忍者ブログ

龍宴庭note

突発小話&気まぐれ雑記用。 詳細などは「Category」→「★ABOUT」に記載。
MENU

【クク主】それはまるで呪いのような

■桜の味覚がする何かをまだ口にしていない。

まずはタイトルだけ浮かび、話の外郭がぼんやりとしたところでチマチマ書いていたものを、ここになってようやくまとめたので小話投下。

エイト→ククールの筈が、なんだかエイト←ククールに。
天秤的には=なんだけども。
春は恋の季節だというのをテーマにして、こう、ほのぼのか甘々な雰囲気の小話にしようと思っていた当初の気持ちが中身に反映されていない気がするのですがもういいやと。
人間、諦めが、肝心!

そんなクク主です。
よろしければ「続き」よりお読みください。






――よりにもよって、何故この男だったのか。
自分の身裡に生じたモヤモヤした「何か」を自覚した瞬間、思ったのはそういうこと。
相手が同性であることは、脇へ置いて――とかく、恋に落ちた時点でどうしようもないので――とりあえず、何故この男だったのか、と考える。

多分、どこかで選択肢を間違ったんだろう。
けれど――どこで?


◇  ◇  ◇


ギャンブル好きで、女好き。
陽気で軽薄。
長い銀髪で長身痩躯の美形。
その上、なんの冗談だか聖堂騎士でいて。

なにが気に入ったのか同性である自分に、人懐こく――馴れ馴れしく?――接してきたその男の名は、ククール。
仲間になった当初は、目を離すとすぐゼシカや往来の女性を口説いていたり、カジノへ行ったり、ひとり夜に抜け出して酒場へ足を運んでいたりと、なんともまあ素行「不良」な男だった。
コイツは絶対に自分と相いれない。水と油であるだろうが、まあそれでも世界の危機をどうにかする間だけは、表面だけでも仲良くはやっていこうと決めて、旅をした。
その素行「不良」から、「不」が取れ始めたのは、いつだったか。
女性を見つけたら手当たり次第に口説いていたものはなくなり、夜間の単独外出は減り、軽薄ながらも冷めていた眼差しが、いつしか真摯なものとなって――気づけば背中を預け、肩を並べて歩くようになっていた。

「なあエイト。」
「なんだ。」
兵士口調で慇懃無礼に応じていたコチラの言葉遣いも、いつしか彼にだけは砕けたものになっていた。
「ミーティアに聞いたんだけどさ、」
「……呼び捨てにするな、阿呆。」
「いや、許可はもらってるっつーの。変な話の遮えぎりかたすんな。あのさ、お前って……、……。」
「……? なんだよ。」
「あー……、最近、調子、どうだ?」
「うん? 別に問題はないけど。」
「体調じゃなくてさ、その、精神的な?」
「そんな問題があったらとっとと片付けてる。」
「そっか。……あー、じゃあ俺の気のせいか?」
「何だよさっきから。回りくどいな、言いたいことがあるなら言えよ。」
珍しく不明瞭な質問を投げてくるククールに、思わず眉根が寄る。相手は口元に手を当てて視線を逸らし、なにやらもごもごと呟いていたようだったが、やがてこちらへ目を合わせて口を開いた。

「……お前って、さ。好きなやつ、出来た?」
「……、……、――は?」
なんだそれは。
なにを突然に。
どんな根拠があって、そんなことを。
色々と言葉が浮かんだものの、口をついて出てきたのはたった一言だけ。侮蔑、呆れといったそれではなく、どちらかといえば動揺からの。
「な……、んだよ、その質問は。」
上手く平静を装えたかは自信が無い。どことなくどもってしまったが、ククールはそれに対しては何も言わずにコチラに視線を留めたまま会話を繋げる。
「ミーティアがな、お前が時々ぼんやりしているみたいだ、って言ってさ。……まあ、俺もそこはちょっと気になってたんでな。」
「そんなことは――」
今度はコチラが視線を逸らす羽目になった。
主君に腑抜けた様子を見られていたとは、情けない。後でフォローをしておこう――と考えつつも、先ずは目の前の男をどうにかしなければと思う。
多分、こちらのほうが厄介だ。
さて――どう誤魔化そうか?

「……今度、城に新兵が入ってくるから、その手続きとかで忙しくて――」
「それ、先週に終わってるんだろ。」
「なんで、」
「マルチェロに訊いた――というか、確認とった。」
「……、なんで部外者のお前がそんなことしてるんだ。警備上問題が――」
「――忙しそうなら、俺も手伝えるかなと思ってさ。いつもお前には世話になってるから、少しでも力になりたかったんだよ。」
「は、……――」
何だその理屈は。
それでこちらが無断漏えいを許すと思っているのか、とか。
マルチェロの阿呆、なに勝手に余所の機密情報を漏らしてるんだ、とか。
通常ならば、その行為を咎めて――「余計なお世話だ」とかなんとか言って、突き放して――それで、追及を遮断するのに。
なのに、ククールが。
ばつの悪い表情をしながらも、それでも真剣な顔をして「駄目だったか? 悪かったな。」とまで言うものだから、怒るに怒れなくなってしまった。
女性だけに優しくしていればいいのに。

「なあ……怒ってる?」
考え事に没頭していて、気づけば近距離にククール。
こちらの表情を窺うようにして身を屈めたせいで、顔が近い。
「お、こっては……いない。……でも、本当に、こういうことは大事になる、から……」
「そっか。そうだよな。ごめん、お前の眼の下に隈があるの見たらさ、あ、これ早くどうにかしなきゃなって思って――急ぎ過ぎた。ほんと、ごめんな。」
そう言って、困ったように笑うその顔が妙に綺麗で。ごめんな、と素直に非を詫びたその声が、思いのほか甘く聞こえたのはきっとこちらの都合のいい幻聴だ。
ああ、そうだ。
ククールは単に、仲間としてこちらを気遣ってくれただけだ。
だから、自分もそうしよう。常日頃の仕事馬鹿、生真面目な兵士として、対応を――。
「――それで、さ。エイト。さっきの質問なんだけど。」
「え?」
何だっただろうか、と回想に気を逸らした瞬間。

「俺はお前のこと好きなんだけど、お前の相手って、誰?」
「は――」
三回目の思考停止の“オマケ”についてきたものは、美形からの唐突な告白と――キス。
そのまま腰を引き寄せられ、逃がさないというように後頭部にまで手を回された上で、深く貪られる。
「んっ、ぁ……っ、ばっ、か……んんっ、な、にっ」
「……っはは。なに、って。――先に唾つけておこうかと思って。」
「――っっっっ!?」
長い口付けの後、耳元で囁かれたのはなんとも身勝手で軽薄で――欲望を剥き出しにした、宣告。
先程までの優しい眼差しはどこへいったと問いたくなるくらいに、こちらを捕える視線は貪欲な獣に似て。
ぞくりと背筋に走るそれは、恐怖からのものだと思いたい。喜びじゃない。……喜んでなんか、ない。

「まあ、嫌なら逃げてもいいけど。」
「――っ!」
叶わないと諦めていた望みが淡い期待へと変わるより早く、仕掛けられたこれは罠かそれとも単なるお遊びだろうか。
「っ、……馬鹿馬鹿しい。俺は逃げるからな。」
逃げても良いと言った。
ああ、ならばそうしよう。
どうせこれは相手の暇潰しかなにかでしかない――。

「いいけど――俺は捕まえる気でいるから、“その後”の覚悟はしておけよ兵士長?」
それは確かな宣戦布告。
それに、“その後”というのは一体――反射的に身を仰け反らせれば、相手がその綺麗な顔で微笑む。

「楽しみだな、エイト。」
呪いのような執着。
まさか相手の方がずっと性質が悪いとは。

俺はどこで間違えたのだろう。
後悔するも、けれど捕獲されるのはもはや時間の問題だろうと、とっくに観念している自分がいて。
そして心の中で喜んでいる自分も見つけてしまって。

恋とは本当に恐ろしいものだと、改めて思う事態になった、とある日のとある出来事。

拍手[1回]

PR

× CLOSE

× CLOSE

Copyright © 龍宴庭note : All rights reserved

TemplateDesign by KARMA7

忍者ブログ [PR]