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龍宴庭note

突発小話&気まぐれ雑記用。 詳細などは「Category」→「★ABOUT」に記載。
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【クク主drago】かぐはしき獣は花に惹かれ

■メンタル大暴落中。


暗いことをあれやこれやと書いても仕方がないので、一先ずリハビリ兼気分払拭にて小話書き落とし。

溜まっている返信は落ち着いたら必ず致します!
現状、言動不実行なので申し訳ないのですが、もう少しばかりお待ち下れば幸いです。
更新停滞どころか停止状態に陥っている当サイトだというのに、拍手など頂けて励まされております!
返信が負担になっているわけではないので、送って下されば飛び上がった後に悶えております!
ありがとうございます!

以下、突発小話書き落とし。

※注意:ククールが完全に甘えたになっております。
(訳:カッコイイ美形はいない)







夜。少し開けている窓の隙間から、微かに甘い香りが吹き込んでくる。
犯人は、屋敷の外。ひっそりとある金色の花を付けた小さな木。
いつの間に――最初から?――あったのかは分からない。
だが、今の季節が来る度にその存在を思い出させてくれるので意外と自己主張が強い。かもしれない。
普段はちっとも目立たないというのに、その時期だけは殊更コチラの意識を惹き付けてくれるので、ついある人物を連想してしまう。

人を寄せ付けない冷たい気配を纏いし、麗人。
氷の美貌を持った女神が如く青年、エイト。

ベッドの上に一人、独りきり。
ぼんやりと天井を見上げていたククールは、ふと彼の人の姿を思い浮かべてしまいそのまま顔を顰める羽目になった。
「いつになったら帰って来るんだよ」
零したのは不満。
エイトはただいま連勤かつ仕事場に連泊中。
我が気難しい兄上サマと共に、各地の報告書を纏めている最中だ。
なんでも、今年は神様だか女神様だかの慈悲でもあったのか実りが豊穣で、それにより書類の量が増えたらしかった。各所、大きな町から小さな村までみな平等に。

――ああ、幸いあれ。
これこそ皆がみな望んだ幸福。多大なる糧。お陰様で、冬将軍が到来したとて飢えに耐えきる者が多くなる。冷たい試練を乗り越えることが出来る。
――ああ、主よ人の喜びよ。
そのお陰で、役人側の仕事量が二倍どころか五倍までに膨らんだところで納まったのも、「平等な」慈悲であるのだろう。なかなかに減らない書類が、墓標が如く高々とそびえたとしても。

「……クソッタレ」
舌打ちする勢いで吐き捨てたククールの顔は、感謝とは程遠い渋面。
あの時に引き下がらなければよかった、と後悔する。

あの時――それは各地より報告が届ききり、そうしてやっと処理に取り掛かることが可能になった初日のこと。
増加量が二倍に達したそこで集計が終わったので、今年はちょっと増えたなという認識だった。
それはククールだけではなく、彼ら――マルチェロとエイト――も同様で、これならば現在の人員に割り振れば三日ほどで終わると結論が出た。
前年よりは「少しだけ」忙しいが、頑張ろう――そう言って、それぞれに割り当て、それぞれが処理に取り掛かった。

――そして三日目。
はたして計算通りに書類は片付いた。
書類を提出した者には、仕事に費やした相当分の休暇が特別に与えられる。なにせこの期間中は情報漏えい防止の為に寝泊まりするので、完全な休息が特別手当と共に支給されるのだ。
毎年恒例なので、自分の持ち分を片付けた者は意気揚々と帰宅する。
そして最後に残るのが、マルチェロとククール、それからエイトの三人だけになるのも恒例行事だった。
「ほら。これで最後だ。」
ククールはいつものように書類を分類ごとに仕分けて、それを彼らの主机に置く。
書類の不備の確認は、一応ククールの方でもしていた。だが、精査関連は残りの二人の方が突出しているので、ククールの仕事もここまでになる。
「じゃあ、俺は先に帰ってるぜ。お前らも早く戻って来いよ。」
「ああ。」
「……分かった。」
二人は書類から視線を外さなかったが、それでも片手を軽く上げたり頷いたりして反応を返したので、ククールはちょっとだけ肩を竦めて苦笑しつつも一人先に屋敷に戻った。

――その後少しして、「膨大な残り」がやっと届くという出来事を知る由も無く。

『帰宅が数日後になった』
早馬で連絡があったのは深夜帯。驚いて駆けつけようとしたククールだったが、封書の中身はもう一枚あり、そこにはこんな後書きがあった――『他の者に知られると、彼らの休暇に差し障る。だからお前の手伝いは不要だ。』
冷たく素っ気ない文面はどうみても我が気難しい兄上サマで、ククールは不機嫌にムッとする――どころか、怒りの形相になった。

「何だよ、それ。たった二人でどうにか出来るってことか!?」
こんな時に妙な意地を張ってる場合か!とか、自惚れてんじゃねえよ!とか。
紙を丸めてくずかごへ投げ、それでもマントを手に駆けつけようとしたククールは手紙の最後、見逃しかけた追記を見つけて足を止める。

『お前が帰りを待ってくれていると、幾らでも頑張ることが出来る。帰る家が暖かいほうが、俺は嬉しい。』
美しい筆跡よりもその文体から、書き手の正体はすぐに判った。

「あ、いつは……っ、くっそ、なんてことを書いてくれてるんだ」
片手で口元を押え、ふらふらとよろめいたククールが辿り着いた先はベッド。
そこへぼふりと倒れ込み、天井を見上げたその端正な顔は見事な朱に染まっていた。

「殺し文句だろ、これは」
――ああ、主よりも残酷な我が女神様。
一読するとワガママな子供を言い聞かすような文言だが、その裏は――本音はきっと、違う。違うだろうと思いたい。

『帰りを待っていてくれ、ククール』

「……待っててやるから、とっとと帰って来いよ女神サマ。」
その独り言は誰にも届かない。けれども、窓の外にかかる月を見上げるククールの顔には純粋な喜びだけがあった。


* * *


――手紙を受け取ってから、七日目の夜が来た。
長いような、短いような日々が緩やかに過ぎていく。さすがに五日目あたりで突撃してやろうかと考えたが、手紙の最後にあった文面を思い出して気を落ち着けた。
言いつけを守った信徒に与えられる慈悲はきっと最上たる砕氷の微笑だろうことを思うと、つい大人しくなってしまう。
「ホント、俺って結構いい男だよなあ……。」
軽食を摂った後、ククールは暇潰しに屋敷を清掃したり、歓待の宴用の支度をしたりして時間を消費している。
しかしそれも、数日まで。
七日目ともなると、流石にやることが無くなってくる。
窓の縁に、つーっと指を滑らせても汚れない。いつでも嫁に行けるほどピカピカだ。
宴の準備に至っては、早々に終わってしまった。とかく帰宅が待ち遠しすぎて。

「はー……暇だ」
部下の休息を優先し、自らは身を粉――どころか灰にしかねないほどに酷使する、あの二人。
仕事中毒。生真面目。いやいや、融通が利かないというべきか。
戦力外ではないのだから、この不出来な弟を混ぜてくれてもいいのに彼らは、特に「彼」はどうにも仲間ハズレをしてくれる。

嫉妬――ではないことを、今のククールは理解している。
きちんと分かっているさ。兄貴は不器用な人間なんだってことは。
分かってはいるけれども、もう子供ではないのだから頼ってくれてもいいのにと思うが、そこはやはり性分なのだろう。
「弟を守りたいオニイチャンってか。……はっ。泣けるぜ。」
皮肉笑いを浮かべるも、その目には気鬱の色が浮かんでいる。

「俺が非力な子供じゃないのはもう解ってるはずだろう、馬鹿マルチェロ。」
小さくぼそりと呟いたククールは、今夜も一人、独りきりでベッドに横たわる。

最近の日課となった、窓を僅かに開けて微かな香気が運ばれるままに任せておく。
この甘く優しい香りが、帰宅した彼らを少しでも癒してくれることを祈りつつ、ククールは眠る為に目を閉じた。


* * *


温かい。暖かい。
良い匂いがする。
心地いい何かが側にある――包まれている?
まどろみの中、ククールは魅かれるようにしてそれに腕を回して抱きつく。
頭上で何か聞こえた気がした。
けれども、眠りの海に身を浸しているククールにはよく聞き取れない。
ただただ温かい何かにしがみつき、擦り寄り、好き勝手にしていればまた頭上で何かが聞こえた。
何だか笑っているような?
いやいや、呆れているような?
けれども悪い感じはしなかったので、まあいいかと心地のいい温もりを味わいつつ眠りの海の底へ落ちていく。

そろそろ帰って来いよ、エイト。馬鹿アニキ。
そんなことを思いながら、ククールは猫のように身を丸くして眠るのだった。


――彼の眠りの外。
正しくは、彼の左右にて。

「薄着のままで何も被らずに眠りこけているとか、何をしていたのだコイツは。」
溜息と共に愚痴を吐いたのは、マルチェロ。エイトに抱き着いたことでずり下がった毛布を片手でかけ直してやりながら、すやすやと眠る弟を見下ろしている。
「……屋敷は、どこも磨かれていた。……豪勢な食事の用意も、あった。それによる疲労の為だろう。」
擁護か、それともただの補足か。答えたエイトの声には相変わらず抑揚がないが、しかし冷たさは無く、抱き着かれるままにしている。
甘えるように顔を摺り寄せたククールの髪を撫でるように梳きつつ、マルチェロを見る。
「俺たちも、遅くなりすぎた。……咎めを受けても仕方ないのだが。」
「分別のつかない子供ではないのだ。コイツも解っているだろう。」
だから甘やかすな、と付け足すも、その顔には幾らかバツの悪いものが浮かんでいた。
マルチェロも『解っている』のだ。変に気を遣ってしまい、結局仕事を長引かせてしまったことを。
素直に猫の手――ではなく、弟の手を借りておけば過分に短縮できただろうに。
なのに、そうしなかったのは偏に兄としての意地があったのかもしれない。

「昔はコレを守るのを放棄していたからな。俺は、今になって償おうとしているのかもしれん。」
自覚はないのだがな、と言って自嘲を浮かべたマルチェロに、エイトが首を振る。
「それは贖罪ではなく、労りだ。恐らくは、肉親としての。……故に、卑下するものではない。」
静かな声でそう言うと、ククールの髪を撫でていた手をマルチェロの方へ伸ばして。

「お前も、甘えて良いと……俺は思う。」
微笑と共にぽんぽんと頭を撫でたエイトに、マルチェロが返すのは顰め面と――それから、どうしようもないなというような苦笑。
「お前という奴は、全く……ああ、豊穣の女神はここにもいたか。」
エイトに揶揄を投げるも、その手を掴み手の平にそっと口づけた。
ククールを一瞥し、柔らかく微笑して小さく呟く。

「女神殿の言いつけを守るのは、何もお前ばかりではないからな。」
聞こえたのかは知らないが、眠っているククールが眉根を寄せ、それから当てつけのようにエイトにぎゅうと抱き着いたのでマルチェロは意地悪な笑い声を零す。
そんな兄弟の様子を、エイトは氷の美貌を崩さず静かに眺めるばかり。

僅かに開いた窓の隙間から、薄くも甘い香りが風に乗って流れる。


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