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龍宴庭note

突発小話&気まぐれ雑記用。 詳細などは「Category」→「★ABOUT」に記載。
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【クク主drago】白銀染まる桜色(裏面)

■クク主編の裏面

まあエイトの性格を考えるとそりゃこういう反応になるだろうな、という話。
感想ありがとうございます!
気温の急な変化に驚きつつ、小話書き落とし。
宜しければ、以下より続きをどうぞ。







夢を見ていた。
俺の周りにはにこにこ笑う人たちがいて、その人たちに囲まれた俺もまた彼らと同じように自然な笑みを浮かべてその輪の中にいた。
幸せな夢。
けれども、その顔は見えない。
だから、誰が誰だか分からない。

――顔も分からぬものに囲まれるというその環境には覚えがある。
子供の頃に、俺を遠巻きにしていた人たちによく似ているのか。

ただ見つめるばかりで、声を掛けてはこない。
話しかけようと近づけば、驚いた顔をして逃げていく。
そのくせ、俺の視界の端で笑う――笑いものにしている?――人たち。

……これは過去だ。
今の俺の世界は、こんなものじゃない。
脳裏に浮かぶのは、トロデーンの陛下、姫、同僚たち。
ゼシカとヤンガス。旅の間に出会った人たち。
それから、マイエラの――。


――そこで意識が浮上する。

見えたのは薄闇の天井。
側には人の気配が二つ。
エイトは目を閉じたまま深く息を吸い、ゆっくりと吐いた。
そうして自然な深呼吸にて悪夢らしき残滓を振り払い、今の状況を把握する。
(右にいるのはククールで、左がマルチェロだ)
キングサイズと呼ぶに相応しい大きなベッドの上に、大の男三人が並んで眠っている。
肌が触れるほど近い距離に他人の温もりがあるのはまだ慣れなかったりするものの、彼ら兄弟とはよくこうして過ごしているので嫌悪感はない。
(今は何時くらいなんだろう)
カーテンを閉めているが部屋の中はまだまだ暗く、窓から薄っすら差し込む月の光を見た限りでは朝までは遠いことが分かる。
それにしても、妙な時間に目が覚めたせいか寝つけない。
(一度起きてリビングで何か飲むか)
そう考えて行動を起こそうとすれば、ふと右側にいる人物の呼吸音がおかしいことに気づく。
目を閉じているせいもあり、その乱れは詳細に伝わった。

(……ククールの、呼吸が……少し、荒いような?)
寒さに震えているような、浅く、早い呼吸音。
けれども、声を掛けるか迷う。
(丁寧に起こさないと、飛び起きちゃうよな)
連鎖反応よろしく、マルチェロまで起こしてしまうかもしれない。ククールのほうも、夜中に騒ぎを起こしたくはないだろう。お互いに、夜勤から帰ってきた身である故に。
そうこうしている内に、ククールの寝息が治まる。多分、目が覚めたのだろう。

ああ良かった、と。
そのまま眠ろうとした時だった。

ぷに、と。
そんな音が聞こえた気がするほどの強さで、唇を押された。
(あれ。いま…………ククール、俺に触ってきた?)
動く気配があったのは、正しくククールがいる側。そのまま狸寝入りを深めて眠ってしまおうと考えていたエイトは、起きることにする。
「……どうした」
仰向けの姿勢のままに、声だけで訊ねれば相手が驚く気配が伝わった。
どうやらエイトが起きていることには気づいていなかった様子。
この辺りは兵士としての性分のせいだ。
野営があるので、気配を消して眠ることなどお手のもの。……もっとも、気配を消しすぎて部下や同僚にひどく驚かれてしまうのだが。
けれど、ククールから返事はない。それどころか触れていた箇所の熱が引くのを感じたので、熱源であるククールの手を掴んで引き止めることになった。

相手の方へ顔を向けて、再度口にする――「何か、あったのか」

(俺の口元に何か付いてたとか? はっ。よ、涎たらしてたとかじゃないよな!?)
ドキドキしつつ、ククールをじっと見つめて答えを待っていれば、今度はちゃんと声が聞こえたのか相手が口を開いた。
「何でもねえよ」
そう言ってククールは目を逸らしたが、それでもエイトが挫けずに(涎垂れてたかどうか教えてー!)追及すれば、ようやく夢見が悪かったのだと教えてくれた。
一致した理由。エイトはちょっとだけ嬉しくなる。
(俺と一緒ー! 俺もそれで目が覚めたんだよ! わー、なんかお揃いで嬉し……くはないか。嫌な夢だったもんな)
それでも妙な安心感を得たエイトは、そこで緊張の為に掴んでいたククールの手をスルッと離した。
涎たれてなくて良かったー!と思いながら、よしじゃあ寝直そう!と姿勢を元に戻そうとすれば――。

(んぎゃっ!?)
いきなり抱き着かれた。
想定外のククールに驚いたエイトが固まっていれば、これは起こしたお詫びだと言われた。
綺麗な「お兄さん」の抱き枕。
エイトは「そっかー」と思う一方で「抱き枕ってこういうものだっけ?」と違和感を抱く。
あれー?と内心で首を傾げているうちに、ククールが首筋に擦り寄って甘えてくるものだから、エイトはまたまた緊張してしまって――判断を誤ることになる。

眠る際のおまじないについては、特に訝ることなく了承して。
キスする位置の変更についても、別に気にすることもなく。
雨に濡れた子猫のような目を向けられて、おねだりされたのも手伝って。

唇へのキスを許可してしまったのは、とんでもないことだった!と。
思い知るのは全てが終わってからだった。


(おおお、おやすみのキスって、こっ、こういうのじゃなかった気がするんですけどー!)
自分の口内を弄るように動き、舐め上げ、暴れ回ったククールの舌の感触に酷く動揺しながらも、それでもどうにか冷静に相手を制止できたのは奇跡かもしれない。
そして、茹でたタコのようになっているだろう(実際はちっともなっていない)顔を引き締めて、本来のお休みのキスの続きをしてやれた自分を盛大に褒めてやりたかった。
ククールの額と瞼に軽くキスをして、眠りの言葉を告げたエイトはそれでなんとか落ち着きを取り戻す。
(ふっふっふ。俺だって、ちょっとは成長してるからな! ……でも、たまにくる斜め上のスキンシップは勘弁してほしい!)
自身の為した偉業に心の中で拳を握りつつしみじみしていれば、ククールが百面相をした後にまた胸に飛び込んできたものだからギクリとした。
けれどもククールはそのおまじないで満足したらしく、今度は大人しく目を閉じたのでホッとする。

安眠しやすいよう、その髪を撫でていればククールはすぐに眠りに落ちてしまったようで、あっという間に静かになった。
それを気配で確かめたエイトはちょっと微笑し、目を閉じて自分も眠ろうとしたが――。

(――駄目だ。寝つけない)
緊張と安堵の緩急で、眠れるような状態でなくなっていることに気づいたエイトは疲れた溜息を吐くと、ククールからそろりと離れ、それから隣のマルチェロにも気をつけながらベッドから抜け出したのだった。





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