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龍宴庭note

突発小話&気まぐれ雑記用。 詳細などは「Category」→「★ABOUT」に記載。
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【クク主drago】白銀染まる桜色(改)

■気づけばみつき。

何も考えずに出来る非常に単純な作業ゲームだけをして過ごしていました。
言葉は浮かぶも文章が繋げられなくなったので、多分いまは休みたいのだろうなと思って従っていたらこのような空白期間が出来た次第です。

本当に普通にのんべんだらりとしておりました。
心配をお掛けしていましたらすみません。気力が無かっただけで元気です。
一先ず、アンケートにdrago主+マイエラ兄弟への票が入っていたのでお礼も兼ねて小話を。

先ずはクク主です。
宜しければ以下よりお読み下さい。


※読み返して甘さが足りないなと思い、少し改稿してみました。ささやかですが。








桜の木の下には死体が埋まっているという話を、聞いたことがある。
知ったのは、はて何処でだったろう。

見知らぬ女と酒場で交わした他愛無い話?
ふらりと立ち寄った町の、カジノのディーラーから?
いいや、もっと前。
もっと昔に聞いた記憶がある。

子供の頃にいた修道院の書庫だったか?
それとも暗い告解室で圧し掛かる大きな影から――。

――いいや、ここはもうあの世界じゃない。
暗闇に怯える子供はいないのだ。
冷えた床に寝る生活も子供もいなくなった。
悲鳴は聞こえない。一人じゃないから。

――俺は独りきりじゃないんだ。

薄闇の中、目が覚めた。
心臓がどくどくと煩い。乱れている呼吸に気づいて深呼吸をしていれば、背中が冷たいことにも気づいてウンザリした。
酷く汗を掻いていた。久し振りに見た嫌な夢のせいで。

(ほんと、下らなく引き摺ってんのな、俺は)
自己嫌悪に深く息を吐いて左隣を見れば、綺麗な顔をした男の寝顔があって安堵する。
落ち着く呼吸。静まる動悸。流石は氷の女神様だと苦笑して、額の汗を拭う。
白い肌に映える艶やかな黒髪。長い睫毛。仰向けに眠っているその顔は男だというのに美しく、まじまじと眺めてしまう。
目を閉じて眠りに戻る気はなかった。直前に見た夢――暗い過去の残滓――のせいで、寝付けなくなったので。
汗を掻いて冷えた体が煩わしい。
かといって、着替えるのも億劫だった。
体は落ち着きを取り戻したものの、気持ちはまだ乱れて虚ろに彷徨っている。
闇の中を散々に迷い、歩き疲れた子供のような気分だった。

そのせいか、癒しを、灯火を求めたくなって。

何も考えずに手を伸ばしたのは、見つめるその横顔。
触れたのはその唇、柔らかな桜色。
感触を確かめるように、けれど起こさぬように軽く触れたつもりだったのだけど。

「…………どうした」
吐息が零れるように。
静かで低い、それでいてぞっとする艶混じりの低音が夜の中に広がった。
寝起きでも響きの良い声にドキリとし、驚いて手を引っ込めようとすれば――白い手によってそれを制された。逃げるなというように。逃がさないとでもいうように。
天を見つめていた顔がゆるりと動き、そうして眠りを妨げた者――ククールへと向けられる。

「何かあったのか」
囁く低音。
声量を抑えているのは、背を向けた先にいる相手を気遣っての為か。
こちらを見つめている彼の右側には、鋭い鷹の目をした黒髪の男が眠っている。当然ながらククールもそれは理解していて、同じように声を潜めて答えた。
「……何でもねえよ。悪いな、起こしちまったか」
近距離からの美貌に思わず目を逸らしたのは、余計な欲を掻き立てたくなかったからだ。
煌めく氷の美貌がククールに向けられていて、闇色の黒瞳が真っ直ぐに見つめてくるこの状況は、多分、いや、かなり、まずい。
朝ならまだしも時刻は夜。
隣向こうにある人影は夢の中。夜の薄闇が、寝台のシーツが、自分の不埒な部分を隠してくれているとはいえ、この密接した状態ではいつまで誤魔化せるかどうか怪しい。

「ククール」
不意に、囁き声にて優しく名を呼ばれる。
その白い手には、自分の手が柔らかく握られたままだ。
体が熱を帯び、下肢の奥がどくりとざわめく。
手を伸ばせば触れられる。
どうにでもなる。どうにでもなってしまう。
不可触だった頃が懐かしい。かといって、戻りたいとは思わないが。
「……ククール?」
形を確認するように名をなぞりあげる声が、妙に甘く聞こえる。
夜の中でも美しいその存在に、もっと触れたくなったけれど――。

(……俺はアイツらとは違う)
――けれども、ククールは息を吸い込み、それを振り払うことに成功する。
熱に浮かされてはいるが、情欲に流されるつもりはなかった。
自分はケダモノではない。
それに、かつての場所は兄――マルチェロと共に徹底的に清め、作り変えている。
故に、あの場所にはもう冷たい床に転がされて泣いている子供はいない。陽だまりの庭で笑う者たちがいるばかり。
そしてここは、この場所は、温かく優しい住処。自分と兄と、この女神との……大切な、居場所。
だから汚したくない。汚せるはずがないのだ。

「……ごめんな、エイト。変なちょっかいかけて」
気持ちを静めたククールは、そこで少しだけ――まともに見返すのはまだ危ない――視線を相手に戻す。そして、起こして悪かった、ともう一度言って手を離そうとしたが――そのように一方的な解放など許されるはずもなく。
「何が、あった」
氷の美貌が――エイトが自ら顔を近づけ、ククールの手を掴んだまま距離を詰めてきた。眠りを妨げた罪人に対する罰が如く。
残酷な女神様。折角に冷ました熱をどうして煽ろうとしてくるのか。
「…………なんでもねぇっていっただろ」
それでも、子供みたいに拗ねた声で答えてしまったのはエイトのほうから近づいてきたことが嬉しかったせいだ。この女神様は静寂と孤独を好む節がある為に。
「…………」
「…………」
長い沈黙。顔を背けていても伝わる黒曜石の凝視の圧力に、結局ククールは根負けする。
元より、エイトが目を覚ましてしまった時点でもう勝てる見込みは無かったのだ。

「……嫌な夢を見たんだ。……修道院時代の」
それのみを答えて、後はすっかり口を噤む。
穢れた鈍色の過去は明かせない。
透明な水が汚れるのを誰が望むというのか。
飲み干すのは自分だけで充分だ。汚れた水にこの女神様を沈めるつもりは毛頭ない。
「……そうか」
何かを察したのか、エイトもそれ以上の追及はせずに、すいと離れた。
繋いでいた手も、呆気なく解いて。
解かれた温もりに、ククールがムッとする。

何で突き放すんだよ。
そんな愚痴が口をついて出そうになった。
されど今のククールはそのような八つ当たりはしない。
それは年上としての矜持――ではなく。

「急に離れるなよ、馬鹿。寒いだろ」
そんなことを言いのけて、今度は自ら空いた距離を埋めた。――その懐へ飛び込み抱き着くことによって。
頭上でエイトが何か言おうとする気配がしたので、敢えて遮る。
「起こした詫びだ。ククールお兄さんがお前の抱き枕になってやる。……喜べよ?」
なんて軽口を叩いて、エイトの首筋に鼻先を寄せた。
白い肌からは、優しい香りがした。
入浴の際に湯に浮かべていた桜の花のものだろうか。それとも、エイト自身のものだろうか。
判別はつかない。
ただ心が安らぎ、冷えた体のあちこちが温まる気がした。
「良い匂いだな」
夢見るような心地の中でククールは囁き、それから口にしたのは悪戯めいた願い。

「……なあ、エイト」
「何だ」
「……ちょっと寝付けなくなったからさ。……例の、おまじない、ってやつ。してもいいか?」
「例の……ああ。額と頬へ、祈りを落とすものか。あれならば――」
「――唇だけで、いいぜ」
「…………」
首筋に顔を寄せたまま――あえて顔を見ないまま――そんなことを囁けば、長い沈黙が訪れてしまいククールは少し緊張する。そのまま言い訳するように、更なる言葉を繋ぐ。
「ほら、小分けにちまちまするよりは、一か所だけのほうがお前の手間にもならないだろうと思ってさ……」
どうにか声が震えないよう努めながら、ククールはエイトにしがみつく。
「そういうのは……ダメだったり、するか?」
「…………」
返される沈黙が長い。
それでも、まだ拒絶はされていない。
そこに希望の光を勝手に見て、ククールは答えを聞くまではねだりつづけてみようと考えた。エイトの優しさにも、つけこんで。
「変なことはしないって、約束する。キスだけしたら、大人しく寝るからさ」
「……したら」
「ん?」

「キスを、したら……お前は、眠りに戻れるのか」
一条の光が差す瞬間を、ククールは見る。

ぱっと離れてエイトを見れば、相変わらずの無表情がそこにあったものの、冷ややかさは無かった――と思う。内心では呆れているのかもしれないが、強い拒絶が無ければもうどうでもいい。
エイトの頬にそっと触れて、ククールは軽く笑う。
「そうだな。キスしたら、お兄さんはよく眠れると思う」
「……そういう、ものか」
「そうですよー。エイトくん」
かつて月の見える丘にて投げた軽口を口にしながら、顔を近づける。
エイトはそんな「お兄さん」を見て少し首を傾げたようだが、それも一時。
仕方がないなというように音のない溜息を吐いてから、口を開いた。
「……分かった。では、唇に、まじないを――」
「――待った。いつもはお前にしてもらってるから、今回は俺の方からさせてくれ」
「……」物問いたげな瞳で凝視されるも、ここで引いては意味がないとククールはどうにか堪えきる。夜の中で氷の美貌を直視するのは、精神的にまずい。色々と。
「さ、目を閉じてくれ女神様。憐れな羊は大人しく祝福を頂いていくからさ」
逸る気持ちを道化めいた言葉で抑えつつ、ククールはエイトに顔を近づける。
エイトは戸惑うように黒瞳を彷徨わせていたものの、やがては観念したのかククールの接近に併せてゆっくりと目を閉じた。
曝け出される無防備な美。無垢な氷。

――さくらいろのくちびる。

そこへ、そっと自分の唇を押し当て――それだけは物足りなくなったので、つい角度を変えて重ねてしまう。甘い香りに誘われて。誘われるまま、隙間からもう少し深く奥へ。
「んっ……」
くぐもった声は、どちらのものだったろう。エイトの手が動いてククールの肩口を軽く押し返すのを感じたので、ククールは一瞬だけ唇を離し――「悪い。もう少しだけ」――そう告げて、また相手の唇を奪いにいった。
甘い香り。思った以上に熱いエイトの口内に、更にぞくりとする。
冷えていた筈の体はすっかり温まっていて、悪夢の残滓はどこにもなくて。

「――ククール」
不意に、ぱっと離された。
強い物理によってではなく、何故だか軽く肩を押された程度の力にて。

ハッとしたククールが目にしたのは、能面じみた氷の瞳。
まずい、猛り過ぎた。
我を失ったつもりはなかったのだが、甘やかされた中での甘い、甘すぎるキスについ引き寄せられてしまったのだ、と。言い訳したところでどうにかなる筈も無いだろう。
うっかり舌まで入れてしまった気がしないでもないが、正直、エイトとのキスに溺れてしまっていた為に記憶が曖昧になっている。
それ程に甘かったのだ。官能的で、蟲惑的で、けれども汚らしいとは一片も感じなかったものだから、だから――完全に甘えてしまっていた。
「あー……なんか、悪い」
「…………」
心臓に悪い長い沈黙が、再び返される。
感情の見えない氷の凝視を受けて、再度ククールが謝ろうと口を開きかけた時だった。
「……これで」
「ん?」
「……これで、眠れるか」
「え。……あ、ああ。眠れる。眠れると、思う」
「そうか……」
ふっ、と。
氷が溶けて微笑が浮かぶのを、ククールは見る。
先程の暴挙を許してくれたのかと、安堵の息を吐きかけたククールに白い手が伸ばされて。

ちょん、と額に。
身を寄せてきたエイトが、口付けた。
ちょん、と瞼に。
続けて口付けがなされ、身を離したエイトが微笑する。

「良き夢が、見られますよう」
「……お前――」
子供じみた――それでいて身勝手なククールの「おまじない」に怒りもせず、呆れもせずに受け入れ、最後には確かな祝福を返してきた氷の佳人。
正に女神が如く慈悲をもって。

「……何で、お前はそう……っ……」
泣きたいのか、それとも嬉しいのか。
自分のことであるのにククールは己の感情が分からず、混乱するも、最終的には降伏する。

「――ほんともう、お前のこと大好き」
言葉飾らず、真っ直ぐに飛び込んだ。年下の女神の懐へ。

「ごめん、今度こそ寝る。……眠れるから」
「そうか」
「さっきの、やり過ぎた。ごめん」
「……構わない。お前が魘されなければ、それでいい」
「……俺、魘されてた?」
「……呼吸のみが」
「……そっか。……心配かけて――」
ごめん、と何度目かの謝罪を口にしようとしたククールのその背中を、ぽんぽんと叩いてエイトが言う。
「おやすみ、なさい」
「……ああ」
ククールの気まずさを断ち切るように重ねられたのは、眠りへの誘い。
再びエイトの胸元に顔を埋めて、ククールは目を閉じる。

「おやすみ、エイト」
今度こそ眠ろうと眠りの海に身を委ねようとしたククールだったが、ふと何かが髪に触れるのを感じて嬉しくなる。
エイトの指が髪の間をしなやかに滑り、ゆるりゆるりと頭を優しく撫でているのだ。
身体をくっつけたせいか、鼻先を掠める甘い香り。
エイトの柔らかな桜色に触れた指先を思い出したククールは、それをそっと自分の唇に押し当てて、口元を緩ませる。幸せそうに。

それは密やかで甘い桜色のくちづけの名残り。
充分な加護は受けとった。これならもう悪夢は見ないな――そう考えたククールがすっかり眠りこむのに、時間は掛からなかった。

今度見るのはきっと甘い夢だ。
桜色の祝福を密かに抱きながら、銀色の獣は幸せな水に溶けてゆく。


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