■涼しいんだか暑いんだか。
そんな秋口の中でのクク主小話。
DQ世界は真夏!というのはなさそうで羨ましい。
神鳥のたましいで空を飛び回っていたのはいい思い出。
そしてしっかり3D酔いをしたのもいい思い出。
宜しければ以下より続きをどうぞ!
少し開けた窓から吹き込む、秋の風。
微かに混じる夏草の匂いがもう懐かしい。
最近は色々と雑務が立て込んでいて仕事に関する本以外を読む時間が無かったが、ようやくひと段落ついた。と、思いたい。
まあもう少ししたらまた収穫祭の後に回ってくる書類やら何やらが待ち受けているわけだが、今は忘れておこう。
寝苦しい夜が過ぎた今、ベッドに腰掛け壁を背凭れにして読書を楽しむ。
サイドテーブルに置いたグラスを手にとり、口をつければふわりと広がる芳醇な香り。度数もそう高くはなく、軽くて飲みやすい。
「ん。これ、好きだな。」
深い色をした赤いワインを前に、零れるのは溜め息。
これは収穫祭に合わせて市場に回すワインで、試験品の余りをそのまま廃棄するのは勿体ないので貰って来たものだ(勿論、許可はとっている)。
どうか、賄賂・横領などと言わないでくれ。
今までが忙しすぎたのだから、一足先に秋を楽しんでも罰は当たらないだろう?
◇ ◇ ◇
ちびちびとワインを飲み、合間にチョコレートを齧りつつページをめくる手を進めていると、かたりと物音がした。
本にしおりを挟んでテーブルに置き、忍ばせている短剣の柄に手を掛ける。音は窓の方からで、何やら気配がある。
ここは城の三階。
人か、モンスターか。
気配と足音を殺して窓辺に近づこうとしたその時、窓ガラスの下の方から見えたのは人の手。
エイトは溜息を吐いて短剣から手を離すと、音に気をつけて窓を引き開けた。
「何しに来たんだ、阿呆。」
睥睨するような眼差しを向けてそう声を掛ければ、相手はニッと人好きのする笑みを浮かべ、ウインク一つ。
「何って、夜這い――待て、その手を下ろせ、ここから落ちたらシャレにならねえ!」
◇ ◇ ◇
ベッドサイドに影が二つ。
二人分の重みを受けて、ぎしりと音を立てた。
「これは何の真似だ?」
己を押し倒して圧し掛かった相手を見上げて問えば、返されたのは不敵な笑み。
「さっきも言っただろ? 夜這いだ、って。」
顔が近づき、耳元でそう囁かれた。耳に掛かる吐息にくすぐったさを覚えてエイトが眉を顰めれば、相手が目を細めて苦笑する。
「色気のない反応だな。」
「窓から押しかけてきた挙句、急に押し倒してきた相手に対して俺はどうすればいいんだろうな?」
そう言いながら、肩を押さえる暴漢ならぬククールの手をそっと掴む。
「定石なら、兵士として捕縛するべきなんだろうけどな。」
「わざわざ逢いに来てやった恋人に対しての礼がそれか?」
「……頼んでないだろ。」
何が気に障ったのか、エイトがムッとして目を逸らす。
ククールは少し身を起こして、前髪をかき上げた。
この兵士長サマは、素直じゃない。
いや、素直に甘えられない、というべきか。
ククールとて人のことはいえないが、それでもこの青年の方が恋愛事においては、ずっとややこしい性格をしていると思う。
尤も、約束も無しに窓から侵入してきた男(恋人)のほうにも幾らか原因はあるだろうが――それでも、エイトはややこしい。本当は会って嬉しいくせに、それを隠して尚も悪態をつくのだから。
(まあこの素直じゃないとこから持っていくのが楽しい俺も、大概ややこしいんだけど。)
エイトは耳の先を僅かに赤く染め(嬉しいから)、唇を軽く噛んでいる(浮かびかかる微笑を隠すため)。それをじっくり眺め、ククールは忍び笑う。
(いいよな、こういうところは分かりやすくて。)
こうした腹の探り合い、化かし合いは嫌いじゃない。
「約束も無しに盗賊みたいに侵入したのは、悪かった。そこは謝る。ごめん。」
「……。別に、いいけど。」
まずは殊勝に謝罪すれば、エイトがククールに視線を戻し、言葉を返してきた。もごもごと、「俺も会いたかったし」などと呟くのが聞こえたが、まだ意地を張っているのでその声はとても小さい。
さてどこから取り掛かるかと逡巡していれば、ふと今更に相手の寝間着に目が留まった。
「そういえば、珍しい色を着てるな。」
「え? ああ、うん。これか。ちょっとな。」
来ている服の襟元をちょっと摘み、エイトが答える。
エイトは青色が好みらしいと、一度何かの時に聞いたことがある。
なのに今日の寝間着の色は、落ち着いた色調の暗い赤。
「趣旨替えか?」
「……、生地の手触りが良かったから、買っただけだ。」
好みが変わったのかとからかい交じりに口にした言葉は、しかしエイトを再び不機嫌にさせたようだ。
(……今度は何を間違ったんだ。)
そう酷い失言では無かった筈だと考えながら身を屈め、また目を逸らしている相手の頬に手を添えて話しかける。
「馬鹿にしたんじゃないって。……綺麗な色じゃないか。そう派手に見えないのは色味が暗いせいか?」
「……多分。」
「ふうん。あ、そういやコレ、俺の修道服と――」
よく似てる色だな、と言いかけたところで、気づくものがあった。
「……同じ色、だな?」
「……。」
「……趣旨替え、じゃなくて――お揃い?」
「……うるさい。」
「俺と会えなくて、寂しかった、とか?」
「……っ、……うるさいっていってるだろ。」
顔を逸らそうにも頬に添えたククールの手に邪魔されているので、エイトは視線だけを逸らして悪態をつく。無自覚だろう、甘えの混じった声で。
頬に差す朱色はワインよりも薄く、寝間着の赤暗色よりも淡いが、ククールの目と意識を惹き付けてくれる。
兵士長で王族の嫡子で竜人とのハーフという雑多な出生持ちの、面倒くさくて厄介で、ややこしくて素直でない男。
それでもこの青年が選んだのはククールだ。没落貴族で孤児となり、酒と女とギャンブルに手を出す破戒僧のような男に「惚れている」のだから全くもって「ややこしい」。
「ほんと、なんでお前みたいなのが、こんな男に騙されてるんだかな。」
「馬鹿言うな。」
「うん?」
目を逸らしていたエイトがいつの間にかククールを真っ直ぐに見つめていて、頬に添えられた手に己の手を重ねて言い返す。
「俺は、お前が好きなんだ。これは自分の意思で、俺自身が選んだことだ。騙されてるとか、人聞きの悪いことを言うな。」
「……そっか。そう、だよな。……そうだった。騙してるとか騙されてるとか、そんなんじゃなかった。」
ククールは自嘲めいた笑みを浮かべると、上体を屈めてエイトの目を覗き込む。
「じゃあ、このまま進んでも良いんだよな?」
「……お前、間は無いのか間は。」
「何だよ、間って。愛ならあるけど。」
「……はあ。挨拶から始めろとは言わないけど、談笑から進めて、こう、まったりとだな……」
「会えなかった分からまずは埋めていきたいんだよ、俺は。談笑とかそんなのは、ピロートークにとっとけ。」
「ケモノ。いや、ケダモノか。」
「そんな俺が好きなんだろ?」
阿呆か、と罵声の一つでも飛んでくるかと思ったが、返されたのは一言。
「ああ。どんなお前でも好きだよ、阿呆。」
「――っ、そ、……れは、良かっ……~~っ!」
今度はククールが顔を赤くして、エイトの首筋に顔を埋める。
秋の夜長、とある二人のそんな話。
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