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龍宴庭note

突発小話&気まぐれ雑記用。 詳細などは「Category」→「★ABOUT」に記載。
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【竜神王主drago】Misericordia da Rosa

■もやもやの果て。

夏休みの宿題的なものに追われているのにも関わらず、綺麗さっぱり文章が作れずどうしようかと仰臥中。
文章断片化と更には情景細分化現象が出てます。「=頭の中で話が繋がらず、場面が浮いている」状況。
雑記ですらこんな体たらく。何を書いてるか分からない。
仕方ないので、気分転換的な意味合いも込めてサイトやblogのデザインでも変えてみようと考え、ここ最近水面下(個人的感想)で色々触ってその変更を楽しんでいたんですが、弄り過ぎて戻すのに苦労する羽目に。

結論。ぞんざいな一人遊びは程々に。

そんな中で、荒療治的に小話drago竜神王と女神様。
主題は母の日だったのに日付超えるわ内容沿ってないわでもうなんかアレ。
とりあえず竜神王も狂信ゴーで巻き込みました。






――それは秘密の薔薇となる。


竜神族の里に続く道は険しく、また魔物が徘徊しているが故に大変に危険な場所である。
しかし侵入者を防ぐ役割を果たしているのもあってか、特に問題視はされていない。

問題では無かったのだ。
それを見るまでは。

獣道を思わせる、ごつごつした岩肌続く道。
里から離れた道の外れ、ぽつねんと存在している小さな洞穴には無名の墓標がある。
その場所は隠匿されている為に知るものは多くはなく、供花もこじんまりとしたものなのが常であった。……その時までは。

洞穴内部に存在する、墓石前にて。
ひっそり佇むは、一人の麗人。両腕いっぱいの何かを抱きかかえている。
遠目からでも目に鮮やかなそれらは、赤から紫に流れるように様々な濃淡の色彩を持った大輪のバラの花束だった。
その腕の中から、花が一輪ほろりと零れる。
彼の麗人はそれを一瞥しただけで、特に何かを――落ちたバラを拾うわけでもなく、長い睫毛を伏せて、僅かに項垂れた。
その姿は黙祷か瞑想か。
ともかく分かることは、それは静かに祈りを捧げているということ。

声を掛けるには、あまりにも静謐な姿で。
近づくには、あまりにも幻想的な儚さがあって。
その時の己に出来たのは、ただその場に立ち尽して見つめることのみ。
彼の纏う世界は、音のない全くの静寂。漆黒に一筋垂らした、真っ青な雫。
放つ気配はどこまでも透明でいて、その冷たく整った美貌も相まってか存在感がまるで人のものではないように見える。

ああ。と心中で思わず零れたは感嘆が溜息。
成程、これが噂に聞く不可侵の女神か。

人が抱く興味という感情に愉悦を覚え――同時に、ざわめく焦燥感の正体はそのままに――彼の美麗な光景を愛でていれば、視線を感じたのか対象相手が振り返る。
相手は僅かに目を瞠ったものの、けれどもその美しい相貌の無表情さを崩さずに口を開いた。

「……竜神王。」
名を紡いだのと同時に微かに小首を傾げれば、それに合わせるかのように彼の抱える花束からまたバラの花が一輪、ほろりと零れる。それは真っ直ぐ、彼の足元へ。その爪先へ、口付けでも落とすが如く、控えめに。
竜神族と人とのハーフによる血のせいか、彼は何を重ねても美しい。
そして――怖ろしい。この竜神たる王ですら、迂闊に触れてはならない、と一瞬ばかり躊躇うほどには。
一瞬、ではあるが。

ああ、この美しい生き物を前にして何もせぬものが何処にいようか。

「久方ぶりだな、エイト。」
抱いた動揺など露ほども見せずに、相手に歩み寄る。王たる風格をどうにか保って。
すれば、相手はまた目を伏せて黙礼し、そろりと一歩ばかり後退った。さり気ない行動ではあるが、それは本能からの警戒か、それとも単なる畏敬が為の行動か。
動いた際に揺れた髪の艶やかさ、そしてその長めの前髪から僅かに覗いた黒瞳の美しさに、更に興味が煽られる。
以前に彼の麗人、エイトの祖父であるグルーノから「孫は人見知りの気があるので、どうかあまりお構いなさいませんようお願いいたします」と、遠回しな接近禁止を嘆願されたことがある。
その時は、たかだか人の子に対して大仰な、と呆れたものだが――今こうして相対してみて、理解した。
これは「構いたくなる」存在だ。

「なに、畏まる必要はない。ここは里の外。私もお前も、同等だと思え。」
「……。」
無理矢理な平等感を示してみたが、エイトは目を上げて竜神王を一瞥したものの、すぐに下方へと流してしまった。人の子としての恐れか、竜神族としての畏れか。……どちらにせよ、彼の祖父との制約は既に外された。枷はただこの足元に纏わりつくのみ。

「……それは、お前の母に宛てのものか?」
どうにか意識を向けさせるべく、適切であろう質問を投げた。それは効果があったようで、エイトが視線を上げて竜神王を見る。
逡巡の為か、少し間を置いたのちに首肯した。
「ああ。……今日は、感謝を伝える日だと――ここには、父と母が、居るので。」
墓石を見て、それから竜神王に視線を戻す。
「……貴方は、何故ここに。」
艶すら感じられる低音の声は、もう少し力を籠めると不快な威圧となるだろう。けれども、それは絶妙な加減でもって、かつり、とこちらの胸の奥を引っ掻くに留めた。

(誘っているつもりではないだろうが、しかし……なんとも煽動するのが上手い。)
内心で苦笑し、エイトとの距離をそれとなく詰める。
「私も、お前と似たような理由だ。彼女……、ウィニアのことを思い出したのでな。」
「それで……ここに?」
質問を重ねるエイトは無表情ではあるが、微かに眉根が寄っている。不審に思っているのか、不信を抱いた為か。まあ、手ぶらでいるのだからそうした警戒も仕方がないだろうが。
「私の場合は、墓参ではなく見回りだ。時々、こうして足を運んで印をつけている。無粋なものに荒らされたくはないだろう?」
「……そうか。」
得心がいったのか、眉間の皺を消してエイトが頷く。それから腕に抱くバラに視線を落とし、ふっと息を零した。

「……、……ありがたい。」
短く零した吐息めいたそれには微かながらも喜悦があり、そして――どうにも柔らかい甘さがあった。
長い睫毛を伏せ、花束を抱いて微笑するその姿は氷の女神。
その上、頑なな氷が砕けた先にあったのは、咲き誇るバラが如く美の開花。
(……正に天上のバラだな。)
グルーノの悩みの種の正体を、真に理解できた気がした。
無為たる行動で無防備を曝け出し、そして――無知なる罪を重ねていく。女神が美貌でもって。

惹かれた者が辿る先は、さて天国か地獄か――それとも煉獄の果てへと行きつくか。
なんにせよ、狂い落ちれば最後。ただでは済むまい。……狂信者ともなれば、幾らかの慈悲にありつけるかもしれないが。

「……ところで、エイトよ。それをいつまで抱えている気だ。ウィニアが待っているのではないか?」
「……ああ。」
竜神王の指摘を受け、エイトが「そういえば」とでもいうように頷いた。
墓石に視線を向けて近づき、膝をつく。
そうしてから、ようやく手にしていた花束を墓前へと供えた。
空いた両手はそのまま祈りの形をとり、頭を垂れて黙祷する。
そこには、長いような短いような時の流れがあった。

――真たる静寂が横たわる。
洞穴の外には魔物が徘徊しているはずなのに、その時ばかりは音も気配も無くひたすらにひっそりとした静けさだけがあった。
その雰囲気を表すならば、深い海の底、真夜中の青。透明な氷の華が静かに開く瞬間。
やがて、祈りは済んだらしい。氷の麗人は顔を上げて立ち上がると、流れる動作で膝の土を軽く払ってから竜神王を振り返った。
「俺の用事は済んだが、貴方は――」
どうするのか、と言いかけたエイトの言葉がそこで止まる。

思いの外、そこに距離は無かった。
すぐ目の前に竜神王がいて、その手が動いたと思ったら右側の髪をひと房そっと掬われていた。
「……。」
意図を問うように無言で見つめるエイトの眼差しを受けて、竜神王は微苦笑を浮かべる。
「ああ、すまない。ここに、白いバラの花びらがついていたのでな。」
架空の欠片を接触の言い訳にしておいて、竜神王は尚も触れていく。
「きちんとした食事は摂っているか?」
「……ああ。気をつけては、いる。」
髪から離した手をゆるりと滑らせてその頬に触れれば、エイトの視線がそれを追いかける。
「……頬には、何が。」
再びの問い。竜神王は答える。
「ああ。赤いバラの葉が。……日常は問題ないか?」
「……、ああ。特には、何も。」
「そうか。なら、人間関係では? お前は人見知りをするとグルーノが言っていたが。」
「……。今は、問題ない、と思う。……友人たちが、いるので。」
「……友人、か。」
竜神王がそこで僅かに眉根を寄せた。手は更に滑り落ち、首をなぞり鎖骨へと触れる。
「――黄色いバラの、枝端が。」
そこには何が、と口を開こうとしたエイトより早くに竜神王が言葉を重ねた。
口を噤むエイトに笑みを向けて、竜神王はするりと更に下へ手を滑らせる。
肌を撫でるような仕草で服の上から輪郭をなぞり、そうして止まった先は心臓の上。
エイトの視線がそれを見止め、その次に竜神王へと移ったのを確認してから王は笑みを深める。

「この竜神族が里へ――我が元へ来ないか、エイト。」
「……。」
エイトは口を開いて何かを言おうとしたものの、閉じてじっと竜神王を見つめる。
そこに恐れはない。――畏れさえもなく。
冷たい氷の双眸で竜が王を見据え、応えた。
「拝辞させて頂く。」
へりくだってはいたものの、はっきりとした意思を示していた。――拒否の形として。
「それは人の王に対しての忠誠からか?」
「否。――俺の意思だ。」
生意気な。
だが、やはりこの強い眼差し、凛とした意志は美しい。――その肉に爪を立て、理性なく食らいつきたくなるほどには。
ふと、視界の端に墓石が映り――そこに供えられたバラの大輪を見て思い出す。
ああ、ここは神聖な魂眠る場所。一時が欲で汚してしまう訳にはいかない。

手が、爪が、牙が、離れる。
エイトが離れたように。

「そうか、お前の意思か。……残念だ。」
声音に心情を混じらせて苦笑すれば、エイトが軽く頭を下げる。
素直な子供。竜神王は肩を竦める。
「だが、まあ……時々は、里に帰って来い。そして、グルーノだけではなく私のところにも顔を出してくれると嬉しい。」
「……、……祖父殿、が。」
「あれには私から言っておく。――愚かな真似は誓ってしない、とな。」
「貴方が――何を?」
「お前は理解しなくていい。いつかは――もしくは――いずれは、かもしれぬからな。」
「……、……では、知らぬままで。」
悩むかのように小首を傾げつつも頷いたエイトを見て、竜神王は笑う。
離れる間際、その頬に顔を寄せて口付ければエイトがビクッとして身を強張らせた。
その反応を前にして、また王は愉快気に笑う。今はこれだけにしておこう、と。

天上の氷花。
青き祝福。
その高貴なる棘によって、なかなか深く触れられない。
けれども、ああ。

いつかは、この手に。
いずれは、その身を。

贄として。供物として。
貰い受けても罪にはなるまい?

舌舐めずりする竜神を余所に、エイトは洞穴の出入り口へと歩いていく。
無防備に背を向けて。

墓石の前では、洞の影を払うように大輪の花束がその見事な色彩で緩やかな光を放っていた。

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