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龍宴庭note

突発小話&気まぐれ雑記用。 詳細などは「Category」→「★ABOUT」に記載。
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【マル&クク主drago】聖夜に祈りを、ロザリオに口付けを

■このまま年末の挨拶を

しようと考えたりもしたんですが、日頃の感謝を込めて置き土産という名の突発メリクリ小話を投下しようと思い立ったのがしかし当日。

※24日以内に間に合いませんでしたが、マイエラ兄弟+drago主小話投下。
以下より続きをお楽しみ下さい。







パチパチと火の爆ぜる音だけが、静かな室内に響いていた。
火元でもあり音源先でもある暖炉の前には、上等な造りのソファが一つ。そこには一人の青年が座っており、ややふんぞり返るような姿勢でいる。
前髪を掻き上げながら長い足を組み換え、零したのは溜息。そこには僅かな苛立ちがあり、柳眉を顰めた端整な横顔には不機嫌さがありありと浮かんでいた。
いや、それは敢えてそうしているのだった。確実たる抗議の証として。
片手に持ったワイングラス――中身はとうに飲み干して、すっかり空になっている――その縁を、無意識になぞりながらボソリと呟いた。

「メリークリスマース」
その目はどこか剣呑で、声には嘲笑が混じっている。青年はしばらく暗い目で暖炉の火を見つめていたが、やがて手にしたワイングラスを目の前のテーブルに置き、ソファに大きく凭れかかった。
重く長い溜息を吐いて見上げた天井を睨み付けると、再び前髪を掻き上げる。
けれども、そこに自身の求めているものは無かったようで、上体を起こしたついでに乱れた髪を撫でつけながらソファから立ち上がった。
足を運んだ先は、暖炉の反対側。外に繋がる世界が見える窓辺。
暖気にて白く曇る窓ガラスを片手でざっと撫でれば、見えた向こうは雪景色。
今日は朝から雪がちらついていたから、夜までには積もるだろうと思っていた。だから早く仕事を片付けて帰って来たのに、残りの二人――例にもれず仕事中毒――が、揃って居ない。
理由は分かっている。仕事量が増加する日だからだ。

メリークリスマス。

各地の教会や聖堂、聖地で行われる礼拝や、それに伴う祝祭の為の治安警備や出張やらで上も下も大忙しになる年中行事の一つ。
神への祈り。家族や恋人たちの愛の確認。
飲んで歌って読んで踊って。
とにもかくにも、賑わい自体に罪はない。世界が明るいのは良いことだ。
だから、忙しくなるのも仕方がない。暇すぎて退屈に溺れなくても済むのだし。
予想はしていた。いつものことだから。
理解はしていた。毎年のことだから。
それでも、ああそれでも大人げなく――子供みたいな膨れっ面をして――所在なく家の中を転々としているのはきっと一人だからだと考える。
悪いのは俺じゃない。
独りきりにするあいつらが悪いんだ。
部屋の暖気で曇り始めたガラスを、また手の平できゅっと撫でて外を見透かす。

昔はこうじゃなかった。
冷たい部屋。嫌な祝祭日。
訪れる洗礼に身を固くし、目を閉じてただじっと神様に祈っていた。
そのせいか、なかなかに手放せないロザリオはこの時期になると特に身につけたくなり、情けなくも夜間着の下にその形がある。
首から下げた細い鎖が、素肌に触れていっそう寒い。

「あーもう。なんでこう女々しくなるんだかな!」
自身の鬱屈さに悪態をつき、何度目になるか分からない前髪を掻き上げる仕草をする。
ここはもう冷えた修道院じゃない。だから声は届く。神様に――ではなく、もっと近くの女神様に。
服の上からロザリオをそっと押え、窓ガラスに額を付ける。
自分がするべきことは女々しく拗ねるのではなく、この寒さの中でも遅い時間まで働いている二人を待つことだ。疲れた彼らを、すぐにでも暖かく出迎える準備をしておくだけ。
充分な飲み物。美味しい食べ物。
入浴の準備は――天然温泉だから、着替えを用意しておくことぐらいか。

「……俺って意外と家庭的だよな?」
日に日に磨かれていく己の家事スキルに、ちょっとした悦に入っていた時だった。

曇りガラスの向こう。
結露を通して見えるのは雪の積もる木々。
家の前に続く街道に沿うようにして二つ並んだそれが、いま――動いた、ような?
目を擦り、窓を擦り、ククールはごつりと額をぶつけてガラス越しに外を見る。
見慣れた木々。その位置にそれがあるのは知っている。
だが改めてよく目を凝らしてみれば、風に吹かれて舞う雪の中をその二本の木が掻き分けるようにして近づいてくるのが分かって――ククールはソファの背凭れに置いていたタオルを手に、玄関に向かって駆けだした。
銀の髪を大きく揺らし、その顔に喜色を浮かべて扉の前に辿り着くと、乱れた服を、髪をさっと整えて扉が開くのを待つ。

ざくりざくりと、雪を踏みしめる音がする。
それが少しずつだが、確かに近づいてきて。

――重く鳴る引き金。一回、二回。
そしてゆっくりと扉が開き、吹き込んできた粉雪と共に姿を見せたのは防寒具を身に纏った二つの人影。
「帰ったぞ、愚弟――む。なんだ、出迎えるのが早いな」
肩に積もる雪を払いながらフードをとって、マルチェロが皮肉笑いを向ける。
「帰還、した。……ただいま」
静かな声で答え、零れる雪のような仕草で自らについた白をさらさらと落としていたエイトが、顔を上げてククールに気づく。寒い外気のせいでいつもよりも白く見えるその氷の相貌に、少しの微笑を添えて口を開いた。
「遅く、なった。……すまない」
「別に? 例年のことなんだし、慣れてるさ。それより、二人とも食事は? 湯に浸かるのが先か?」
二人にタオルを渡しながら、鷹揚に答えるその顔に先程までの暗さはない。
余裕たっぷり、颯爽と二人に案内を勧める様は気の利いた色男そのもの。
猫のように神経質に毛繕い、その内にあちこちで爪でも研ぎそうだった雰囲気はどこへやら。
エイトの冷たい髪を、頬を、渡したタオルを奪って拭いてやりながらククールは微笑みかける。

「仕事お疲れ。部屋に火を入れてあるから、食事はそこにしようぜ。寒いだろ、今日は」
「……部屋で――」言葉を返しながらエイトが視線を向けたのは、隣のマルチェロ。躾と礼儀に厳しい男は、弟を一瞥したのちエイトに視線を戻して溜息と共に言った。
「――まあ、良いだろう。今日はもう遅すぎるし、それに軽食だろうしな」
「何だよ。なにか言いたげだな、マルチェロ」
「絡むな。他意はない。――そら、あいつが先に行ってるぞ。追いかけなくてもいいのか」
「え。――あっ。おい、エーイート! お前、さっさと歩き出してるんじゃねえよ……!」
遠ざかっていく影を慌てて追いかけ、追いついてその肩に腕を回して凭れかかりながら、ククールはエイト共に暖炉のある寝室へと歩いて行く。
その二人の背中を眺めながら、マルチェロは苦笑と共に一人零す。

「やれやれ。すっかり沈みこんでいるかと思ったが、持ち直したか」
ククール担当の勤務をさり気なく短縮し――割り当て分の仕事を密かに自分へと振り分け――早々に自宅に返したのだが、思いのほか弟は「強かった」ようだ。
降誕祭。聖なる日。
白雪の夜の礼拝。冷たい告解所にて行われるのは――……。
マルチェロは顔を顰めて首を振ると、胸元に手を当てて服の下に隠してあるロザリオに軽く触れた。
苦々しく忌々しい過去は、もはや遠い向こうにある。
あの夜は幾ら神に祈っても何も無かった。声も聞こえなかった。――子供の悲鳴以外には、何も。

この手は、あの手は、何も掴めなかった。
――掴んでくれたのは天ではなく地の存在。自分たちと同じ高さにいる、たったひとりの男。
白い雪の上に足跡をつけるように、自身の存在を強く心に刻み付けてくれた氷の女神。

メリークリスマス。

ああけれど、祝うのは、祈るのは、ただ一人。
部屋ではきっと、またあの甘えたな弟がエイトに抱き着いているか擦り寄っているかしているんだろう。
それこそ、すっかり丸くなった猫のように。
けれど、その爪は実に巧妙に押し隠して。

「さて。俺も混ざりに行かんとな」
弟ばかりを甘えさせるわけにはいかないのだ。兄だとはいえ、何もかもを弟にすっかり譲る気はない。
マルチェロは玄関の閂を下ろすと、とっくに消えた二人の後をゆったりとした足取りで追いかけた。





暖炉前のソファに、人影が三つ。
背筋を伸ばして腰掛けている青年を真ん中にして、後はいつもの定位置といった様子で男がそれぞれ両隣に座っている。
「このクランベリーソースを添えて食べると、意外といけるぜ。あと、そのホットワイン飲んでみろよ。ヌーク草もちょっと入れているから、体が温まる」
エイトの右肩に凭れかかってその口元にワイングラスを差し出す男は、いつの間にかすっかり酔っていた。秀麗な顔を蕩けさせ、冷たく整った氷の横顔を見つめながら話しかけている。
「お前は始終構っていないと気が済まんのか。少しは離れろ。そいつも自分のペースで食事がしたいだろうに」
皿を取り、その上に用意していた「軽食」という名のクリスマスディナーを少しずつ盛り付けて楽しんでいるククールに、横から口を挟んだのはマルチェロ。ワイングラスを片手にベーコンを巻いた腸詰を齧っていたが、隣向こうが騒がしすぎるので注意を投げた。
すると、返ってきたのはムスッとした膨れっ面。
「構ってるんじゃなくて、オススメを取り分けてるんだよ――そら、エイト。食べてみろよ、美味しいぜ」
単なる給餌じゃなくてソムリエ(給仕)なんだと訂正してみせ、寡黙な青年に皿を渡す。
「……ああ」
返されたは短い相槌。白くしなやかな手が皿を受け取り、銀製のフォークが突き立てられる。
柔らかそうな唇が開かれ、その弾力のある腸詰を噛みちぎる様は野性味がある行為だというのにどこか艶めかしく美しい。
肉脂が唇を濡らし、いっそう妖しく魅せてくるのでククールはそれをしばし、まじまじと凝視していたが――「おい。見つめすぎだ。そいつが戸惑っているだろう」
マルチェロの叱責を聞いて、我に返る。意識を戻せば、ククールが見たのは美しい双眸と微かな眉間の皺。
「あー……悪い。ちょっと、ぼうっとしてた。――ああ、飲み物がないな。持って来る」
「クク、」
エイトが口を開くより早くにククールは顔を背けるようにして立ち上がると、気づかない振りをして部屋から出て行ってしまった。

「……」
半開きになったままの扉を見つめているエイトの隣から、溜息。
「……この祝祭の日は、少しおかしくなるんだ。悪いが、見なかったことにしてくれ」
「……それは、お前もか。マルチェロ」
「……お前も大概、目敏いな。だが、まあ、否定はせんさ」
「……、……そうか」
エイトはそれだけを言うと、皿を置いてククールが薦めていたホットワインを飲む。
それからグラスを置くと、不意にマルチェロに手を伸ばしてその肩を軽く叩いた。
顰め面に似た表情を浮かべていたマルチェロが、途端に苦笑する。
「お前という奴は、全く……絶妙なタイミングで射殺してくるな」
「……危害を加えたわけ、では」
「ああ、そうじゃない。――いや、あながち間違ってはおらんか」
そう言ってマルチェロはくつくつと沈痛笑いをして肩を揺らしていたが、その内に彼も手にしていたグラスを置くと、少しだけエイトの肩に寄りかかった。

「あいつが戻ってくるまでだ」
「……そうか。自由に、するといい」
「ははっ。……そうだな、自由だ。――自由なんだ、俺たちは」
焚火の爆ぜる音の中、暖炉の前でエイトは寒さに身を寄せるようにしてきたマルチェロに己の肩を貸してやりつつ、ククールに取り分けてもらった皿の上のディナーをまた軽く摘まみ始めた。

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