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龍宴庭note

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【マル&クク主drago】春の眠りは夢のごとし

■4/1!

所詮はただの平日。特に気にも留めていなかったため、エイプリルフールだと気づいたのは当日でした。

マル主drago(裏)は後日にして、突発ではありますがマイエラ兄弟dragoを書き落とし。
とっ散らかり気味ですが、春眠の欠片だとでも思って見逃して頂ければ。

宜しければ下記よりどうぞ。







それは、ある春の日の出来事。


どこからか風が吹き込んでいる。
たなびくカーテンを見て風の流れを追えば、リビングから庭へ出る窓が少し開いていた。
不用心だなと男は眉を顰め、窓を閉めようとそこへ近づいたところでその動きを止める。

庭先には大きな桜の木があり、はらはらと桜の花を降らせていた。
いや、”献上”していたのかもしれない。
何故なら木の根元には一人の青年がいて、黄金色の大きな獣に背を凭れさせて眠っていたからだ。
そこへ大樹が自ら寄り添い、控え目に花を落としている。艶やかな黒髪に、白く滑らかな頬に、柔らか色味をした唇へと、触れるようにして。

「あのモンスター、まさか俺たちに喧嘩を売ってんじゃないだろな」
すぐ隣でそんな声が聞こえたので、男が――マルチェロが顔を向ければ、銀色の髪を後ろで一つにまとめた男が顔を顰めているのが見えた。
それは丁度、いま自分が浮かべているだろうもの。
――嫉妬? 俺がモンスターにか?
(馬鹿らしい)
せめて嫉妬相手はこの隣にいる男だけにしておけ、とマルチェロが己に嘲笑してれば、「嫉妬するならマルチェロだけにしとっけての」という独り言だか呟きだかが聞こえてきたので、苦笑が零れる。
腹違いとはいえど、同じ流れは汲んでいるらしい。

『――アレは俺たちのものだ』

「とりあえず、行こうぜ」そう言ってククールが窓を開け、外に出る。
「閉じまりヨロシク、兄貴」
からかう声とウインクを投げおいて、庭先を駆けていく弟には修道騎士時代の名残りは無い。
性生活に奔放で、女性関係にだらしなく、賭け事には積極的で、聖堂騎士としてはどうにも軽薄でいた男。

それがいまや、アレだ。
呼び笛を聞いた犬がごとく、一直線にそこへ駆け寄る男はナンパな男どころか従順なケモノ。
マルチェロは桜の木――さくらんじゅというモンスターと、美しい青年が背凭れにしている金色の獣――バウムレンと下らない牽制をしながら、じりじりと距離を詰めようとしているククールを見て溜息を吐く。
(モンスターと獣と、色恋沙汰でやり合う阿呆がどこにいる――いや、正に目の前にいるのか)
窓を閉めつつ外へ降り、マルチェロもまたその喧騒の中へ近づいていく。

「あ、マルチェロ。こいつらに言い聞かせてやってくれよ。エイトは俺たちのなんだって」
ふーしゃー。
フーシャー。
さくらんじゅはともかく、バウムレンと威嚇し合っているのはどういうことかと聞いてみたい。
青年の――エイトの隣に座り、その肩をちゃっかりと抱き寄せている時点で此方からも小言を言いたいところ。
「言い聞かせるも何も、こいつらに事実を今更告げてどうなる。――再確認でもしたいのか?」
前半はククールに小言を、後半は桜の木と獣に――牽制を。
それぞれに冷ややかな微笑を平等に与えておいて、彼らが怯んでいる隙にマルチェロもまたエイトの隣へと腰を下ろした。
ククールの反対側をしっかりと陣取り、エイトの肩を軽く叩く。

「おい。起きろ。まだ外は肌寒い。風邪を引くぞ」
耳元で静かに、けれど確かな艶を以って囁けば、長い睫毛が震えて――。

「……? ……マル……、……クク?」
寝起きである為か薄ぼんやりとした眼差しが、まず声の主であるマルチェロへ向けられ、次にククールへと流れて止まる。
「…………おは、よう?」
二人を見るエイトはまだ夢の縁にでもいるのか、首を僅かに傾げて無意識に微笑む。
眠りから醒めきっていない声はどこか甘く、氷の瞳は柔らかくぬかるんでいた。

桜の花が風に舞いあがる。
エイトはぼんやりとした瞳でそれを見上げ、また微笑み――ゆっくりと後ろへ倒れ込むようにしてバウムレンの毛並みに深々と凭れなおし、そうしてまた目を閉じた。

「……な、……んだ、今の」
己の口元を押さえて呻くように言ったのはククール。その目はエイトに留まったままで、顔が赤い。
束の間に見たものは、無表情ながらも冷たい美貌の女神ではなく、ただただ優しく柔らかな美貌の青年。
もしあの瞬間、手を伸ばしていたら――。

――踏み込めただろうか。その奥深く、禁足地めいた領域へ。

「……寝惚けていたんだろうな」
ぽつりとマルチェロが言って、風で少し乱れているエイトの髪を手で撫でつけて整えてやる。
「それって、エイトが、だよな?」
ククールもまたそう答えながら、エイトの頭や肩などについている花びらを軽く手で払ってやる。
「……部屋に戻るか。このままじゃ冷えちまうし」
「……そうだな。こいつも一緒にな」
二人して顔を見合わせ、苦笑し、それから――大きく吐いた溜め息は何のためのものだったか。
さくらんじゅもバウムレンも、エイトを抱き上げるククールの邪魔はしなかったし、「お前たちも、日が暮れるまでには帰れよ」というマルチェロの言葉には素直に首肯を返して見送った。


「そういやコイツ、夜勤明けだっけ。道理で、こうもぐっすり眠り込んでいるわけだ……お疲れさん、エイト」
抱き上げているエイトに労りの言葉を投げ、ククールは上体を屈めるとその額へとキスを落とす。
「しかも、日勤からの代役夜勤だと聞いた。……つまりは丸々一日起きていたということだな。あまり無茶をするなよ、阿呆」
少しだけ諌めの言葉を投げるも、それでもマルチェロは優しく苦笑し、ククールの腕の中にいるエイトの頬へと口付けた。
「あ。兄貴、ズルい。俺は額で我慢したのに」
「……どうせ部屋に戻れば好き勝手するんだろうが」
「そりゃあー……いや、出来ねえよ、さすがに。寝かせておきたい」
「ほう。……待てを覚えたか。えらいぞ、愚弟」
「……っ、アンタ、一言余計じゃねえかな」
「なんだ、褒めてやったのに」
兄弟は軽口を叩き合いながら、気持ちよさそうに眠り込むエイトを連れて家に戻る。

心地よい春の日の、兄弟と青年とのある出来事。


なお、エイトが目を覚ましたのは真夜中。
自分が屋外から屋内へ移動していること、そして両側にククールとマルチェロとがいて、それぞれの寝顔が自分に向けられているという超近距離体験をしていたので内心で悲鳴を上げる羽目になったとかならなかったとか。

この後、脱兎のごとく勢いでこっそり部屋から抜け出し、外風呂に入ったり遅い夕食を摂ったり。そしてまた、部屋の戻って気まずそうにしながらも二人の間に戻って寝直したり。

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