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龍宴庭note

突発小話&気まぐれ雑記用。 詳細などは「Category」→「★ABOUT」に記載。
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【マル&クク主drago】聖夜に祈りを、ロザリオに口付けを2

■ちょっと足りていない
ククと主のやりとりが少なかったので、書き足しという名のその2。

メリークリスマス!
でも平日なので特に気分は上がっていないという。
鳥やらケーキやらは食したのでメリーではある。

庶民の戯言はさておき、以下クク主っぽいものを。
そして多分今回もククはイケメンではなく猫メンかもしれないと訳注を。
それでも宜しければどうぞ。
(ギリギリに書いた上に途中で一度中断したので日付自体は25日のままですが、気にしない方向でお願いしますと言い訳)







暖炉の火も消え、暖気も人の気配もすっかり無くなったリビングにそれは居た。
窓辺に置かれた一人用のカウチに座り、ガラスの向こうに見える景色を見つめている。
混じりけのない清水を凍らせたような、冴え冴えと美しい相貌。長い睫毛が瞬く度に、それが人形ではなく人なのだと辛うじて思わせてくれるが、ぞっとするほど気配が無い。
だというのに、その存在は灯りのない室内でもこの上なく目を、意識を惹きこんでくれる。――引き寄せられる。

「夜更しですかー、エイトくん?」
茶化すような口調で背後から声を掛けた。すると相手が肩越しに振り返り、外へ向けられていた視線が声を掛けた主――ククールへと留められる。
「……ククール」
ただ名前をなぞりあげたその声の、なんと艶めかしいこと。低音ながらも響きの良いそれは、いつ聞いても心臓を揺らめかせてくる。
ククールは寒さではない震えから身を守るよう、胸の前でさり気なくローブを掻き合わせるとエイトの背後に立ってその肩に手を置いた。
「なんとなく目が覚めてさ。で、隣を見たら空白が出来てたもんだから探しに来たんだ。……なにか面白いものでもあるのか?」
そう言って、エイトが見ていた方角を見る。暖気のない為にガラスは曇っておらず、故に実に見通しが良くなっていた。
少し、吹雪いている。動くものは風に揺られた枯れた冬の木々のみで、他は何もなかった。
「……何を見ていたんだ?」
首を捻って素直な質問を投げれば、エイトは再び窓のほうを向いて答えた。
「雪を、見ていた」
「雪? トロデーンの方も降るんだから、珍しくないだろうに。子供かよ」
からかいながら、それでもエイトの隣に腰を下ろして同じ景色を見る。

風に舞う雪は木に積もり窓を叩き、地面に落ちてはその白を重ねていく。
特に目新しくもない、見飽きた光景。むしろ、見ているだけで寒々しい。
ちらと隣を見たククールは、じっとそれを眺めている氷の美貌に見惚れ――こっちのほうがずっと良い――そうして、薄く笑う。
「お前さ、そんな薄着で寒くないのかよ」
声を掛ければ、相手は視線だけをククールに向けて――「慣れている」と、一言。
確かに、この美貌の男はこれでも城勤めの兵士であるので夜勤や野営などで耐性がついているのだろう。
それでも、見ている側としては「寒い」のだ。
そして、わざわざ隣に来たんだから構え。
にゃー。

「俺は慣れてない。寒い。だから、ほら――ちょっとこっちへ来なさい、エイトくん」
そう言うなり両手を広げ、年上ぶった口調で誘いかける。これまでの経験から得た技術。低く甘い声と蕩けるような微笑でもって。
けれど、けれども相手は氷解せぬ硬質な美貌の女神。視線だけを向けると、無表情のままに今度は首をひと傾げ。
「……俺に付き合わずとも、寝室へ戻ればいいのでは」
手応えどころか、無意味だとは分かっていた。見えていた結果。
彼の女神様には、数多もの異性に特効があった仕草も手管も通じない。一応、同性にもそれなりの効果はあったのだが。
だがククールは落ち込まない。
引いてダメなら押してみる。

「俺は寒いって言ってるだろ」
わざと拗ねたような声で言い返して、頑なな女神様の腕を掴んで引き寄せた。強引に。
けれども「子供のワガママ」だから許されるだろう。
にゃー。

腕の中に引き込み、足の間に座らせてそのまま抱き締めれば湯たんぽの出来上がり。
最初からこうすればよかったのだ。暖かい。
抱きしめたエイトの肩口に顎を乗せて、ククールは言う。
「こんなに冷え切っていて、慣れてる、じゃないだろ。この馬鹿エイト」
叱りつけるも、言葉に反して動作はすっかり甘えた猫。ごろごろと喉を鳴らすように首筋に顔を埋め、その身体に自分の体温を移してやる。

(本当に冷たいな。いつからここにいたんだ?)
自分が目を覚まさず、そして探しに来なかったらこの男はどうしていたのだろうとククールは少しぞっとする。
他者のことにはよく気づき、気遣うくせにこの男は世界が平和になっても、相変わらず自身を粗雑に扱うのだ。
強敵と戦って怪我をしても、まず優先するのは仲間の治療。
抹香じみた台詞はそれこそ神に仕える者たちがお手の物。
神はいつも見守っていて下さるだの、主は常に貴方の側にあられるだの、守護だの試練だの。

――だったらなんで、俺たちは救われなかった?

大人になった今ではあのヘドロのような場所に当然ながら未練などは無く、地位と権力を得たマルチェロと共にきっちり一掃し、しっかり片付けてやった。
あの地下室はもうない。
泣いて蹲る子供はいない。
それでも、聖者の日であるこの前後日は一人で眠れなくなる時がある。
だから、一緒に眠るようにしていたのに。習慣づけて来たのに。

「……勝手に置いて行くなよ」
つい口から出たのは、恨み言。唐突な。
エイトが少し首を傾げてククールを見る。
「起こすのは、悪いと思った。……ククールも、雪を見たがっていたとは、思わなかった」
ずれた反応を返してきたエイトに――当然だろう、単なる八つ当たりから出た言葉なのだから――ククールは苦笑し、そうじゃないと首を振ろうとしたが結局は頷く。
「そうだよ、俺はお前と一緒が良かったんだ。だから、次からは声を掛けてくれ」
「……そうか。……分かった」
「うん」
ああ、少しずつ温かくなってきた。――暖かい。
にゃー。
その首筋に鼻先を軽く擦りつけ、さり気なくマーキングしていれば――「眠いのだったら、そろそろ戻った方が」
「戻るなら、お前と一緒。なに、エイトはもう雪見は良いのか」
「……否。もう少し、だけ」
「じゃあ、俺も一緒な。お前、一人にしとくとまた体冷やすだろうからな。ククールお兄さんは許しません」
「……兄は、マルチェロでは――」
「――今はエイトと俺だけだから、俺が上」
「……」
得意げに、けれども目を細めて笑うその顔は機嫌のいい猫そのもの。しかも顔立ちが整っている為に素直な感情から微笑んだものだから、とびきりに目を瞠る美麗さがあった。
さすがに、ちょっと驚いたらしいエイトが何か言おうと口を開閉させたが、首を僅かに傾げて言葉を留めると、微笑を返した。こちらもまた、極上の美で。

「なーエイト」
「……何だ。戻るか」
「そうじゃなくて。……いつだったか、おまじない、してくれただろ。アレをしてくれないか」
「……おまじない……、……ああ。良き夢見の」
「そう、それ。キスしてくれたやつ。――なあ。それ、やって」
肩越しから顔を覗き込むようにして、ククールが甘い声でねだる。
耳元、囁いて。
これもまた手管の一つ。
エイトは口元に手を当てて考えるような仕草を見せたが、やがて顔を動かしてククールを見る。
上体を軽く捻って見つめ合う格好をとると、片手は頬に添え、もう片手で前髪を掻き上げるとそこへ顔を近づけて――。

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