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龍宴庭note

突発小話&気まぐれ雑記用。 詳細などは「Category」→「★ABOUT」に記載。
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【クク主drago】黄昏時に交わすは約束と抱擁

■土下座えもん。

>ryure様
_( ;ω; 」_)_ スミマセン、未返信のものがあるのに気づきました!

自分の迂闊っぷりを発見し、平身低頭する次第です。
詳細に対する謝罪は後回しにさせて頂き、先ずは感想感謝の小話をお届けしたく。


以下、稚拙ではありますがお楽しみ頂けましたら幸いです……!








それは夕暮れ時の窓辺にいた。

マイエラ所属のとある大図書館。
その片隅の一席に、ひとりでひっそりと本を読んでいる青年がいた。
彼の側には本が何冊か積まれた状態であり、それぞれ左右に積み重ねられている。
何を読んでいるのかは、この距離からでは分からない。
ただ分かるのは、その際立つ美しさだけ。
ぞっとする美貌は相変わらず氷のように硬質で、周囲の人々と喧騒を遠ざけている。

切り取られた静寂の世界。
閉じ込められているのは氷の麗人。

誰も彼もが遠巻きに、けれども視線と意識をなかなかに外せずに眺めているなかでただ一人、銀色の長髪をなびかせながら風を切るようにして颯爽と近づく者がいた。
気配に気づいたのか麗人が顔を上げたのを見計らって、銀の髪の男が片手を上げる。
「よお。探したぜ、エイト。」
「……。」
エイトが本を閉じて相手を見上げる。
氷の気配が微かに収まり、少しだけ柔らかくなったのを誰が気づいただろう。
エイトと呼ばれた青年の隣に銀髪の男が並べば、周囲から、ほうっと感嘆の息が零れた。
それはまるで一枚の絵画のようで、芸術家が多い町の住民が目にしたら喜びにかっ飛んでくるだろう絶景であったが、知らぬは当人ばかりなり。エイトと銀髪の男は、そのまま言葉を交わし始める。

「午前中に城の方へ寄ったんだけど、お前、居なかっただろ? どこ行ってた?」
銀の髪の男は隣に腰掛けると、その綺麗な顔に不満めいたものを浮かべてエイトの肩に寄りかかり、軽く頭をぶつけた。きゃあ、と小さな歓声。
エイトは相手を一瞥し、首を僅かに傾げる。
「何か危急があったのか。」
「……いや、そんなんじゃねぇけど。ただ、……あー……最近、会ってなかっただろ? だから、どうしてるかなって思ってさ」
らしくない、とばかりに頭を掻いて苦笑を浮かべる男に、エイトは淡々と答える。
「どう、とは……俺ならば、いつもどおり、城の勤務をしていた。……今朝は、リーザスの方に。」
「リーザスに? ゼシカの用事か?」
「……万霊節が前夜祭――ハロウィンの相談に、乗っていた。」
「あー……そういやもうすぐか。」
エイトの肩口にさり気なく凭れかかったまま、男が言い返す。
「じゃあ俺の所も、ゴルドの見回り当番くじがそろそろくるな。」
「……くじ引きなのか。」
「表向きはな。……ま、最終的に団長殿と副団長がすることになるんだけど。」
そう言ってやれやれと肩を竦める男に、エイトがまた首を傾げる。
「仕組まれた勝負事か。……何故、そのような手段を?」と疑問を口にしたエイトに、男が上目遣いに視線を向けて苦笑する。
「部下たちに気兼ねなく休んで欲しいっていう、『偽善』だってよ」
「……マルチェロが?」
「そ。団長殿が。俺の兄上様は、素直じゃないもんで。」
そう言って肩を揺らし、男がくつくつ笑う。
普通に休日として全体に公布すればいいだけだというのに、あの堅物で皮肉笑いの似合う腹違いの兄弟は殊更己を悪く見せたがる。かつて世界を敵に回したことに対する償いか。……愚かしい程に融通の利かない兄貴だよな、本当に。
そんな考えを心中で零し、エイトに凭れかかった格好で瞑目していた時だった。

「……ククール、お前たちは偉いな。」
穏やかな声と共に、ぽんと頭を――撫でられた!?
驚いて目を開けた男は――ククールは、顔を上げた先にて絶佳の微笑を見る。

「己が忙殺と引き換えに、部下に安らぎを与えるのだろう。……偉いな。」
「……いや、そんな、大したことじゃねえ……だろ。」
意外な反応に思わず目を逸らすも、結局はまたエイトの微笑を見たくて視線を戻してしまう。
すれば、ご褒美とばかりにしなやかな動作で手が伸びてきて、ククールの頭をひと撫で。
「……お前なあ。俺の方が年上なの、解ってる?」
「ああ。知っているが。」
何を当たり前のことを?と真面目に問い返され、ククールは言葉を詰まらせる。
少し離れた場所から、きゃあきゃあと密やかな歓声が聞こえてくるものの、ククールの意識はもうすっかり目の前の女神に捕らわれてしまっていて動けない。
元よりこの場所、彼の女神の隣を譲る気など欠片も無いが。

「……なあエイト。お前、ハロウィンの日って空いてたりする?」
「否。確か、内勤が入っている。」
「は? 内勤? 外じゃなくてか?」
「ああ。昨年は、俺が外勤に出ると……周囲に、暴動が……起きてしまった、ので」
「あー――……」
項垂れたエイトを見て、ククールは思い出す。

祭りも兼ねているから騒動が起きるかもしれないと、安全確認の為にエイトが見回りに出掛けたところ、訪れた先々で熱狂的な歓声と歓待とそして狂乱的な集合を招いてしまい、城に戻ったエイトはトロデ王から叱責を受けたのだ。
エイトに非はないのだが、そこはやはり兵士という職務上、混乱を招いた元凶として処分しなければならなかった。エイトは特に異を唱えることなく素直に従い、沙汰を待った。
トロデ王はエイトに謝罪した上で、与えられたのは七日間の自宅謹慎。
城の自室で兵装を解いて片付けているエイトの元に、ククールがやって来たのはそんな時だった。
「事情は大体聞いた。な、エイト。マイエラの仕事手伝ってくれないか?」
「俺は、謹慎処分を――」
「表面上の、だろ。トロデの王様には話を通しておくって――マルチェロが。」
な、行こうぜ。
そう言って、半ば強引にエイトの手を掴んで城から連れ出し、七日間きっちりしっかり遊び倒し――もとい、共に肩を並べて仕事をし、時に屋敷に寝泊まりして謹慎期間を過ごしたのは記憶に新しい。

――エイトには悪いが、あれは楽しかったなあ。
ククールは不埒な思考で、誰ともなくうんうん頷く。
朝から晩まで同じ空間に居て、同じ屋根の下に居て、そして夜は一つのベッドで寝た。大の男三人、というともすれば暑苦しい構図ではあるが、特注の寝台なのでぎゅうぎゅうになるほど狭くはない。
それでも。

……それでも、身を寄せ合うようにして眠ったあの時間は心地よかった。
邪なことは一切なかったのが不思議なくらいに、三人揃って穏やかな時間を過ごしていたのだ。
とはいえ、眠っているエイトの隙を突いて少しばかりの「慈悲」は頂いたわけだが。

キスくらい良いだろう、女神様?

(またああいう時間を取りたいんだが、生憎と俺たちもこいつも、お互いに忙しいからなあ。)
そういう職業かつ身分上、どうしようもないこととはいえ日々が過ぎゆくごとに物足りなさが募っていた。
積もり積もって、今回のハロウィンだ。
どうにかして彼の女神様の時間を貰い受けることはできないだろうか。

「なー、エイト。」
「……何だ。」
「マイエラの仕事、手伝ってくれねー?」
「……内勤がある、と言わなかったか」
「言った。聞いた。でもさ、それって、お前じゃなくてもいいんだろ? だったらさ、こっち来て、手伝ってくれよ。今年は孤児院関連のこともあって、猫の手どころか女神様の御手を借り受けたいんだ。」
「……。」
エイトが無表情のまま、沈黙する。
あー、これ試行錯誤してるな、とククールは思った。この女神様は人情に甘いところがおありになる。
――なので、色男はその御心に付け込ませてもらうことにした。

「孤児院でお菓子を配るんだけど、俺はともかくマルチェロはちょっと顔が怖いから、子供が泣いちまうかもしれないだろ? だから、エイトの手が――」
「――あれは優しいだろう。何もしなければ、泣かれることなどない筈だ」
「……お前の評価、どうなってんだよ。」
まあ、ちょっと嬉しいけど。――じゃなくて!

「あいつのことは置いとけ。それよりも、手が欲しいんだよ! な、女神様。手伝いに来てくれよ。な? なあ、エイトー。」
ここはもう、情の勢いに任せてしまえ!とばかりにエイトの横から抱き着く色男。
また遠くできゃあだのぎゃあだの聞こえてきたが、構いやしない。
この女神様を落とせるならば、どんな手段でも使ってやる。
手練手管、こうした手口は慣れたもの。……いつしか慣れてしまっていた。嫌悪すらしたというのに。
(最低なのは分かってる。でも、コイツが側に居てくれるなら俺は、どんなことでも――)


「無理はするな。」


冷たい声に、ハッとする。
思わず身を離せば、氷の眼差しがククールを見据えていてドキリとした。
「え、あ……悪い。調子に乗っちまった、な?」
流石に悪くふざけすぎたか、と反省して離れようとすれば、その腕を掴まれて――引き寄せられたは相手の腕の中。

え?
ええ?
えええ?

遠くのほうで歓声が一層ざわめいたらしかったが、ククールの耳には聞こえない。エイトの心臓の音以外には。
混乱で硬直するククールに、頭上から囁く声が降る。

「そのようなことをしなくても、俺は、お前たちを助ける。……故に、いつも通り、城を通して依頼するといい。」
「あ、……ああ。そう、か――そうか。そうだよな。」
そうだった。この女神様には媚態も何も必要ないのだ。
手を伸ばせば、掬い上げてくれる。ああ、そうだった。

「悪い、エイト。何か、俺――」
「――構わない。俺を探して、疲れたのだろう? ……すまなかった。」
「……、……そうだな。お前を探し回って疲れたから、馬鹿なことをしたんだ。」
だから責任とってくれよ、女神様。などと軽口を零せば、相手が微かに笑う声をククールは聞く。

「ああ。」

たった短い承諾。けれどもそれで充分だった。
今は、ただそれだけで――この温もりだけがあればいい。


「抱擁する美形とか! なにこれ、何のご褒美!?」
「ちょっと、静かにしなさいよ! 司書の方に怒られ――ああ、でも素敵! なんなのあの二人!」
「赤いバンダナを巻いている方は確か、トロデーンで見かけたわ。」
「えっ、あの人、兵士なの!?」
「長髪のほうはククールよ。あいつ、最近酒場に来なくなったと思ったら、あんな――あんな綺麗な人とか、勝てるわけないでしょう!」


きゃあきゃあ、がやがや。
離れた本棚や柱の影から、女性陣の興味と衆目をしっかり引き付けた二人は後日、マイエラ修道院の団長殿に呼び出されて軽く説教を受けるのだがそれはまたいつかの話。



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