白い月が掛かる、薄青の夜の中。
月光の下、それは居た。
城壁の近くに静かに佇み、周囲を警戒する姿は一見すると兵士には見えない。その硬質な横顔は遠目からでも美しく、肌の白さも相まって薄闇の中では更に際立っていた。
夜風に吹かれて揺らぐ前髪から覗くのは、長い睫毛に縁取られた漆黒の瞳。
ぞっとするほど深い闇色の双眸はしかし自ら捕らわれたくなるほどの妖艶さがあって、目が離せなくなる。
一度でも認識すれば引き寄せられる。
だが、遠望を保っていれば“被害”は軽い。
けれど、見るだけでは飽き足らず、少しずつ距離を縮め、詰めきった先にて待つのは誘蛾の末路であることだけは知っておくと良い。“それ”は、そういう存在である故に。
当人に、その自覚は全くないだろうが。
◇ ◇ ◇
――声を掛けるか迷っていた。
ひんやりとした空気漂う屋上、見張り台の影で彼女は逡巡していた。
何だか寝つけなくて。
なんとなく、顔が見たくなって。
そんな理由から、“彼”の部屋に足を運んだものの、姿が見えなかったので、近くの兵士に話を聞いたところ“彼”は夜警として見張り台にいると教えられた。
礼を言い、小走りで――姫様、廊下を走るのは危険です!と、慌てた兵士の声を背後で聞きつつ――目的の場所へと、向かった。
見張り台としての役目がある為に長い造りの階段を上り、息せき切って、どうにか辿り着いた屋上に――ああ、“彼”が居た。
エイト、と。
気安く声を掛けるには、相手の雰囲気が荘厳すぎた。
月白のために少し明るい夜の刻。その月光を受けて立つ姿は相変わらず冴え冴えとした氷の美貌を保ち、まるで仄白い燐光を纏った精霊のように見える。
一陣の風が、エイトの髪を、肩口に掛かるマントの裾に触れるように通り抜けた。
それは戯れめいていて。
何もかもの寵愛を受けているのではないかとすら錯覚する存在感には、どこまでも透き通る美しさがあった。
そのせいか時々、こうして足が竦んでしまう。
月光下にある彼の存在はとても儚くて、触れた途端に消えてしまいそうに見えるから。
子供の頃は、彼に向かって真っすぐに飛び込んでいたのに。
「……ミーティア?」
気づけば視線の先の相手が――エイトが振り向いており、彼女の姿を捉えていた。
そうして蝶は自ら蟲惑の網へと囚われて。
「あの……私……、こ、こんばんは。」
名を紡いだ低音に、胸が高鳴る。
いつ聞いても、この幼馴染の声は心地いい。
惹き寄せられるようにして、ふらりと物陰より出て来た姫君に、エイトが足音なく近づいてくる。
「何故、ここに。」
「あ、あのっ、貴方に会いたくなって!」
「……俺に……会いに?」
「えっ、あっ――ご、ごめんなさい、そうじゃなくて、あの、眠れないから、貴方と少しお話がしたいなって、思って……っ!」
とんでもないことを口走ってしまい、ミーティアは動揺する。
けれども、反応を返したエイトの声にも僅かな驚きが混じっていたように思うのは、気のせいだろうか? 同じように驚いてくれていたなら、それはそれで少し……嬉しいのだけれども。
「……これを。」
美しい幼馴染はミーティアの前に立つと、躊躇いも無くマントを脱いで彼女の細い肩にそっと掛けた。
「あっ! これは貴方の防寒具でしょう、エイト。私なら大丈夫ですから――」
「承認出来ない。」
慌ててマントを外そうとすれば、しなやかな手がそれを抑えた。軽い力ではあるけれど、見上げたエイトの眼差しは強く、ミーティアを見据えて口を開く。
「……体を冷やすのは、良くない。」
「ですが、」
「――許可しない。」
端的な否定を吐く氷の声とは裏腹に、その眼差しと気配はどことなく優しい。
ミーティアの口元が、喜びに綻ぶ。今度は素直に頷いた。
「ありがとうございます……。」
そして俯く。朱に染まっているだろう顔を隠すために。
そんな姫君をどう見たのか、エイトが僅かに首傾げる。
「ところで……話、とは。俺に何か、用か。」
「えっ……あ、あの」
ただ顔が見たくなった。
声が聞きたくなった。
それだけの目的で、しかも勢いだけで来たものだから、改めてどうしたのかと問われると――困ってしまうわけで。
「なんでも、いいのです。……その、子供の頃の、お話、とか。」
「――。」
エイトが何か言おうとするかのように、口を開いた。だが言葉は紡がれず、その唇は一文字に結ばれる。きゅっと引き結ばれたそれが示すものは、何だろう。
幸か不幸か、ミーティアは俯いている為にエイトの反応に気づかない。彼の兵士は見えない答えでも探すように視線を軽く彷徨わせたのち、言った。
「……貴女は、可憐だった。」
「ひぇっ――!?」
氷の麗人が発したのは、唐突な讃嘆。
予想だにしなかった相手の発言に、ミーティアは弾かれるように顔を上げてエイトを見た。
「なっ、エイト、なにっ」
「幼少期の、話を。……ミーティア。貴女は、花のように可憐で、太陽の日差しのように優しくあった。」
「ひぁっ、エッ、エイト!? 待って、あの、あのね、……!?」
子供の頃からの付き合いがあり、彼の美貌と性格には幾らか耐性があった彼女も、これには面食らった。可憐だと称えられた顔を真っ赤にして、わなわなと震える。
絶佳の美、氷中の雪花。
城内で密やかに話題となる程に艶やかな青年が、照れもせずに――ああ、この幼馴染は常に冷静沈着だ――全くに臆することなく、賛美をぶつけてくる。
艶めく低音で。――「昔は可憐であった、が……今は、とても美しい、と思う。」
待って、エイト。
妖美な眼差しで。――「貴方は、心も綺麗だ。……俺も、臣下として、誇りに……思う。」
ねえ、待って。
見上げる先、よりにもよって星空を背にしたその幻想的な状況下で、佳人が微笑と共に囁く。
「ミーティア。――俺は、君を、大切に思っている。」
あああああ。
お願い、お願いです神様。
夜更けに一人、ベッドを抜け出した私が悪いのです。
反省します、いえ、もう充分に反省しました!
ですから、だから、このように甘い罰は――!
「――お許しください、エイト!」
「――。」
思いがけず、大きな声が出た。
彼女は既に顔を真っ赤にしており、自覚があったのでそれを両手で覆い隠して俯き、早口で話しだす。
「あ、あのっ……ごめんなさい。お、お話は、もう、充分です。――っ、今日は、ありがとう……っ!」
「……そう、か。」
小首を傾げるエイトとは裏腹に、盛大な賛美を受けた姫君はすっかり落ち着かなくなっていて、相手の顔を見ることができない。
顔が熱い。鼓動が早くなっている。
これ以上は、いけない、いけない、いけない。
だって、こんな、息が苦しくて、胸が苦しくて。
……頭が、くらくらした。
「わ、私、戻りますね!」
「……分かった。では、貴方を部屋まで送――」
「しっ、下に侍女を待たせていますから、大丈夫ですっ……おやすみなさいっ!」
矢継ぎ早にそう言って、ミーティアは背を向けるとそのまま一直線に階下へ続く階段の方へ走って行った。
「……。」
彼女があまりも素早く逃走してしまったから、エイトは無言で見送るしかできなかった。制止する為か、すっと上げかけた右手は、そのまま下ろすことに。
口元に軽く手を当てて、考え込むような仕草をする。
しかし答えは出なかったのか、少しの空白を置いたのちに口を開いた。
「俺は、何かを間違えたのか――ククール。」
そこから動くことなく塔の片隅、その暗がりに向かって。
そんな台詞を投げれば、はーっ、と呆れたような溜息と共に男がひとり、姿を見せた。
◇ ◇ ◇
エイトが夜勤だというので、己の「暇潰し」という名の「構って欲しさ」から、こっそり紛れ込んだ城内勤務。(一応、顔見知りの兵士にはエイトを通して許可をもらっている。)
ひっそりと雑談をしていたそこへミーティアが現れたものだから、ククールは急いで物陰へと身を隠したのだった。
そのせいで、故意ではないが必然的に「盗み聞き」という形で、彼らのやりとりを知る。……見てしまうことになった。姫君と一兵士の、清純な甘さすら漂う密かなる逢瀬を。
銀色の長髪を揺らしながら、ククールがエイトの元へ歩いてくる。その端正な顔に、複雑な表情を浮かべて。
「お前は“そういうつもりじゃなかった”んだろうな。」
「……そういうつもり、とは?」
「いや、それは……まあ、うん。気にするな。」
悪意も打算も無い中で、人が真っ直ぐに落とされる瞬間を見てしまったククールはというと、何とも言い難い顔でエイトを見下ろす。
こうも簡単に落とされるのか。
交わした言葉は短く、濃厚な接触もなく、ただ平凡な、他愛ないあの短いやりとりだけで人が――姫君は落ちてしまった。長い付き合いのようだから、それなりの耐性があっただろうに。
そういった壁も守りも、彼の女神は簡単に透過してくる。
壊すといったことはせず、静かに――氷の上を広がる水のように、実に滑らかに、実に広く浸食して。
「なんというか……堪らないな。」
自分もそのような形で静かに落とされた口だが、こうして目の当たりにするとぞっとする。
この女神様は、その冷え冷えとした外見とは裏腹に慈悲深い。
常に無表情でいるが、極稀に見せる砕氷の微笑などは殊更に柔らかで美しく、少しでもそれに触れればたちまちのうちに心が捕らわれてしまう。
いや、囚われるのを望んでしまうのだ。
もっと望んでしまう。
彼の“侵蝕”を。
ひたひたと、この身が、その身が、触れたくなる。
ひどく焦がれ、焦がされ、果てに狂おしく望んでしまうと、もうダメになる。
――堪らなくなる。
他の者が触れることは……許せない。
嫉妬の獣。
それも底無しに貪欲な。
「お前、なりふり構わず慈しむのも大概にしろよ。」
親切心からの警告ではなく自身の願いからの忠告をしておいて、ククールは自分が羽織っていたビロードマントを相手の肩にかけてやる。……そうした方法で、少しだけ心を慰めておいて。さり気なく距離を縮めておいて。
エイトがククールを見上げ、首を傾げる。
「……これは、お前のだろう。」
「ウルサイ。いいから、羽織ってろ。」
「……気配が尖っているが、どうかしたのか。」
なんでそういうところは目敏いんだよ、女神様。
ミーティアはエイトが仕える国の姫君だから、彼らの主従関係に対して嫉妬する気持ちは、全くない。
……ない筈、なのだが――ならば、この胸のもやもやは一体どういうことなのか。
ああ、それもこれも、この女神様の“慈悲深き御手” が長いのが悪い。
「……目移りするんじゃねえよ。」
「ククール?」
「……っ。ああ、もうほんと、面倒くせえ!」
がりがりと髪を掻き、爆発しかけるどうしようもない癇癪を抑え込むと、ククールはエイトの両肩をがつりと掴んで言った。
「とにかく! お前は、あちこちフラフラするな。分かったか!?」
「……。迷子になるようなことは、していない。」
「迷える羊は確実に出てるんだよ。いいから、気をつけろ!」
「……、……分かった。」
脳内に幾つもの疑問符が浮かんだだろうが、それでもエイトはククールの迫力だか剣幕だかに圧されて、「気をつけたい、と……思う」という、曖昧な返答をした。
それでいいんだよ、とククールは背を向けて夜空を見上げる。
静かな屋上。
真夜中の青はどこまでも深く濃密で、月に雲がかかっているせいか時々薄暗くなる。
吐く息は白くはないものの、それでも少しひやりとする。
ひゅう、と。
二人の間を、夜風が一陣通り抜けた。
「ックシュッ! ……はあ。今夜は意外と冷えるんだな。」
そう言ってしまってから、はたと気づいた。つい先ほどにした自分の行い――防寒具を貸与したばかりであることを。
「あー……エイト。今のはナシ。俺のことは気にするな――」
さすがに格好がつかないと考えたようで、エイトの方を見ないようにしてククールがそう言えば――ふわり、と何かが目の端で動いたのが見えて。
いつの間にか、その腕に引き寄せられ――抱き込まれるようにして、ククールは女神の抱擁を受けていた。
「こうすれば、……マシだろう。」
近距離から囁かれたのは、熱のない氷の低音。
けれども、それはククールの内を軽く引っ掻く。甘やかに、からかうように。
小さな暗幕の中で、エイトが吐息めいた声量で言葉を紡ぐ。
「寒くはないか、ククール。」
「さ、むくは、ないっ、けど」
吐息がお互いの髪に触れかねないその距離は、どうにも近すぎて。
この女神様は、他からの接触をあまり好まない。常にその身に纏っている冷ややかな気配と眼差しとで、無遠慮な接近は許さない。ただし、女子供は別にして。……差別だ、と思わなくもないが。
だというのに、時々どういう気紛れか、それともどうした移り気か。
彼の人はこのようにして、唐突に自ら手を伸ばしてくることがある。
常に冷たい手が伸ばされ、辿り着くは欲を潜めた深層。そこを、ぞろり、と撫で上げる。
こちらが不可侵を守っているのに、当の禁足対象が軽く踏み越えてくるのだ。
その忍耐を笑うように。
こちらは実に“敬虔な”狂徒であるというのに、彼の女神は容易く踏み抜いてくるのだ。
その制約を哂うように。
いっそ落ちきったほうが楽になるとでもいうように、誘う。
――なんと残酷な慈悲か。
(いっそ裏があるとか、計算で動いてるとか、そういった理由だとだいぶマシ……いや、かなり助かるんだけどな。)
マントを掴む手が、ククールの肩に回されている。身長差も手伝ってか、エイトの方が下から顔を覗き込む形になっていた。
少し……ほんの少しだけ屈めば、桜色をした唇に対する距離はゼロになる。
体勢を調整するふうを装って、エイトの肩に手を置いてみた。
すれば相手が「?」と首を傾げる。
「どうした。」
「ん。 ……どうしたいんだろうな?」
見つめる相手の顎を軽く掴み、親指でそっと触れた唇は見た目通りの柔らかさ。
「ククール。」
名を呼ぶ感情籠もらぬ声は低いながらも艶があり、その冷たさすらも癖になる。
「……ククール。」
最初からこちらの美貌などには目もくれず――本当に一瞥すらくれない時期もあったが――それどころか、自身の持つものにすら全くの無関心でいる男。
ここまで溺れるとは思わなかった。
こんなにも深く落とされるなんて、思ってもみなかった。
境界線。
目の前で踏み越えたら、どうなるだろう。
「――ククール。」
顔を傾けかけたその時、ククールの口元をツッと押さえるものがあった。
それはエイトの手の平で、今まさにククールが起こさんとしていた行動を制止するかのようだった。
拒絶の壁だろうか。
偶然ではあるが、手の平へのキスは懇願。
止めろ、と暗に言われているのか。
するとこれは……こちらの願いを否定されたことになるのだろうか。
思わず眉根が寄る。
明確な言葉を貰っていないのに、既に落胆する気持ちがあった。
だが、ここで食い下がったり、強引な行動に出たりする気はない。これでも一応、まともな理性はある。
(――俺は獣じゃないからな。)
内心で自嘲する。
そうだ、自分はケダモノじゃあない。
それでも何だか残念な気持ちは拭えず――わかっている、これは子供じみた身勝手な我侭だ――軽く唇を噛みつつ離れようとすれば、ククールを押しのけた白い手が胸の所を軽く掴んできた。
「……っ、エイト?」
犯しかけた過ちに対して、何か文句の一つでも言われるのかと思わず身を固くすれば、その手は更に掴んだ箇所を引っ張り――ぐいと引き寄せられて。
――そうした形で、触れたかったものが自らやってきた。
頬に落とされたのは、羽のように軽いキス。
突然のことにククールが目を丸くすれば、抱擁を解いて体を離したエイトが微笑む。
「別れの挨拶を、しようとしたのだろう。……止めて、済まなかった。」
つまりエイトは、「親愛を示す挨拶をしてからククールは帰ろうとしていた」と勘違いしたようだった。
「そ、……」
そういうわけじゃなかった、とは最早言いにくい。それに、仮に否定したとして、ではどんなつもりだったのかと再度問われるほうが困るわけで。
「これは、返しておく。」
エイトがマントを外し、ククールがそうしたように彼の肩に掛けて返した。
「……夜は、まだ暗い。――気をつけて、帰れ。」
穏やかに聞こえる声での見送りは、この上なく胸の奥を引っ掻いて。
肩に掛けられたビロードマントをぎゅうと握りしめ、ククールは何とも言えない顔になる。
離れたくない。抱きしめたい。キスをしたい。
感情が溢れる。
けれども、ケダモノじみた行動で穢したくはない。
――なんとも残酷な女神様だ。
ククールは一度大きく息を吸い、それから静かに吐きだすと、軽く自分の両頬を叩いて心を落ち着けた。そうした上でエイトへ視線を向け、どうにか冷静さを保った笑みを浮かべる。
「……今日は、夜勤の邪魔をして悪かった。でも、話せて楽しかったぜ。」
「そうか。」
「……。……。……じゃあ、そろそろ帰るな。」
「ああ。」
離れがたい。まだ足りない。まだまだ物足りない。
子供じみた我侭が溢れそうになる。
けれども、あまりにも見っともない行動はとりたくない。
――俺はどうすれば解放される?
その場からすっかり動けなくなってしまったククールを見て、エイトは何を考えたのか。
――本当に、何を思いついたのだろう。
俯き加減のククールの前で、すっと両手を広げて。
「……抱擁も、必要なら。」
おいで、とでも言うように。
氷の相貌に、微かな微笑を乗せて。
「……っ、~~っ、お前って本当に――っ、……!」
言いたいことはたくさんあったが、それよりももう彼の誘いには抗えず。
強張る体をどうにか動かし、ぎこちなく――けれども確かにその背に腕を回し、しっかと抱きしめた。
心が満たされる。
緊張が、未練が、すっかり解けてしまった。
全く、この女神様は残酷に甘やかすのが上手い。
長いような短いような抱擁を終えて、体を離す。
「……それじゃあ、今度こそ帰るな。おやすみ、エイト。」
「ああ。……おやすみなさい。」
もう振り返りはしなかった。
微かな温もりが残るマントに身を包み、ククールはルーラを詠唱する。
「……。」
銀色の軌跡を描くようにして夜空の向こうに姿を消した青年を見送った後、エイトが静かに息を吐いた。
無表情に胸元を押え、僅かに俯く。
年上の!
美形が!
予告も無く!
突然に可愛らしさすら感じる甘えたさんになるのはちょっと勘弁してください!
酷く混乱し、動揺し、それでもまだ勤務中である為に、必死に冷静を保たねばならなくなったエイトの心中をただ空に浮かぶ月だけが見ていた。