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龍宴庭note

突発小話&気まぐれ雑記用。 詳細などは「Category」→「★ABOUT」に記載。
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【クク主drago】たわむれかんきんぎんのおり 14++

■ひとまず。

前半部分を上げておこうと思ったので載せ。
後半はまたそのうち。
やらかしたお兄さん側なので色々方向を間違わないよう気をつけつつ。
ともあれ、「+」が付いていたら笑って下さい。

感想や拍手などの反応、本当にありがとうございます。
体たらくが過ぎて不甲斐ないのですが、それでもやはり反応を頂けると活力と励みになってとても嬉しいです。ありがとうございます!

※少しだけ追加しました。









薄暗い褥の上には白い肢体があった。
蒼褪めた花のような美しさをもったその人影は手足をだらりとさせて、俯せに横たわっている。
その身を包んでいるのは薄いレモンイエロー。柔らかな生地が気に入ったのか、目を閉じている顔はどこか落ち着いており、暗い影はない。
その隣へ、ぎしりと。
手をついて見下ろす人影がひとつ。
長い髪が、伏せている人物の背中に落ちかかる。遠回しな愛撫のように、さらり。

「具合はどうだ、エイト」
薄闇に滑るは低い声。威圧感のある、けれど穏やかな響きを含んだ声音に、名を呼ばれた男が顔も上げずに答える。
「……何も」――だが途中で息を飲む気配がして、すぐに言葉が続いた――「……そう悪くは、ない」
言い直したのは、いつかの失態を思い出したがゆえ。
深く考えもせず「何もない」と答えてしまったが為に、とある者を狂気に落としてしまったのだ。

踏み抜いた薄氷。
その先にあったのは、きれいなぎんいろ。
しろいせかい。
とびきりにうつくしいきょうきのうたげ。

途端に背筋に冷気が走り、手足が冷えていくような感覚に襲われてエイトはそこで回想を止める。――飲み込んだその重さに少し吐き気を覚えつつ、平静さを取り繕う。

エイトの妙な沈黙と素早く紡ぎ直された言葉の間に、竜神王は何かを感じとったのだろう。眉を顰めたものの、訊ねることはしなかった。
ただエイトの背に触れ、その表面をそろりと撫でる。
「その身に巣食っていた聖刻は消した。だが、お前の背負う闇は我が力ではどうにもならぬ。……すまぬな」
「……詮無き事。王には、熱を戻して、頂けた……感謝を」
静かに語る声は艶やかながらもどこか無感動。竜神王が背中を撫でていることには、関心も寄せていないようだった。
それでも、手で払わず拒絶の言葉も口にしないところを見る限りでは、それなりの接触は許されている様子。
勿論それは都合のいい妄想かもしれない。さりとて竜神王はそれも確認せず、エイトの背を撫でる仕草を続ける。

結局、その身を抱くことはしなかった。
敵わなかった、というべきか。組み敷いたエイトからの深淵たる黒瞳の凝視にどうにも耐えきれなかったのだから。
その美しさ、神秘さに、それ以上の行為を仕掛けることがどうにも躊躇われてしまった。素直に明かせば怖気づいた、とでもいおうか。
散々に汚されただろうに、静かに竜神王を見上げる目には神聖な拒絶の力があり、その狂爪を寸前で制した――制されたのだ、竜神が王を、ただの男が。
闇を纏う若き竜の瞳は女神の眼差しでもあった。闇に外部を浸していても、内なる美しさは変わらない。そんな証明を見せられては王の権力を行使することなど出来ず。

「……気分はどうだ。悪心は治まったか」
「……、まだ、少し。だが……あと、少し」
あと少しで治まる、と言いたいのだろう。エイトの端的な物言いに慣れ始めている竜神王は、苦笑でもって応じる。
「そうか。ならば、今しばらくこうしていても構わぬか」
「王の、望むがままに」
好きにすればいい、とエイトは言う。だがそれを聞いた竜神王は僅かに口元を歪める。
なにを抜け抜けと。
王に対して拒絶という非礼を働いておいて、よくぞそのようなことが言えるものだ。
麗しき無礼者。

けれど、ああ。
どうにも手放しがたいのだ、この人の子は。

触れる肌は正しく柔らかで、手で掬い指で梳かす髪は滑らかで確かな人のそれであるのに気配も存在感も人から外れている。
不可思議な存在。いっそ世界の敵に回ってくれればいいのにとすら思う。
そうすれば、それを口実にどうにでも出来る。許されない壁はきっと取り払われるだろうから。世界の掟によって。
その時こそきっと、躊躇いなく喰らえるのだろう。眩い美貌を持つ憐れな愛し子。例えその身が甘い毒の蜜だとしても構わない。

「……王、の」
響きの良い音の呟きに、竜神王はハッとする。狂気なる思考より正気に返り、慌ててエイトに意識を戻す。
聞き逃せない玉音として耳を澄ませていれば、少し間があったものの言葉の続きが紡がれた。
「貴方の……慈愛に、感謝を」
柔らかな声にて告げられたのは澄んだ謝辞。
エイトの背を撫でる手が止まる。

この憐れな贄は他の狂気に鈍いのか?

(……いや、知っている筈だ)
その身で直に思い知っている筈だ。
エイトがこの里にやって来た時、既に酷い有様だった。その白い手足、喉元に刻まれた聖なる呪いに強く蝕まれ衰弱していた男。
なのにその瞳に憎悪はなく――何かしらの混濁はあるようだが――狂気に堕ちていない。
酷い暴行を受けた後でなぜこうも無垢なのか。
竜神王は眉根を寄せてエイトに言う。

「お前は善意を疑うことはしないのか」
「……善なるものの、何を疑えというのか」
返された言葉に竜神王は息を飲み、天を仰ぐ。
「お前は――」憐れむように、竜神王は問う。

「お前は自らを凌辱した人の子に何を思う」

とうとう踏み込んだ禁足地。
さすがに長い沈黙があった。
部屋が暗くなり、温度が幾らか下がったような錯覚すらしたが、それすらも全てはまぼろし。
俯せて顔も上げぬまま、エイトが答えた。

「思いを向けたとしても、なにもない」

切り捨てたのか、諦めたのか。
返された言葉の真意がしかし竜神王には読み取れない。読み切れるはずもない。人の心は得てして複雑怪奇で、竜神王ではどうにも手が余る。
そもそも価値観が違うのだ。
押し殺していた力の一片を顕現させているとはいえ所詮は人の子、竜とは違う――人よりもこちら側に近いというのに、未だ人の残滓を捨てていないらしい。

人と竜の狭間にいる孤高の存在。

「……何故お前のような人の子が在るのだろうな」
呟いた竜神王の口元に浮かぶは苦くも親愛の微笑。
里を追い出さねば良かった。この手元に置いてみたかった。
そう考えても全ては後の祭り。時が巻き戻ることは決してなく。

「少し眠るがいい、エイト。グルーノが迎えに来るまで」
「……ああ」
エイトが承諾し、そこで少しだけ顔を上げて竜神王を見た。
血色が戻りつつある滑らかな朱色の唇が言葉を紡ぐ。

「トーポが俺を運ぼうとしたら、止めて欲しい……彼はいつも、俺の袖を引いて――」
「――ああ、その通りにしよう。今はとにかく眠れ、人の子よ」
エイトの目にひたりと手を当てて言葉を遮り、竜神王は強引に会話を終わらせた。
くたりと再び寝台に沈むエイト。さりげなく掛けられた深い眠りの魔法にて。
衰弱しているがゆえの容易さ。今のエイトならば何でも掛かってしまうのではないか、と竜神王は思う。
昏睡、混乱、それから――魅了、とか。

この美しい闇色の男を完全に閉じ込めて――?

一瞬ばかり想像するは歪んだ希望。けれども、この魂はどこまでも高潔であって欲しいと願う自身もいて。
脳裏を過ぎるのは、ひとりの老体。大切な里の者であり、エイトの「トーポ」でもある祖父グルーノ。

「ははっ……我が楔は辛うじてお前の堕天に耐えているぞ、エイト」
眠りに落ちた男の髪を指先で梳いて、神たる竜の王は勝ち誇ったようにひっそり笑う。

それでも、それは勝利からのものではなくどうにも敗北じみていたけれど。


◇  ◇  ◇


全ての祈りは地に落ちる。
殉教者が祈りを違えた為に。

道ならぬ道。けれどかつて辿った道を、男は歩いている。
闇に浸したような服を身に着け、その腰には堕天使を模した飾りのついた細剣。フードを目深に被って顔を隠しているが、隙間から一筋、二筋と零れ覗く髪は銀色で美しい。
フードの奥から前方を見る男の目は青。かつては澄んだ空の色だったそれはいつ頃から陰ったのだろう。昏い青。真夜中の色を映したような瞳。
男は長く息を吐いて、独り言を零す。

「相変わらず長い道だな」
かつては四人で訪れた場所。あの頃はまだ隣に女神がいた。
氷の美貌を持った美しい兵士長。闇を閉じ込めた静謐な女神が。
ここへ来るまでに、何度魔物と対峙しただろう。何回剣を振るい、身を躱し、息を切らしたことだろう。
「ほんと、嫌になるな」
けれどこの道をたった一人で抜けた男がいるのも事実。
だから自分にも出来ないはずはないのだと、銀の髪の男は――ククールは、単身にて同じ道を辿ってみることにしたのだ。
「まさか近道が塞がれてる、なんて思わなかったぜ。……やってくれるな、竜神王」
冷笑交じりの苦笑を浮かべて、ククールはごつごつした荒い石の道を歩き続ける。
闇色の気配を纏った女神が――エイトが空へ飛んで消えた後、追いかける為に唱えた移動魔法が弾かれた時に気づくべきだったのだ。

エイトの帰る場所はもはや一つきり。
竜人の里しかないのだ。
本当は、自分が、自分こそが、エイトの帰る場所となるはずだったのに。
失敗した。油断した。甘く見ていた。彼の底に眠る竜の力を。
ひとり静かに去っていった女神。砕けた銀の檻には何も残っていなかった。繋いだ鎖もバラバラになっていた。ただ――何冊かの本は、そのままだった。エイトらしい、といえばらしい。勤勉な兵士長としての。

ああ、すっかり正気を失っていると思ったのに。

「……意外と役者だったな」
苦笑を零しながら、ククールは襲い掛かって来たダークナイトの剣をひらりと躱す。
「まともに相手するわけないだろ」
笑って、横を擦り抜けざまに混乱魔法を放つ。それは運よく命中し、ダークナイトは味方である他の魔物に襲い掛かり始めた。ちょっとした騒乱が起き始めた背後を振り返ることなく、ククールは再び竜神の道を走りだす。
追っては、来ない。ダークナイトが足止めをしてくれているようだ。

「ははっ、助かる。……とはいえ、そろそろ魔力が限界だな」
それと、体力も。
出来れば、魔法の聖水あたりを数本持参したかったが、まず優先したのは「身軽さ」だった。
四人でどうにか進めた竜神の道を、たった一人で踏破するのだ。ククールは自身の回避能力を高める為、道具を最小限に抑えていた。
足場の悪い石の道を走り、魔物との戦闘を最小限に、走る。走る。走って、ようやく――見覚えのある分かれ道へとやって来た。

「ここ……確か、右、だったよな……?」
僅かに息を切らして周囲を見る。魔物の姿はない。
「……気休めだが、これも使っておくか」
念の為にと持ってきた聖水の瓶を取り出し、辺りにぱしゃりと振り撒く。本当に気休めだ。竜神の道というだけあって、ここの魔物のレベルは高い。
「さて、と……行くか」
小休憩は終わり。
瓶を捨て、呼吸が整ったのを確認すると、ククールはまた走り出す。

「エイト」
白い世界に閉じ込めた美しい女神。次に見た時には漆黒を纏い――けれど美貌はそのままで――ひと離れした雰囲気を漂わせていた。
声を、一言も発することなく。
後ろを、一度も振り返ることなく。
何も言わずに立ち去ったエイト。
檻を抜け出した時と同じように、何も言わず。

「……俺は結構本気だったんだぜ」
弱く呟くククールの目には、悲哀の色が滲んでいる。唇を噛み、眉根をきゅっと寄せて、呻くように呟く。
「俺はもうお前がいないとダメなんだよ。だから――」

――だから一緒に帰ろう。

吐息のような声を零して走るククールの表情は、泣いているようにも笑っているようにも見えた。


拍手[3回]

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