■書きたいものは決まっているのにどうにもこうにも。
まだ上手く文章が作れません。歯痒い、けれどもちょっと楽しいと思っている現状です。
なんというか、おかしな癖がついているのを壊すべきか育てるべきかみたいな。
書いている内に落ち着くものでもあるので、そこまで悲観はしていないのですが、いかんせん散文するのが困るところ。
さておき、クク主続きです。
実家に帰らせていただきます!
月明かりのみの暗い道。
そこをひとつの人影が進んでいた。
ずるり、ずるりと足を引き摺りながら、ひどく遅い歩みではあったけれどそれはしかし、確実に前へと進んでいる。
ときおり月の光を映して煌めく、夜の色に溶ける黒髪。
その身を包むは月白の布。服ではなく、ただの布を巻きつけたその四肢には薄汚れた包帯が巻かれているものの、美しさは一片も損なわれてはいない。
むしろ、その黒と白の色彩、美貌と汚れとの対比が殊更アンバランスな魅力に拍車をかけていた。
ふうっ、と。
白い吐息が霞のように流れる。
細い道を進む足取りには、鈍重ながらもしっかりとした意志が窺えた。狂気のものではない証拠。ああ、それは衰弱しているものの狂ってはいないのだ。
道中、微かな血の匂いに引かれたのか魔物が近づいてきたが……。
「……」
無言の視線の一閃にて、下がらせた。
人ではない威圧。
そこに敵意はない。殺意もない。
ただ言葉なき命令があった。
――「下がれ」
ある獣型のモンスターは怯んで後退り、ある人型のモンスターは膝をついて頭を垂れる。
王の凱旋がごとく光景。
けれど男はそれらに一切の関心を持たず、左右に開けた道を黒髪をなびかせて前に進む。
◇ ◇ ◇
道の行き止まり。
閉ざされた大扉の前には、遠くより近づく暗い気配を感じ取ったために警戒に出てきた里の者が数人。
その中には小さな人影があった。
それは遠目ながらもすぐに接近している者の正体を見破る――見誤るわけがないのだ。
「エイト!」
暗い気配をしたものが顔をゆっくりと上げる。
黒髪の間から覗く瞳は、里の者たちを竦みあがらせ動きを止める深淵。
けれども、その中でたったひとりだけ彼の闇に触れても近づく者があった。たむろする里の者たちを掻き分けて前に進み出ると、一筋の道を上って来た男に微笑みを向ける。
「良く来たのう。……久しぶりだな、エイト」
老齢だがしっかりとした声は柔らかく、震えてはいない。闇色の瞳をした男に――孫であるエイトに、優しく語り掛ける。
「今日は、どうした」
そう問えば、エイトが足を止めてはたと老人を――祖父であるグルーノを見る。
懐かしい声。たったひとりの友だち、そして唯一の肉親。
「……祖父、どの」
掠れた音を零し、エイトは何も恐れずに自らに近づいてくる小柄の老人を見つめて……、そっと言葉を吐く。
「トーポ」
幼い頃からの友だち。実は祖父だったと分かるのはずっと先のことだった。新しいトモダチが出来てからは気を遣ってくれたのか距離を置いた小さな友だちに、優しい祖父に、エイトは――忘れていた薄い微笑をようやく作って返す。
「エイト!」
しかし向こうから上がったのは悲痛な声。
エイトは、己ががくりと膝をついて地面にへたり込んでしまったのを時間差で気づく。どうやら脱力してしまったようだ。安心の為か疲労の為かは分からない。
ただ明らかなのは、エイトの体は限界がきているということ。
グルーノが駆け寄り、くずおれかけるエイトの体を支えて転倒を防ぐ。一回り大きな体を支えるは小さな体躯。だが力強い存在感はエイトを大きく包み、温めてくれる。
ああ、あたたかい。
エイトは祖父の肩口に頭をもたせ、吐息のような言葉を吐いた。
「……ただいま、かえり、ました」
すると側で息を呑む気配がした。
「ああ、っ……よく戻ってきた。よくぞ帰ってきてくれた……お帰り、エイト」
ぎゅっと抱き締められる。
あたたかいぬくもり。
エイトは目元が熱くなる感覚がしたが、涙は出なかった。
それでもグルーノの背中に腕を回そうとして――しかし腕が上がらず断念して――代わりに、軽く擦り寄って抱擁に応える。
「こんなに冷たくなって……どこにいた? 何かされたのか? ……いや、今は何も聞かぬ。さあ、中へ入ろう。帰ろう、我が家へな」
エイトはコクリと頷き、立ち上がろうとしたが。
しかしそこまでだった。
糸の切れた人形のように、グルーノの腕の中で気を失う。
グルーノが何かを言い、髪を撫でてくれたのだけは覚えていたが……あとはもう、闇の中。
トモダチのところにいたのだとは、ついぞ言えず。
言えるはずなどなく。
[2回]
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