に続いたお言葉に、一瞬ばかり時が止まりました。途轍もなくいい意味で。
手前勝手ではありますが、惚れ惚れするようなユーモアと素敵な機知に富んだ感想から、とても感動する文章を書く方なんだろうなあと想像しているのですが、……クク主小説!
(デ、データ便とかありますがいかがでしょうかとこっそりお伺い)

返信は長くなりそうなので、後ほど。
先ずはメッセ内容がもう五体投地の勢いで物凄く嬉しかった勢いで御礼小話。

楽しんで頂けましたら幸いです。







俺は今、理性を試されている。

試しているのは神――ではなく。


それは正しく「目の前」という言葉が相応しい。
視線を動かすまでもなく、すぐそこにある美しい顔。
自身の造形に自信がないわけではないのだが、「これ」を前にすると途端にそうした評価は意味を失う。
いや、もとより優劣をつけるのがおかしいのだ。
「それ」の前では虚勢も何も必要ない。なにせ、当人からして無自覚なのだから。

「なあ、エイト……まだか?」
吐息が掛かるほどの近い距離。覆いかぶさるような格好でいるエイトを見上げて、ククールは囁く声音で問う。
すれば、相手が周囲に向けていた視線をククールに落として口を開く。
「ああ。……まだ、ざわめきが近い。もう少し、ここに在るほうが、いい。」
「お。おう。……わかった。」
囁く声を聞きとる為か、更に顔を近づけられたのでククールはさり気なく俯く。そうでないと、そのまま獣じみた行動をとってしまいそうだった。
透き通る氷の美貌を持った青年は、とにかく無防備でいけない。

――俺が少し顔を上げれば、お前の唇を奪えるんだぜ、女神様?
辺りを警戒する為に再び周囲に視線を戻したエイトを見上げるようにして、ククールは心中で溜息を吐く。
切っ掛けは、些細な――いや多大な?――ことだった。

ある日の昼下がり。たまたま街道で遭遇し、お互いが進んだ先にある町リブルアーチに用事があったので、同行することになった。
潮風が髪を揺らす。エイトは口数が少ないものの、その代わりにククールが話すので気まずくなることは無かった。もっとも、この兵士長が雄弁に語る姿など見たことがない。いつかのマルチェロのように登壇して、長演説を口にするのを見てみたいところではあるが。
そんな軽口を振ってみたところ、相手は少し沈黙した後で静かに首を振った。
「俺にあのような勇壮さはない。それに、ただの一兵士……人が集まるわけもない。」――そう言って。

いやお前、その美貌で何を言ってるんだよ。
思わずククールが心の中で突っ込んだのは言うまでもない。
だが食い下がることもしなかった。
人の目を引き、興味を持たせてどうする?

――コイツの隣にいるのは俺だけでいい。


◇  ◇  ◇


そうして辿り着いたリブルアーチ。
あまり良い思い出はないが、引き摺っていては前に進めない。それぞれの用事を済ませ、後で合流しようと約束し、入口前にて一旦別れた……が、単独行動は避けるべきだったと気づくのは面倒に巻き込まれてから。

「いたか!?」
「駄目だ、いない。そっちは!」
「こっちも見なかった。まだ町の外には出ていない筈だ! 探せ!」
どたどた、ばたばたと。
石畳の上を数人が駆け去っていく。
彼らはこの町の彫刻師であり、そして目の肥えた芸術家であった。――それ故に、一級の、いや極上ともいえる美を見つけてしまっては何もしないわけもなく。……黙って見過ごすには、とかく「それ」は強すぎた。

「はあ、はあ……せめて、せめてっ……あの優美な肢体の、輪郭だけでも、いいか、ら……型に採りたい……っ!」
「ぜぇ、ぜぇ……ええ、ええ。この腕で、完璧に表現できるとは、思わない、けれど、……デッサン、だけ、でも……っ!」
それぞれの手には、石膏液やクロッキー帳といった創作物を形にするものが握られている。
彼らは芸術家。そこに邪な情はなく、自然に込み上げた激情に駆られ、または扇動されるように沸き上がった意欲によって、純粋に二人の「芸術品」を探し回っていたのだった。

ハワード邸の中にある館主像。その裏側に、ひっそりと寄り添う影が二つ。
よほど目を凝らさねば見つけられない一角に、エイトとククールは逃げ込んでいた。
「意外としつこいというか、根性あるよな、あいつら。」
右に左に駆け回る芸術家たちを見ながら、ククールは呆れた声で言った。勿論、小声で。
遮蔽物にしている像の背に片手を付き、ククールに覆いかぶさるような形でいるエイトが頷く。
「ああ。……見事な情熱だと、思う。」
「情熱……あー、まあ、そうか。あいつらのは、そうだよな。」
少なくとも下卑た欲望からのものではない。
ククールはどこかホッとして溜息を吐く。嫌な過去が過ぎりかけたので、エイトに意識を戻してそれを振り払っておいた。この状況で――氷の女神のお膝元ならぬ胸元近くで――気鬱になるのは面倒だし、「よそ見」をするなんてもっての外だ。

「それにしても、今までも度々この町には来てたってのに、なんで今日はああも大勢がその気になったんだろうな?」
ククールはそんな軽口を叩いたが、何となく答えが透けて見えてはいた。

――俺たち二人だけだからだ。

旅をしていた時は、二人の間には大抵誰かがいた。それはゼシカだったり、ヤンガスだったりで、今のようにククールとエイトが肩を並べて歩くことはほとんどなかった。
その上、当時のエイトはもう少し前髪を伸ばしていて顔を隠すようにしていたし、立ち振る舞いも気配を無くしたように希薄で、人の目を引かないようにしていたのもある。
この女神様は完全に線を引いていたのだ。誰も近づけないような、強い氷の気配をもってして。

怜悧な眼差し、氷の双眸。――全てが冷え冷えとしていた極上の美貌が主。
常に一人、一人きりでいるような青年だった。……単に兵士として、主君を守るが為の姿勢でいただけなのかもしれないが。
しかし、それも昔。今のエイトは幾らか氷が解けたようで、他者を強く拒絶する気配を纏うことはあまりない。それに加え、今回は隣に顔立ちの良い男が並んでいて――自分で言うのも何だが、事実だろう?――相乗効果が出たのだ。だから直ぐに衆目が集まり、その存在はたちまちのうちに周知され――そうして始まったのだ、他愛のない「鬼ごっこ」が。

潜み隠れて、鬼さんコチラ。
手の鳴るほうへ。

「ククール。」
不意に、氷の声に名を呼ばれた。
ハッとして意識を戻したククールは、少し顔を傾けて己を見つめているエイトと目が合う。
「え、あ、何だ?」
「……喧騒が、遠くなりつつある。」
「けん? ……ああ、言われてみれば。」
耳を澄ませば、つい先ほど前にあったざわめきや雑踏の音が小さくなっているように感じた。あまりにも見つからないので飽きたのか、それとも時間が経過したことによって幾らか落ち着いたのかもしれない。
手は鳴った。これでオシマイ、と。

「じゃあ、――」
今のうちに町から出るか、と言いかけたククールの言葉は途中で止まる。

すぐ前には、氷の女神様。
その体勢はまるで相手の方から迫るような形であり、傍からは煽情的に見えるだろう。

少し手を伸ばせば、充分に捕まえられる距離。
少し首を伸ばせば、大胆な行動に挑戦することも出来る状況。

「なあ、エイト。」
「……なんだ。」
見下ろす相手の左頬に掛かる艶やかな髪をひと掬いして、ククールは吐息めいた囁きを投げる。
「もう少し、ゆっくりしていかないか。」
「……ここで、か?」
エイトが微かに眉を寄せる。相手の疑問は尤もだが、ククールはこの「現状」をもう少し楽しみたいわけで。
「散々走り回って足が疲れたんだよ。」
「ならば、俺が――」
上体を離したエイトが、ククールの腰に腕を回す。

――いや待て、何をする気だ女神様?
眼差しで問えば、相手はククールに身を寄せて。
「……俺が、運ぼうかと。」
「……止めろ。」
忘れていたわけではないが、この美しい兵士長殿はこれでも竜神王と手合せをして勝利している。……しかも、何度目かに素手で打ち負かしたと聞いた気がする。
体調を労っての台詞なのだろうが、なんというか、この女神様に抱き上げられるのは許したくないと思う自分がいる。勿論、「お前は正しいぜ、ククール」と自己終結しておいた。

「気持ちだけ受け取っとくよ。ありがとな。」
「……そうか。」
少しがっかりした声で聞こえるのは幻聴だろう。
腰を抱くエイトの腕を、さり気なく外す。むしろ自分の方から腕を伸ばし、エイトを抱き寄せた。
「……ククール?」
「あー……いま、通りの端を誰かが横切ったのが見えたもんでさ。隠れなきゃ、だろ?」
「誰か――」
ククールに腰を抱かれたまま、エイトが上半身を捻じって肩越しに背後を見遣る。
人の気配はすっかりなくなったように感じられるのだが……?
内心でエイトが首を捻っていれば、「エーイト」と名を呼ばれたのでククールに視線を戻す。
「どうした。」
「その姿勢、疲れるだろ? 俺の膝の上に座ってもいいんだぜ。」
ククールにまたがるようにして両膝をついた姿勢でいるエイトに対してそう言えば、相手は少し首を傾げて考え込む仕草をした。
やや間を置いた後、返すのは否定。

「……気遣いは有難い、が……咄嗟に反応できなくなる故、止めておく。」
「この状況で、それかよ。そこまで兵士然としなくてもいいだろ……。」
少し、いや盛大にがっかりしてククールはエイトを見返す。

腕の中に閉じ込めても崩れない氷の花。
一線を踏み越えるのは許さないというその態度は高潔だが――物足りない。

まあこういうところが好きなんだけど。
……そういうところも好きなんだから、しょうがないだろ。

あー、俺って面倒くさい。

内心で独りごちつつ、それでも、どさくさ紛れにエイトにぎゅうと抱き着く色男。相手の肩口に顎を乗せ、その首筋に顔を埋めてそのままでいれば、頭上で溜息のような――呆れたような?――気配がした。
それは母親にしがみ付く子どものものか。
それとも女神に縋る教徒のものか。
エイトが何も言わず、また特に突き放すこともしないのを良いことに、町の片隅で静かに甘える銀色の獣。

ふと目を上げれば、エイトの背後――その向こうに、女神像。
両手を広げ空を見上げるそれは何を祈るのだろう。
子どもの頃の願いは、祈りは、届かなかった。
手を伸ばしても何も掴めなかった。

けれど、いまは。
ここに、この腕の中に。
願いが、祈りがあって。

(あんたよりもコッチの女神様のほうが、ずっと上等だぜ?)
ククールは顔歪めて苦笑し、また目を伏せてエイトの首筋に顔を埋める。
そんな中で、ククールは考える。いまこうしている抱擁相手はどんな気持ちでいるのだろう。どんな顔をしているのだろう。
戸惑っているのか、呆れているのか、それともなんとも思っていないのか。――何も想ってはくれないのか。

見返りはけれど求めない。
自分の方から求めればいいのだから。

(でも、いつまでもこうしてはいられないよな……。)
これでもなけなしの理性はある。その身に深く爪を立てたいが、そうすればきっと肩を並べて歩くことは出来なくなってしまう。側に居ることすらも許されなくなるかもしれない。

(なあ。俺は良い男だろ、エイト?)
どうしようもない自画自賛。
すっかり静かになった周囲に気づき、あと少ししたら離れようと心に決める。
あと十秒、あと九秒……。
(ほら。ちゃんと我慢が出来るんだ。なあ、だから、さ……。)
無意識にしがみつく力を強めて、ククールは心の中で問いかける。

(……無関心ではいないでくれよ、女神様。)

月光に咲く花のように凛呼とした孤高の龍。
透き通る湖面に浮かぶ月のように幽玄な儚さのある青年。
およそ人ならざる者めいたその風体、その相貌に、他者は畏怖を抱いて遠巻きにするだろう。

(俺は、違う。こうしてお前に触れる。触れることが出来ているんだ。だから――)
鼻先を微かにくすぐる甘い香りは、何だろう。
「……なあ、エイト。お前、何かつけてる?」
つい気になったので訊いてみた。姿勢はそのままで。
相手が、何のことだ?と首を捻ったような間があったので、ククールは補足する。
「良い匂いするから。……俺と会う前、どっか寄った?」
「……。……ああ。」
そういえば、とエイトが頷く。

「マイエラに。マルチェロに、用があった。」
「……。」
微睡む時間が、一転して冷たく凍る。

じゃあこの匂いはマルチェロの香水か?
残り香が身につくようなことといえば、一つしかない……。

「――っ。」
堪らない気持ちになって、きゅっと唇を噛みしめるククール。その内心を知ってか知らずか、エイトが腕を持ち上げてククールの背を叩く。
「お前の分も渡してある。……心配は、いらない。」
「え? ……は?」
返された言葉の謎にククールが思わず顔を上げれば、エイトが首を動かして視線を合わせる。

「予算の、書類だ。……俺に試算の確認をして欲しいと、依頼していただろう?」
「……。……。……ああ。」
そういえばそんなことも頼んでいたな、と半ば毒気を抜かれてククールが茫とすれば、背中に触れる手が動いてそれは撫でる動作となった。唐突な愛撫にククールが別の意味で固まっていれば、耳元でエイトが囁くように告げる。
「マイエラの前に、バウムレンのとこへ寄った。……さくらんじゅと共にあったから、その芳香が残っているかもしれない。」
「さくらんじゅ……。」
さくら。
そういえばあの大木の魔物は柔らかな色彩と凶悪な面貌とは裏腹に、微かに甘い香りをしていたような。
危うく下らない嫉妬心でどうにかなるところだった。
――いつかマルチェロに言われていたではないか。「お前はあいつが絡むと盲目になる癖を直せ」と。

「……見えてないつもりは無かったんだがな。」
説得力ゼロの愚痴をこぼし、ククールはまたエイトにしがみ付く。

「なー、エイト。」
「……なんだ。」
「……俺、もっといい男になるよ。」
「……既に充ち足りていると思うが。」
「ははっ、そうか。でも足りないんだ。俺は全然足りてない。」

――そしていつも、お前不足だ。
泣き笑いに似たその顔は、エイトの肩に埋めているので見られることは無く。

ともかく、エイトはそうしてククールの気が済むまで町の片隅にて抱き着かれているのだった。


「ククールって猫っぽいのに時々犬っぽいんだよなあ。」とは誰かの心の声。

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