■アンケート回答にも添いつつ
マル主版も書き落とし。
桜の咲く時期までには間に合わせたいなーとのんびりしかけていたところに、夢かと思う程の嬉しい感想付きメッセージを頂いたので超特急に切り替えた次第です。
行動停止期間内の拍手や前回のクク主に対する感想、ありがとうございます!
返信は一通り書き上げてから致します。(年明け分に頂いたのも含みます。……すみません!)
【追記】
>>ryure様
こちらからの要望など一切ありません。ありえません。
規制など無限というか無制限です。妄想でも暴走でも両手を広げて頂きます。
むしろ全裸もかくやという勢いで正座にて待機しますので、どうぞryure様のご負担にならぬようご自由にして頂ければと思います。ありがとうございます。
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以下、マル主小話。
宜しければ下記よりどうぞ。
――花見をする時は酒が要るものだ。
酒に酔い過ぎて己の正体を見失い、それで人生を棒に振った愚か者たちを知っている。
冷たいベッドの上で”花”を愛でながら、厭らしく笑っていた者たちを知っている。
何もかもに厳しすぎる性格になったのは、そんな世界にいたせいだ――などと、転嫁する気はない。
逃げるのは何だか負け犬のように思えた。
つまらないプライド。
だからこそ、自身の償いも兼ねて腐敗しきった”実家”の膿をとことん絞り出すことにした。
厚顔無恥だと嘲笑され、侮蔑の目を向けられたことなど数知れず。
だがそれは逆効果。むしろそうしたものは従来の闘争心を煽り、潔癖にも似た性質にすっかり火を点けてくれたので、汚泥もろともしっかり清めさせてもらった。ありがたく。
煉獄島の牢に放り込んだ後、すっかり静かになった貴族たちの顔は今でも覚えている。
処刑されないだけマシと思え、愚者共め。
そもそも、生家からして腐っていたのだ。
実子が生まれた途端に、妾子である自分を捨てた男親――ああ、父などとは最早口にしたくもない――は、後年に天罰を受けたので幾らか留飲は下がったが。
しかし、結局は禍根を残してくれた。腹違いながらも美しい弟を、自分がいる修道院に届けてくれたのだから。流行り病を通して。
愚かな弟。せめて美しくなければ残酷な幼年期を過ごさずに済んだだろうに。
嫉妬と、憎悪。
許すも許さないも、それは個々の自由だ。
ただ、自分は許せなかった。
天使のような弟を、地獄へ突き落したせいだろうか。今度は自らに天罰が下ることを、その時は知る由も無い。
そうして己は世界の敵となり、弟を含めた救世主サマ一向に、大いなる野望を――下らないプライドも――砕かれることになる。
悪役たる男に相応しい結末。
それでも、死は赦されなかった。
情を捨てきれなかった愚弟と、それから――女神のように美しい青年によって、掬い上げられてしまった為に。
――煉獄の向こうに、まさかこんな世界が待っているとは思ってもみなかった。
不意に目が覚めた。
原因は、背中にあった温もりの消失。上体を捩じって振り向けば、そこにあった筈の男の姿がなく、代わりに愚弟の顔を見る羽目になった。
すっかり安心しきっているのか、口元を緩めて眠る姿はどうにも子供じみている。
初めて顔を合わせた時に見た無垢な幼子。
よもやこれは夢の続きではあるまい、と苦笑しつつ、愚弟を起こさないようにベッドから下りた。
その際、横向きに眠る愚弟の――ククールのその腕の間に、消えた青年の枕を押し込んでやれば何を勘違いしたのかそれに抱き着いたので、半ば呆れながら部屋を後にした。
青い夜に満たされたリビングにて。
窓から差し込む月光に照らされて、それはいた。
(アイツはまた、あんな薄着で)
夜間は冷えるから上着を羽織っておけ、と何度注意しただろう。
聞いているのかいないのか、忘れているのかいないのか。
とかく、あの氷めいた冷たい美貌を持つ青年は――エイトは、どうにも無防備な姿でいることが多い。
しかしながら、そんな彼はトロデーンという大国の兵士長なので呆れてしまう。いい意味で。
文武共に長けた、非凡たる青年。
今は美しい横顔を見せて、ガラス越しに月を見上げている。
「……そんなところで花見か、エイト」
声を潜めつつそんな言葉を掛ければ、相手がゆっくりと振り返る。
不思議そうに首を傾げる素振りを見せたものの、少し間を置いてから、こくりと頷いた。
「マルチェロもか」
何がだ――と問い返すのは、愚か者のすること。
何の因果か、弟とこの青年と過ごす時間が増えた――増やしたともいう――こともあり、端的な言葉でも読み取れるようになっている。
――躾けられた犬では決してない。それは一匹だけで足りている。
「そうだな、そうしてもいい気分になった」と答えればエイトがまた首を傾げたが、詳しく説明してやるつもりはない。
リビングの隅の方へと足を運び――視線が追いかけてきたが、気にはするまい――そこに置いてあるワインラックに手を伸ばす。
抜きだしたのは、一本のワイン。それとグラス二つを手にしてのソファへ向かえば、「あ」という表情をしたエイトに出迎えられる。
「……ロゼオブロッサム」
溜め息のような声で、エイトが呟いた。
淡い薔薇色の――どちらかというと彼の好きな桜の色に近い――ワイン瓶に視線を留めている、氷の美貌の女神殿。
その瞳はなんだか輝いているようで、側に立って見下ろす形でいるマルチェロは思わず失笑する。
「なんだ。この種が好きなのか」
そう話しかけながら、さり気なく隣に腰を下ろした。少し近すぎるかもしれないが、気のせいだ。
「……ああ。今が時期の、限定品。俺は、時間がとれなくて……都合もつかず、なかなか入手できなくて」
ワイングラスに注がれる淡い桜色の液体を見つめながら、エイトが答える。上から下へと落ちる桜を、その黒瞳に映して。
なんとも美しい花見があったものだ、と。
そんな事を思った自身に気づき、マルチェロは苦笑を零す。
(成程。アイツのことも馬鹿には出来んな……俺も、なかなかに同類の阿呆だ)
内心で自嘲しながらも、マルチェロはワインを注ぎ終えたグラスをエイトに差し出す。
「飲むだろう?」
「……ああ」
奉納に返されたのは、花咲くような絶佳の微笑。
自分のワイングラスにもロゼ色を落とし終えたマルチェロは、片手でそれを持ちあげてエイトに笑いかける。
「では、密やかな花見に――乾杯」
「…………乾杯」
初めてだったのか、エイトは妙にぎこちない動作でマルチェロとグラスを合わせる。
――がちり、と。
どうにも鈍い音がしたが、生憎と質の良い厚めのグラスでいたのもあって、悲惨な事態は避けられたのだった。
月光のみを唯一の光源とした薄暗い中、マルチェロはワインを飲んでいた。
側には、ぞっとする美貌の男。
手を伸ばさなくてもその距離は近く、いつでも触れることが出来る。
いや、いつしか片腕は相手の肩を抱いており、指先を伸ばして頬に触れていた。
一度、軽く触れさせた時にエイトが視線を向けてきたのだが、マルチェロは敢えて気づかぬふりを決め込んだ。
「…………」
「…………」
長い沈黙。
やがて、諦めたのか――呆れたのか?――その口から何か言葉が出てくることは無く、そのまま二人はワインを飲み続けた。ただし、マルチェロの方は軽い愛撫の手を止めることは無く。
じゃれるような戯れ。それは、常に犬が如くエイトに纏わりついている弟の行動だった。
軽いイタズラ。それこそ、愛に飢えた子供の遠慮なく甘えたがる行為だった。
マルチェロは愚者を軽蔑する。
己が児戯めいた手遊びも、ワイン瓶を空けるまでだと決めていた。
ゆっくりと時間は流れていたが、それでも桜色の液体は止まることなくどちらにも流れ、流れていき――やがて、空になる。
桜は散り、花見は終わる――はずだった。
エイトが先にグラスを空けて、立ち去ろうとする素振りさえ見せなければ。
「……行くな」
マルチェロは、腰を上げかけたエイトに気づくと、その肩を強く掴んで引き止めた。押さえつけるようにして動きを制すれば、僅かに柳眉を顰めた美貌が向けられる。
「何を」
「まだ行くな。……花見は終わっていない」
「なにを――」
そこから先の言葉は紡がれなかった。
自分のグラスに残っていた半分量の桜色をマルチェロが一息に呷り、押し倒したエイトへと流し込んだので。
「んっ……」
吐息と共に声が零れるも、一瞬。
すぐに黒髪の獣に飲み込まれ、くぐもる。
「はっ、ぁ……マル、――んっ」
弾力あるソファが、エイトが身を捩らせる度に微かに軋み、小さな音を立てる。
「っは……あまり暴れてくれるな。大きな物音を立てると、アイツが起きてしまうぞ」
熱い吐息と共にエイトの耳元で告げたのは、悪魔の囁きではなかっただろうか。
ともかくそれは優しさに付け込んだものであり、エイトの動きを止めることに成功する。
「……良い子だ」
子供を褒める親のように、エイトの頬を指先でそっと撫でるマルチェロは微笑を浮かべ――そして再び、エイトに口付けた。
角度を変えた深いキスは、何度繰り返されただろう。
やがて無抵抗だったエイトが動き――両手でマルチェロの肩を押し返したところで、終わりを告げる。
「は、っ……――ここまでだ、マルチェロ」
少しだけ乱れていた息は言葉を紡ぐ間に整えられ、後には冷たい美貌がマルチェロを見上げていた。
淫靡な雰囲気は微塵も無い。
昂っていただろう熱もそこにはなく。
冷ややかな氷の視線は、熱と酒に浮かれていたマルチェロを貫き、そしてマルチェロは目が覚める。――蒼褪めて。
「……すまない」
取り乱したりはしなかった。それこそ一層無様に見えるだろうと考えて。
圧し掛かり、組み敷いていた体を解放する。
エイトが身を起こして襟元を整えるのを横目に、マルチェロは大きな溜め息をついて項垂れた。自分の脚を肘掛け代わりにして両肘を立てると、その手で頭を抱える。
「言い訳はせん。……殴りたいなら殴ってくれていい。いい気付けになる」
酒精に溺れての失態は、マルチェロが忌み嫌うものだった。
ワインの度数はそこまで高いものではないし、量としても飲み過ぎの範囲ではない。
それでも先程の愚行に至ったのは、至ってしまった原因は――。
――もう少し一緒にいたかった。
子供か!と自分自身に怒鳴りたくなる。
普段から過分に遠慮しているのが裏目に出たのか、まさかこうも呆気なく暴走するとは思わなかった。
これまでにも、おやすみのキスだと称して――騙して?――エイトの唇にキスを仕掛けていた。小賢しい弟に便乗して、同じように。
同じだと思っていた。
けれど、どうにも足りなかったようだ。
(所詮は俺もケダモノか……)
情けないと自嘲するも、後悔はしていない。自責の念は抱けども、実りがあったのは事実。
いつもよりも、甘い……甘すぎるキスだった。
片手で額を押さえたまま、もう片方の手で触れていた唇をなぞる。
そのままぼんやりとしていれば――「マルチェロ」
すぐ側で名を呼ばれ、驚いて声のしたほうに顔を向けたマルチェロは、自分をじっと見つめるエイトに出くわす。
「ん、あ、ああ。何だ、殴る準備は出来たか」
道化めいた態度でそう言って、殴りやすいようにとマルチェロが両手を下ろした時だった。
ちょん、と瞼に。
マルチェロの両肩に手を置いたエイトが、口づけた。
続いて、ちょん、と。
頬に唇が軽く触れ、離れた。
呆気にとられたマルチェロはエイトを見上げ、「なぜ」と疑問を投げかけようとするもそれは微笑によって止められる。
「花見は、終えた。後は眠るだけ故に……あいさつを、と」
「な、」
「饗応の与りに、感謝を」
美しい笑みを餞別のようにして。
エイトは何事もなかったかのように立ち上がると、足音ひとつ立てずにリビングから出て行った。
後に残されたのは、マルチェロが一人。
口元を片手で覆いながらソファに凭れ、天井を見上げる。
「…………そうか。これが天罰か」
みだりに神に触れることなかれ。
ああ、そういえばあれは不可侵の女神だった。
我らマイエラ兄弟とて踏み込ませぬ、気高き禁忌。
その身は、精神は、穢れなき水晶の如く透明なままでいて。
「成程。アレが時々、妙な癇癪を起こすわけだ」
無遠慮に甘えるも、甘えすぎて思わず爪を立ててしまった結果、後から罪悪感に打ちひしがれるそれは丁度、今のマルチェロのようではなかったか。
同じ桜色に触れたが故の過ちはしかし、真夜中に置き去りにされて。
マルチェロは天井を仰いだまま前髪を掻き上げて、息を吐く。
無意識に己の唇をなぞればロゼの甘い残り香が鼻先を掠めたので、「未練がましいな、俺は」と呟いてから重い腰を上げた。
桜色の残り香に包まれた黒い獣は、柔らかな水に溺れながら甘やかな眠りにつく。
今夜見るのはきっと、甘すぎる夢だろうと考えながら。
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