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龍宴庭note

突発小話&気まぐれ雑記用。 詳細などは「Category」→「★ABOUT」に記載。
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【クク主drago】たわむれかんきんぎんのおり 10

■煮詰めてもくたくた。

夢に見るまでお待たせしまい大変に申し訳ないと同時に、見限らずに期待されているのは本当にありがたいことだと実感しております。ありがとうございます。

そんな「たわむれ」続き。また短いのは文章力が弱い状態異常のせい、ということにして。
エイトがちょっと混沌状態になりかけているのは生存本能がぎりぎりなせい。
しかしそのお陰で単身ここまでやってこれたという。

以下、続きです。

(10/7 ※自分で見返してみて大変に物足りなかったので加筆しました。)







里の者の誰もが、黒い死が来たと思っていた。

一筋の道の先。
里を繋ぐその向こうにいたのは白を纏った黒の死神。
竜人族は人よりも身体能力が優れている。――当然ながら、視力も。
良く見える瞳は、遠目からでも黒い死の姿を見透かす。
濁った白から覗いた素足はけれど白雪のように滑らかで、それを目にした門番は一瞬ばかり戸惑ってしまった。

あれは何だ。
闇色の美しい何かが、冷たい気配を引きずってこちらへやって来る。
モンスター?
いやそれ以上の何かだ。
人ならざるもの。ああ、人であるはずがない。構えた槍に、剣に、力が籠る。

――けれど向けた矛先は下げられる。

恐怖からではない。
死が不意に掻き上げた黒髪の隙間、露わになった闇色の瞳に捕まったのだ。
白との対比に映える美しい至上の宝石に囚われて。
ある者は思わずふらりとそれに自ら歩み寄りそうになったので、背後から仲間が羽交い絞めにして門の中へ下がらせなければならなかった。
近づく冷たい気配。
見つめる氷の瞳。


ああ、死が、女神のように美しい闇色の何かが近づいてくる――!


「――エイト!」
小柄な老人が叫んだ。
後に、それは死の――黒き女神の名前だったのだと、里の者たちは知ることになる。禁忌を犯したある娘の子供であり、そして――かつては人の子でもあったということも。
誰もが驚いた事実として知らされる。畏怖と共に。


◇  ◇  ◇


それから――エイトは眠りについている。
昏々と眠り、過ぎた時間は十日。その間は一切目を覚ますことはなく、静かな寝息を立てている他は微動だにしない。
グルーノは毎日様子を見に来ては変化のないことを嘆き、それと同時に安堵していた。触れたエイトの手が温かくなっていたからだ。

戻った人の体温。
けれど人らしからぬ気配はそのまま。

戻らぬ「人」。
せっかく人のいる世界に下ろしたのに。人として生きて欲しかったというのに。

グルーノは、握り締めたエイトの手を己の額に当てて目を閉じた。
この手の甲には竜神王が付けた印がある。……人の世にはもはや降ろせぬ刻印が。
これが無ければまだエイトは人に戻る可能性が――あったとしても、それはもう奇跡の確率でしかない。

ああ、あの時やはり止めるべきだったのだ。
役目を譲るべきではなかった。
グルーノは、エイトがやって来た日のことを思い返す。


◇  ◇  ◇


里の門前に、美しい孫は突然に現れた。
ひとりきり。側にいた仲間は誰もいない。
その姿を見るのは実に三年ぶり。ちっとも変っていなかった――表向きは。
氷の美貌は鮮やかながらも透き通りすぎており、抱き留めた体に至っては極寒。まさに氷のような体温に、グルーノは一瞬「エイトは死んで戻って来たのか?」と恐ろしい想像をしてしまったほどだ。
けれど様子を見に来た竜神王は言った。
エイトは生きている、と。
何かによる一時的な防衛本能で仮死状態になりかけているだけだ、とも。
これほど確かな生の保証はない。竜神王の説明を受けたグルーノは安堵から体の力が抜けそうになったが、辛うじて耐えた。
まずは気を失ってしまったエイトの介抱だ。そう考えて、家に運ぶべく一回り大きな孫の体を持ち上げようとした――のを、攫われた。竜神王そのひとに。

「私が運ぼう」
「竜神王様!?」
いつの間に、とグルーノは言いたかったが今は気にしている場合ではない。優先事項はたった一つ。

「では、お願い致します。わしは先に戻ってエイトの手当てをする準備を」
「ああ。任せるがいい」
この時、少し違和感を覚えるべきだった。体格差があろうとも、自分は竜人なのだから、何ら問題なくエイトを運べたのだ。それを竜神王も分かっている筈なのに、なのにどうしてここでわざわざ役目を請け負ったのか考えるべきだったのだ。
――美しい孫に執着していたのを知っていたというのに、どうして忘れていたのだろう。


「……ふむ。警戒はされなかったか。お前の祖父は、どうにもお前が心配で目が曇っているようだぞエイト」
竜神王は、ぺこりと頭を下げて走り去っていく老人の背に苦笑を向ける。遠ざかる老人の健脚に感嘆しながら、エイトを抱き上げて歩き出した。
何か言いたげにしている里の者たちへの説明は、グルーノに任せよう。自身に向けられている周囲の視線を王の一瞥で黙らせ、散らせておいてから竜神王は歩きながら腕の中のエイトに視線を落とす。

「ふむ……なにやら手酷くやられた跡がある。……これは呪い、いや――聖痕か。なるほど」
面白いことをする。
笑みを浮かべる竜神王。だがそれは笑顔では決してない凄惨なもの。
これはエイトが呪いを受け付けない体質を知っている者の仕業だ。
そして、公表していない情報を知る者は限られている。家族か、仲間かその二択。

なれどその実、選択肢は一択のみ。

グルーノは勿論ありえない。
愛しい一人娘の形見ともいえる子を、グルーノにとってはたった一人の孫をどうして酷い目に遭わせよう?
エイトを追放する際に、その身を小さな獣に変えて共に付き添った男なのだ。護り、見守ることはあれど危害など加えるはずがない。

ならば、残るは仲間となる。
竜神王はエイトに同行していた男女を思い出す。
髪を二つに分けて結った魔力が非常に高い少女。明るい瞳。強い精神。そして七人の賢者の子孫。――あの者は違う。

あと二人いた。

一人は奇妙な兜を被った、鈍重そうな男。しかしその動きは意外と早く、声や態度には力強いものがあった。エイトを慕い、敬っている姿を見る限りではこれも対象外。

ならば――最後の者か。
竜神王はわざとらしく「それ」について考えるのを最後に回した。確定している真実として。
「それ」は長く美しい銀髪の持ち主で、見飽きる程によくエイトに纏わりついていたから覚えている。
聖なる使い。赤い色彩を纏った神殿騎士。エイトの側に立ち、時々その肩に腕を回して権利を主張していた人の子――『こいつは俺のものだ』
竜神王は喉奥で笑う。

「鎖で繋がねば手元におけぬものが何を言う」
それは王の笑い。呪いが効かないと知って聖刻を付け、己の物としていた愚かな男に対する憐れみも含めた上での。

「これは縛り付けたが最後、かつての日々は二度と戻らぬというのに」
抱えたエイトの背に回した腕に触れている微かな違和感に、竜神王はいたわりの眼差しを向ける。
何度も誘っては断られた。
王よ、神なる戯れはお止め下さいと静かに――けれど拒絶の姿勢を示すその瞳は強く、竜神王をしっかりと見据えて答えられた。否、と。
聞き心地の良い低音に、何度その無礼を見逃したことか。
人外じみた美貌と存在感を持った人の子。竜人と人間の血を半分ずつ引いているが、その時のエイトはどうにも人のほうに傾いていた。
恐らくはグルーノの仕業だろう。小さな獣に身を変じて友となり、孤独になりがちなエイトの支えとなっていた存在。
エイトが人と人の生に執着しているのはその為だと思った。歪まずにまっすぐ伸びた氷柱。どこまでも透明で美しいのは、人を愛しているがゆえ。

なのに。
突然に行方が分からなくなり、三年経って姿を見せたと思ったら――女神はボロボロになり、その身に深淵の闇を纏って戻って来た。
何があったのか見当がついたのは、グルーノと竜神王くらいだろう。里の者たちは人間に関心を持っていないので、戦か魔物かくらいしか想像できないのだ。
それでも、見事なまでに暗い闇色の気配だけには関心を示したけれど。
畏怖により威圧し、凄みを増した闇の美にて魅了したそれはもう人の子ではなかった。
闇の女神だ、と誰かが呟くのが聞こえたが、なるほど言いえて妙だと竜神王は納得したものだ。

「ともあれ、ここへ戻って来た以上は迎えよう。ようこそ、竜人の里へ」
おどけて笑う竜神王。エイトの身に生じた現象よりも、その帰還に重きを置いたのだ。抱いた優越感は、銀の髪をした男へ。
「逃がしたのか、逃げられたのか……さて、どちらなのだろうな」
グルーノの家がある道の途中。
その物陰で竜神王は足を止めると、白い花のような血色をした男に告げる。
「……人の子であろうとしていたものよ。お前には我が慈悲を与えよう」
そう静かに囁いて龍の目を細めると、エイトの首にある裂傷を癒し、刻まれていた聖痕を消滅させた。
跡形もなく消えた不快な穢れ。残ったのは白い肌と無防備な喉元。

――先ずはこれで良かろう。
そんなことをひっそり呟いて、竜神王はエイトの喉元へ唇を寄せる。
そこへ、軽い噛み跡を一つ。
エイトの柳眉が僅かに寄せられる。
が、目を覚ます気配はなかった。

傷ついた女神はそうして確かな保護の中へ。
けれどその場所が本当に安全なのかは、また別の話ではあるけれど。

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