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龍宴庭note

突発小話&気まぐれ雑記用。 詳細などは「Category」→「★ABOUT」に記載。
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【マル主】そは兄たり難く愛の鞭

■一先ず脱稿…ではないけれど

読み返して訂正したり変更したりと相も変わらずまだごちゃごちゃしているんですが、
ひと段落的なものはついたので、小話をば。
(補足として、題の「兄たり難く(けいたりがたく)」は「兄という肩書のままではいられない=恋人の前では本性が出る」みたいな感じで読み取って頂ければ。)

離脱中の中での感想、反応ありがとうございます!感謝のお礼と返信は後ほど。
6/6が兄の日だと知ったのがもう日付が変わるか変わらないかの辺りで、マル主をどうしても書きたくなったので急いで書き上げたのはいいものの、多分、兄の日関係ない…。

少しR要素がありますので、苦手な方はご注意下さい。







執務室に戻った男は、気難しげな顔を崩すどころか更に顰め面になった。
戸口のところで足が止まる。視線の先にはつい先ほどまで自分が手をかけていた未処理の書類が小山に積まれているのだが、その中央にそれはあった。
作業するために空けていたスペースに、色とりどりの包みが置かれている。いや、積まれているといったほうが正確か。片付けなければならない書類があるというのに、遠慮なく中央に置かれた包みの山を前にうんざりする。
顔も見せない輩からの、私欲塗れの贈答品。部屋を出る前に始末し、小休憩でもとるかと席を外した時間は十数分未満。
――なのに、もうこれか。男は――マルチェロはそう呟くと、皺の寄った眉間に指先を当てる。それからすぐに廊下に出て部下を呼びつけると、「あれを片付けろ。今すぐに、だ。」と実に不機嫌そうに言いつけた。大した手間でもないのだが、さすがに気が滅入る作業の繰り返しは嫌になったのだ。

暗黒神を倒して平和になった世界。平和になったといえども、仕事が無くなったわけではない。
マルチェロは今日も今日とて、いつも通りの仕事三昧でいた。
だが、今いる場所はマイエラ修道院。教皇になってからはサヴェッラにいるのが常なのだが、今回は別の要件があってきたのだ。

それは勿論、里帰り――などでは断じてない。
監査だ。使途不明の寄付金や使い込みがないか、聖堂騎士たちの勤怠はどうかといった、調査をかねての出向である。
なにも一番偉い人間がわざわざ……となるかもしれない(実際、着いた早々に部下に言われた)。
だが、こういうことは自分の目で確かめたかった。真なる清浄にはまだまだ遠い世界であるので。
当然ながら身内びいきの腐敗した集団は、一通りを矯正施設に放り込んでやった(当初は粛清対象だったものの、そこは「とある兵士」によって制された)が、残党がどこに潜んでいるのか分からないので油断はできない。
それに、ここに「帰省」したとて何があるというのか。
慕っていた院長殿はもういない。
大した思い出があるわけでもない。
――神を崇拝する聖域だというのに、綺麗なものなどほとんどなかった。
あったのは、腐敗した信仰だけ。
醜悪な懺悔室。汚らしい欲に塗れた聖堂。
冷たい十字架のある地下室では幼い悲鳴が上がり、それは誰の耳にも届くこともなく純粋だった祈りは日々砕かれて――。
――嫌な過去を思い出しかけたのでそのまま重厚な扉で締め出し、命令が遂行された「色彩豊か」でなくなった机に意識を戻し、書類の山を崩すべく仕事を再開させた。

どれくらいの時間が経っただろう。
コツコツ、と聞こえたノックの音。顔を上げれば、返事をする前にドアがそっと開かれて。

「コーヒーをお持ちしました。少し休憩してはどうですか、教皇様。」
丁寧な言葉とは裏腹に、悪戯な微笑を浮かべた青年が姿を見せた。銀色のトレイを手に、部屋に入ってくる。
「私はまだお前に入室の許可を許してはいないが?」
咎める言葉を口にするマルチェロだが、こちらもまた悪ふざけに応じるような笑みを浮かべていた。当の「無礼者」は部屋に入る前と同じ挙動で静かに戸を閉めると、軽い足取りで――トレイの上はしかし微動だにしていない――マルチェロの側へ歩いて来た。
側に立ち、給仕か執事のような手際でトレイに載せていたカップをマルチェロの前に置く。
「軽食も持ってきておりますが、いかが致しましょうか?」
「ああ、そこに置いておいてくれ。今は飲み物だけでいい。」
「少しは食べておけよ、マル。夕食、まだなんだろう?」
片手を振って食事を断れば、執事は途端に軽口を叩く無礼者となった。
化けの皮を剥がすのが早すぎやしないか、トロデーンの兵士長殿?
マルチェロは内心で苦笑する。だが相手のこの気安さこそが、今の関係の深さを表しているのだから面白い。敵対していたあの頃は、いつの間にかすっかり遠くなっている。

「聞いているのか、マル。……マールチェロー?」
返事がないことにムッとしたのか、軽く眉を寄せた彼の兵士長――エイトが、上体を傾けて顔を覗き込んできた。
「手伝えることは?」
しかし開いた口から出たのは不平や不満ではなく、助力。いやこいつの場合は「助勢」か、とマルチェロは心中で訂正する。
舌先三寸ではなく、実際に行動して成果を出してみせる優秀な兵士長。その見事な手腕の結果が、今の自分なのだ。……当時の己がこの未来を知ったならば、どんな顔をするのだろう。
馬鹿らしい、と一笑に付すだろうか。嫌悪を隠しもしない顔で。
それとも「妙に丸くなった」――とは腹違いの弟談。こちらとしては非常に不名誉ではある――ことを、笑うだろうか。その「弱さ」を嘲笑で以て。

まあ、その辺りはどうでも良いことだ。
今となっては過去。戻ることなど望まない。

「マール。疲れているなら、ソファに移動して仮眠でもとったらどうだ? 何かあれば俺が対応するからさ。」
目の前で、尚もこちらの様子を窺っている兵士長殿。反応がないことで手持無沙汰なのか、軽く体を揺らしつつ返事を待っている。それが何だか、命令を待って待機している犬に思えて。
そろそろ応じてやるか、とマルチェロは微苦笑しながら子犬――否、エイトに向かって手を差し出す。

「来い、エイト。」
「え。な、何だよ急に。」
突然の誘いに、ぎょっとしたのかエイトが上体を軽く引く。
構って欲しそうな態度でいたくせに、その驚いた表情は何なんだ。今度はマルチェロがムッと眉を顰める番となった。
「なにをそう躊躇うんだ。」
「いや、だって、マル、仕事……」
「待て。逃げるな。」
じりじりと下がって距離をとろうとする相手の腕を掴んで引き止め、マルチェロが訊ねる。
「仕事が、どうした。少し休めと言ったのはお前だろう?」
「言ったよ。言ったけどさ――」掴まれた箇所に視線を向けて、エイトは困惑顔で口を開く。
「今はちょっと、休むことを優先したほうが良いと思う。」
「だから、休もうとしているだろう。」
「ソファで?」
「――いいや?」
ニヤリと笑うその顔の、これまた悪いこと。初めて出会って地図を貰った時か、それとも魔杖を手に立ちはだかった時だろうか。
とにかく、こうした「悪い顔」をしたマルチェロには警戒すべきだった気がする――と、エイトは考える。第六感的なものが警告音を出しているのは気のせいではない筈だ。過去の経験として。
缶詰状態、もしくは多忙で疲労が激しい時はお互いに注意する――そう取り決めたのは、つい最近ではなかったか。
確かその時はエイトが多忙状態でいて、二人の時間を作ることが出来ずにひと月ほど空いた後だった。お互いに「恋人要素」が不足していて――。

「――この間、俺は三日も寝込んだんだぞ!?」
「兵士長のくせに、『あの程度』で気を失うお前が悪い。」
「悪くない! ……はず! とにかく、今日の所は――わあっ!?」
なおもぐずぐずと逃げ口上を前に逃れようとする往生際の悪い兵士を引き寄せ、抱き上げたマルチェロは実に良い笑みを浮かべて優しく告げる。

「俺もこの後は溜まった仕事を片付けねばならんからな。まあ、程々にするさ。」
「程々じゃなくて、普通に! 寝てください! 教皇様!」
「教皇直々の『洗礼』だ。有難く享受しろ。」
そう言ってエイトを寝台へ下ろし、そこへ圧し掛かるようにして閉じ込めた格好からマルチェロは語る。
「本当に嫌ならば、俺を張り倒して抜け出すと良い。」
「そっ、……んなこと、……」
するわけないじゃないか、と返された言葉は実に小さく、恥じらいが含まれた声で紡がれて。
エイトは右へ左へと落ち着きなく視線を彷徨わせていたが、やがては観念したように――泣きそうになっているそれが更に煽ることなど気づきもしないで――マルチェロを見上げて、言う。

「あまりにも疲れるのは……勘弁してほしい、です。」
「どうだろうな。……まあ、一応片隅にでも留めといてはやる。」
くっくと笑い、上体を更に屈めてその首筋に唇を寄せる。かつりと軽く噛めば、エイトの体が僅かに跳ねて息を飲む気配がした。
「もう……見える場所に痕はつけるなよ。この間、ククールに気づかれてからかわれたんだから。」
「……、……ほう?」
マルチェロの声が僅かに低くなった。体を離し、エイトを見つめる。
「アレと会ったのか。……いつだ?」
「え。……い、いつだった……かな。覚えてない、かも?」
己の失言に気づいたエイトがスッと視線を逸らして引き攣った笑みを浮かべるも、マルチェロは逃げることを許さない。――逃がさない。
エイトの顎に軽く手を掛けて自分の方へと向かせると、微笑を向けて――獣が如く眼差しで――柔らかに問いかける。
「からかわれたというからには、前に付けた痕がまだ残っている時期か。ということは、アレとは――つい最近だな?」
「いや、待っ……んぅっ!」
「言い訳」は聞かない、とばかりに深く口づけられて言葉を攫われる。
「んっ、く、……ふ、っは……マ、ル、待っ」
「は、……これ以上は待たんし、もう聞かん。」
精神的に疲れているのもあってか、なるほど、今の自分はどうにも余裕がないようだとマルチェロは熱情に浮かされながらもどこか冷静に己を分析する。
そうした上で、あまりひどい行動はとらないよう注意しながら、いやいやと押し返そうとするエイトの手に自分の手を重ねて絡め、ベッドの上に縫い留めた。
「マル、なあ、聞いてくれ。俺は別に、隠れて会ったわけじゃ」
「……そんな顔をせずとも分かっている。」
情欲に乱れたものではなく、本当に泣きそうな顔をして説明しようとするエイトを見下ろしながら、溜息と共にマルチェロは言葉を吐く。
「誤解などはしていない。安心しろ。」
「そ、そうか……」
良かったぁ、と頬を緩ませて泣き笑いに似た表情をしたエイトを見て、思わず天井を仰ぐ教皇様。

――これで暴走しない俺を誰か褒めてくれ。

「……エイト。明日、お前が欠勤することは早馬で知らせておくからな。」
「へ? ……、……え!? いや待って、何で! 誤解してないって――!」
「煽るお前が悪い。」

俺の反応に――俺なんかのことで素直に一喜一憂する、お前が悪いんだ。

「いいから、もう黙れ。……そら、優しくはしてやるから。」
「んやっ……あっ、マル、チェ、ロ――っ……」
片方の手は繋いで指をしっかり絡めたままで、マルチェロはゆっくりとエイトをなぞっていく。
その形をなぞり、撫で上げ、ときには軽く触れて相手の熱を上げていく。
狡猾な大人。ほろほろと涙を零すエイトの目元に口付けてそれを舐めとり、その吐息をキスで飲み込み、緩やかにその身体を溶かしてゆく。場所によっては、いやだいやだと甘い声で首を緩く振るエイト。その姿に苦笑を浮かべるもマルチェロは行為を一切止めることは無く、その頭を撫でて慰めておいてから、それでも己を深く埋め込むようにして体を押し進めた。

その後は。
濃い青が夜の闇に混じり深さを増しても、寝台の上の影は重なったままで。
最終的にはエイトがマルチェロの首に縋りつき、蕩けるように甘い声で限界を訴えてきたところで、ようやく静けさが訪れることになる。

翌日、寝台にはミノムシよろしくまん丸な塊があって、そこにはしくしくと可愛らしく泣く某国の兵士長がいた。側に腰を下ろした教皇様は、その恐らくは背中辺りを撫でてやりつつ本を読む。
近くのテーブルに置かれた銀のトレイの上にあった品々は、すっかり綺麗に片付いていたので、教皇様は食事をきちんと摂ったのだろう。そして、早急に仕事を片付け終えてまん丸ミノムシを甲斐甲斐しく世話したところを見る限りでは、ちょっぴり反省しているのかもしれなかった。

当のまん丸ミノムシは「マルの馬鹿」「強くしないでって言ったのに」「あんなところまで噛むとか」「もう馬鹿」と延々と愚痴を言っていたが、やがてはなんだかんだと優しく慰められて――散々に甘やかされてたので、その内に機嫌は直るのだろう……と、思われる。

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