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龍宴庭note

突発小話&気まぐれ雑記用。 詳細などは「Category」→「★ABOUT」に記載。
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【クク主】Surprise Attack

■クク主の日を大幅にすぎました近状より、クク主小話。
マルチェロ側の小話に合わせ、ククールも年上の余裕さを出す!という感じで書いていたんですが、やや趣向がそれました。(詳細は、「続き」以下からの本編参照)

先にネタバレ。
マル主小話ではマル→主でしたが、今回は主→ククです。
何が、とは言いません。
宜しければ、以下「続き」よりどうぞ。






【マル主&クク主】Surprise Kiss

◆ククール編
――木陰で。
「こんなところに居たか。」
零れたのは、嘆息と愚痴。
街道脇にある大ぶりな樹の下。涼しい風の吹くそこで、相手は荷物を枕にすやすやと眠っていた。

買い出しを任せたククールがなかなか戻って来ないので、心配になって探しに来たエイトは道中の木陰の近くで見覚えのある色彩を見つけて足を止めた。
発見したのは、探し人。
この辺りの治安は悪い方ではないが、それでも野盗やモンスターがいるので一人での仮眠は推奨しない。
なのに、この体たらく。無防備にも程がある。
注意してやろう――と、足音と気配に気をつけて側に寄ったところで気づく。
茂る草に隠れるようにして点々と置かれた、白い小石。加えて、頭の位置辺りの地面に突き立てられているのは、水晶の短剣。
「――凄いな。“魔除けの結界”か。」
その存在は書物で読んで知っていたが、この聖域系の技は意外と加減が難しいのでエイトはあまり実行しない。何度か試してみたが、成功率が低いのだ。
しかし、ククールが敷いたこの結界は成功している。それこそ、精巧に。相性の問題か。
「こういうところは、ちゃんとした聖職者だよなあ。」
安堵と呆れが、半分ずつ。無事であることと、優れた能力をサボタージュに私用していることで。
感心しつつ、そうっと傍らに片膝をついて寝姿を見下ろす。
長い睫毛、整った顔立ちに自然と目がいく。
「……本当、顔は良いんだよな。」
艶やかで美しい銀髪。何度か触らせてもらったことがあるが、絹糸を思わせる感触だった。
「……声だって、良いし。」
何を考えての悪ふざけか一度、女性にそうするように甘い声で口説かれたことがある。腰に腕を回して抱き寄せられ、その美形な顔を近づけられ――キスをされそうになった辺りで、殴ってやったが。
「まあ、女性だったらちょっとなびいちゃうかもな。」
眠りの森の美女ならぬ、眠る美形がいま一人。
じっと眺めていれば、何だか妙な気分になって。

ふと、もう少し間近で見てみようと思い、そっと屈みこんで――気づけば、相手の唇に自分のそれを触れさせていた。
ふっ、と。
羽根が落ちるような、軽いキスをひとつ。

どこかで鳥の鳴く声がした。

「――っ!?」
その声を聞き、エイトはハッと我に返る。すぐさま身を離したが、相手は相変わらず目を閉じたまま。
疲れているから眠っているのだろう。……眠り込んでいるのだろう、と思う。だから起きないのだ。そうだ、きっとそうだ。
エイトは様々な願望を抱きながら――どうかククールが起きませんように!――酷く強張った動作で立ち上がると、音を立てぬよう気をつけながら、――脱兎のごとく、その場から逃げ出した。

「人の寝込みを襲うなんて俺は阿呆か――……っ!」
最低だ。最悪だ。
けれど、ああ、触れた唇は柔らかくて、香水でもつけていたのか良い匂いがして――しかも自分の好みの香りだった――とにかく、思考が、感情が、ひどくごちゃごちゃになって纏まらない。
何でキスなんかしてしまったんだ。
よりにもよって、ククールに。
よりにもよって、自分から。

もしかすると俺は、もうククールの事を好きになっ――。

「――っって、あああ考えるな俺……!」
答えが浮かび上がる度に必死に消し、走る間も確定しそうな感情を無にするよう努め、エイトは仲間たちがいる街へと駆けていく。
「俺の阿呆……っ、ククールの馬鹿――っ……!」
風のように颯爽と……は言い難い状況で、がむしゃらに街道を突っ切る。
幸いにも、通行人はいなかったので特に問題はない。自身の突飛な行動に煩悶し、狂乱状態になった兵士一人を除いては。


◇  ◇  ◇


――木陰で。
一陣の風が通り抜け、銀色の髪を撫でた。それに合わせるようにして、男が閉じていた目を開ける。
空を仰いだまま、零したのは溜息。
「……度胸あるんだかないんだか、分かんねえやつだな。」
木陰で目を閉じて軽く休憩していたら、ふと人の気配がした。気配の感じから危険性はないと判明し――足音が静かだったので――薄目で確認すれば、案の定それが知った顔だったので寝たふりを決め込むことにした。
適当なところでパッと目を開けて、驚かせてやろう――そんな子供じみた計画が思い浮かんだので。
エイトは最初の内、何やらブツブツと悪態めいたことを呟いていた。だから、ああこれは目を開けたら説教コースだなと思い、計画を中止して狸寝入りを続行したのだが――。

「……まさか、あの流れでキスされるなんて思わねえだろ。」
これまで幾つか冗談だといって過剰な“愛情表現”を仕掛けてみたが、どれもこれもイマイチ決まらなかったので、何とも落としづらい相手だと感じていた。
なのにまさか、こうくるとは。
誰が予想できただろう?
馬鹿がつくほどに真面目で仕事熱心で、恋愛事など欠片も関係ない――どころか、どこか潔癖すぎるような感すらあった男が、まさか自分の方からキスをしてくるとは。
今すぐにでも追いかけて、捕まえて、あのキスはどういうつもりだったのかと問い詰めたい、シラを切ったその時は、肩を掴んで押し倒し、存分に続きをしてやりたい。……無論、キスだけでは済まないが。
キスの後、気配を窺った限りではひどく動揺していたようだった。
そのまま物凄い勢いで走り去っていくのを気配で感じたが、その際に微かに聞こえた独白には少し笑ってしまった。

『人の寝込みを襲うなんて俺は阿呆か』
いや別に俺は良かったんだけどな?と言ってやりたかった。
『俺の阿呆、ククールの馬鹿ーっ!』
なんでそこで俺が罵倒されるんだ、と聞いてみたかった。

自分から仕掛けた行為だというのに、あの動揺ぶり。
仲間たちが待っているであろう街に戻り、エイトを遠回しにからかってみようか、と一瞬考えたが。
「……なんか無意識っぽかったし、止めとくか。」
選択は間違えない。揶揄して関係が悪化したら、目も当てられないからだ。
一方通行では無かった、というこの安堵。
脈ありだと判明した、この歓喜。
結局、起こしてはもらえず置き去りにされたが、代わりに残されたのが好意以上のキスなものだから悲しくはない。拙いながらも、あれには確かに特別な感情がこもっていたのだ。

「さあて……どうやって落として行こうか。」
澄んだ空を見つめながら、ククールは嬉しそうに一人ごちる。
この先もなかなかに手ごわいだろうが、待ち受けている結末は、きっと悪いものじゃない。

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