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龍宴庭note

突発小話&気まぐれ雑記用。 詳細などは「Category」→「★ABOUT」に記載。
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【マル主drago】花冠を貴方に(裏面)

■色々嬉しくて散々じたばたした挙句に。

ようやく書き上げることが出来ました、マル主版。
感想が嬉しくて嬉しくて嬉しくて、再度調子に乗りました。
なぜだか断片ばかり思い浮かんだので、それを右往左往しながら継ぎ接ぎしたりしつつの小話ですが、宜しければ以下よりお楽しみ頂けましたら幸いです。






どうにか商品の全てが売れた頃には、既に日が傾き始めていた。
母親の薬の代金を支払ってもまだ余裕がある。それもこれも、なぜだか急に増えた買い手のお蔭である。

お客様は、神様です。――そんな言葉が思わず浮かぶほど、花束と花冠は売れに売れた。
むしろ途中で早々に売り切れてしまい、慌てた兄妹が荷台に積んでいた花(売れなければ、教会に寄付してそれで少量の金とパンを貰うつもりだったらしい)を取り出し、エイトが売り子をする側で、商品をその場で作り始めることになった。
そのせいか、ありがたいことに荷台は空っぽ。空いたスペースに持ってきた机を置けば、あとはそれだけで積み込みは済んでしまった。

後に残ったのは、エイト。
なにせ、売っていたのは造花ではなく生花。それ故に、地面には花や葉が散らばっており、それを片付ける為だった。
最初、兄妹も手伝いを申し出たのだがエイトが断ったのだ。暗くなる前に子供は帰るべきだ、と言って。
この辺りの治安は悪い方ではないのだが、それでも万が一だ。
途中でエイトとのやりとりを聞いていたのだろう、荷台に荷物を載せるのに手を貸してくれた壮年の男が、自分が安全に送って行くと名乗りを上げた。
いわく、「女神様に心痛を与えるのは良くねえだろ?」と笑って。
それを聞いたエイトは安堵し、「ありがたい!」とばかりに両手を合わせて黙礼を返したのだが、相手は顔を赤くして後退った。――「礼なんぞ不要です、女神様!」
「???」と疑問符を浮かべるエイトだったが、相手の男が地元民だというのに気づき、「信仰心が高くて女神様の神託でも聞こえたのかな」と気にしないことにした。

「女神さまー、ありがとーございましたー!」
「ありがとーございましたー!」
笑顔で礼を言う兄妹を乗せた荷台が、遠ざかっていく。

今日は疲れた。とにかく疲れた。
だが、あの幼い兄妹たちの力に少しでもなれたと思うとそれも心地いい疲れだ。
エイトは片手を軽く上げて彼らを見送った後、近くの酒場の店主から借りた掃除道具を手に、黙々と清掃を始めるのだった。

そうして片付け終えた頃には、すっかり日も沈んでいた。
町角に点々と灯るカンテラ。
中央に位置する教会の前には、女神が空へ還るための送り火が焚かれている。
ここの後夜祭は遅くまでやるんだなー、とエイトはそれを遠巻きに眺める。
今日は慣れない接客業をして、非常に気疲れした。
もともと、対人があまり得意ではないほうだ。
そのせいか、人気のないこの場でしばらく静寂に浸りたかった。

ふと空を見上げれば、綺麗な満月。
――そういえば、昔はよく部屋を抜け出して月光浴をしていたなあ。目を閉じ、エイトは静かに息を吐く。

寂しくなった時は、こうやって夜に独り歩きをして気を紛らわせていた時期があった。
その際、トーポが同行したげに纏わりついて来たのだが、夜更しさせるのも悪いと思って彼の小さな友人には留守番を頼んでいた。
しばらく経ってから部屋に戻ると、勢いよくエイトの肩に駆け上がり、その小さな体を擦りつけて来た。まるで子供をあやすように。……孫を慰める祖父のように。
エイトは、そんな大切な友人を見て何か思うことがあり――心配かけちゃ駄目だよな――ある時から、「趣味の散歩をしてくる」と一言告げてから出掛けるようにしたところ、トーポの行為は治まったのでやはり無断外泊が問題だったのだろうと納得した。

実際のところは、トーポはエイトが孤独のあまり悲しい行動に出るのではないかと危惧しており、それ故に夜間の外出を必死に止めていたのである。
祖父の心、孫知らず。――それも今は昔。現在は、極少ながらも微笑らしきものを浮かべるエイトを見かけることがあり、それで幾らか安心して静かに見守ることにしたようだ。……依然として、祖父の心、孫知らずのままではあるが。

そんな経緯があったものの、月光浴はエイトの数少ない趣味の一つであった。
遠くで聞こえる歓声も、そこに集まる衆人の目も、今この場所には届かない。
遠くで爆ぜる焚火の音が、そこから差す篝火のような灯りの端が、少しだけ静寂に侵食してはいるが――それだけ。
人々は大きな灯りに引かれて集い、建物の影にひっそりといる女神の存在をすっかり忘れてしまっていた。
だが当人にとってそれは僥倖でしかなく、密やかに夜の闇に気配を沈めて月を見る。

――ふと、背後で人の気配がした。微かに砂利を踏む音も。
それらに引かれるようにして振り返れば、視線を向けた先には見知った人が居た。

「マルチェロ。」
あれ、珍しい。今の時期は管轄下での祭事の予算照会やら監査請求やらが増えるから忙しい、とか言ってなかったっけ?
もしかして、マルチェロも息抜き? 今日は月が綺麗だよー!――などというひょうきんな内面などは当たり前だが表には出さず(出すことなど出来るわけも無く)、エイトは近づいてくる相手をじっと見つめる。
何故ココにいるのか、と聞かれたので「趣味の一環で、月光浴を楽しんでいました!」と返そうと思ったが、問われているのは「この村に今いる理由」だと気づき、考え直して返事をした。
たまたまこの近くを通りがかったら祭りをやっていたので、なんとはなしに足を運んだら、物を売っている子供たちを見つけてしまったこと。
事情を窺ったらもうその場を立ち去ることなど出来ず、商品を完売させるために頑張ったこと。
(途中でククールが手を貸してくれたので目標を達成したが、その件は省いた。……なぜだかククールの名前を出すと、顰め面になってしまわれるので。)
そんな長々とした経緯は、しかし口下手が災いして非常に短く、端的になってしまったがそれでもマルチェロは理解してくれたので助かった。

(ククールといい、マルチェロといい、俺の分かりにくい説明をよく理解してくれるなあ。……告解で慣れているから、こうも聞き取る能力が高いのかなー。すごいなー。俺も見習いたいー。)
エイトは無表情の下で感心しつつ、子供たちからお礼に、と貰い受けた花の冠を何とはなしにいじる。
すると、その動作はマルチェロの注意を引いたようだった。
「子供たちから“手伝い賃”を貰い損ねて、落ち込んでいたのか?」
あ、れ。
なんか、俺の気のせいだったら悪いんだけど……子供扱いされなかったか。
こ、これでもちゃんとそれなりにお給料を貰ってる兵士長なんですけど! そりゃあ、マルチェロの身分に比べると低賃金かもしれないけど!
あと、年下からお金を巻き上げるようなことはしません! 
それに、この花の冠は手伝い賃の代わりとかじゃなく――……。

「これは、礼だ。純粋な。」
子供たちの献身が報わることを願った俺に対する、ご褒美なのだ。
彼らは俺なんかを頼ってくれたから、俺も頑張った。それだけだ。そこに余計なものは挟みたくない。
あったのは、単純な行為と純粋な厚意だけ。……それだけなんだ、マルチェロ。
その事実は絶対に伝えたいことだったので、俺は今日何度目かの「頑張り」を発揮する。
マルチェロにちゃんと届くように近づいて、そして告げる。

「俺は、願いを受けて動いた。――それだけだ。」
単純明快。金銭がどうとか、それで落ち込むとかじゃないんだ。……いや、まあ、最初の方は全然売れなくって落ち込んだけど。なんなら、内心で泣いてたけど、俺。

とにかく真意が伝わって欲しくて、俺はマルチェロを見る。
じっと見つめる。
目は口ほどにものを言う、という諺に従って、ただただ凝っと視る。
――俺の祈りは届いてくれただろうか?
マルチェロはというと、眉間に皺を作って口元を歪め、暫く押し黙っていた。
俺の祈りは、言葉は届かなかった?と不安を感じた頃だった。相手が口を開く。

「なぜだ。なぜ、お前は――」
その後の言葉は何故か紡がれず、代わりにマルチェロは話し始めた。
それは自身が抱える悩みか、嘆きか。
俺なんかの思考では到底計りかねない“何か”だった。けれども、なんとなくだが、感覚的に感じたのは……。

マルチェロも、寂しいのか?

俺の反応を待たずに吐き出されるそれは、まるで懺悔のような告白でいて。
聖職者といえども、人間だ。
疲れてどうしようもないこともあるだろうし、泣きたいこともあるだろう。
自棄になったように言葉を吐いているマルチェロに、俺は自分が言いたいことを伝える。

「お前の中にも、美徳はある。」
少なくとも、俺よりもずっと頑張っていると思う。いや、頑張るとかそんな簡単なことじゃないんだろうけど、けれども、マルチェロが己を卑下しているように見えたので遣る瀬無かったのだ。
今度は俺の言葉は届いたのか、マルチェロが喋るのを止めて俺を見返した。
さて、もっと元気づける方法はないか――と考えあぐねていた俺は、自分の手が持つ存在に気づく。

祭の最中、人々がそれぞれに花冠を手にして、他者にしていた行動が丁度脳裏を過ぎった。
女神様が還る前に。
その欠片を。

「――貴女に祝福を。」
「……っ!」
マルチェロの頭に、花冠を載せてみた。町のあちこちで聞こえていた台詞と共に。
子供の遊びの延長に似た行為に、エイトは正直、怒声を浴びる覚悟をした。
けれど。
マルチェロは叱責しなかった。ただ深々と溜め息を吐いた後、自分神殿騎士だからこうしたものは間に合っているのだと言った。

ああ、そうか。
ならば、と。

エイトは、かつて彼の弟にされた行為を思い出し――マルチェロの手をとり、その甲へ唇を触れさせた。
手の甲に対するその行為は、確か尊敬と敬愛。
エイトは常日頃、忙殺じみた生活の中にあっても毅然と振る舞っているマルチェロを見て、凄いなあ、俺もああいうふうに格好良く生きたいなあ、と憧憬の念を抱いている。
だからこそ、そうしたのだが――いまいち上手くいかなかった?

マルチェロがまた一段と大きな息を吐いて額を押え、どこか遠い目をしていたが、やがて首を横に振り、エイトに視線を戻した。
「お前はどうする。最後まで祭りを見ていくのか。」
問われ、エイトは今なお賑やかな焚火の向こうを見、首を振る。すると、マルチェロが同行すると言ってくれたので、エイトは喜んで――顔には出ていないが――承諾した。
わーい! マルチェロが一緒に歩いてくれる!
心の中ではしゃいでいれば、いつの間にか先を歩き始めていたマルチェロが足を止め、肩越しにエイトに言う。

「行くぞ、女神殿。」
あれ。マルチェロにも託宣的な何かが?……って、いま俺を見て言った!?
あ、いつものいじわるな皮肉か!
負けるものかと、言い返してみたものの、相手は達弁者。鼻先で笑い――この兄弟はどうしてこうも冷笑的な動作が似合うのだろう――とっととついて来い、とばかりに歩き出す。

月光の下、静寂の影で。
女神の祈りは、祝福と共に。

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