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龍宴庭note

突発小話&気まぐれ雑記用。 詳細などは「Category」→「★ABOUT」に記載。
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【マル&クク主drago】聖夜に祈りを、ロザリオに口付けを3

■書き直しては消して

付け足しては取りやめてを繰り返した結果、「3」になりました。
「2」に付け足して上げようと思ったんですが、読み返しが長くなるかと感じたので結局は切り離した次第です。往生際が悪い。

感想、反応、ありがとうございます。
嬉しかったので調子に乗ってしまいました。

メリクリはとうに終わってますが、名残という続きを書き落とし。
今度こそ、これにてメリクリ小話は終了です。
冷え込んで参りましたが、流行している病気に罹らぬよう気をつけて、健やかに過ごせますようにと祈りを込めて。

以下、最後の小話続きです。







まずその唇が触れたのは、露わになった額。
温めきれていなかったのか、それは冷たいキスだった。
すぐ目の前には、無防備な喉元。少し視線を下げれば、寛げられた襟元から雪のように白い肌が覗いているのが見える。
ぐっ、と喉が鳴りそうになるのを堪えれば、額を押えていた手が滑り落ちてきて今度は両頬を挟まれた。
「エイト――?」
どうした、などと訊くまでも無い。
女神様の「おまじない」はまだ続いていたのだった。
無機質ながらも極上の美を持つ顔が近づき、鮮やかな唇が次に触れたのは瞼。片方ずつを、小鳥が啄ばむような軽さで。
ククールは、それから目を離せなかった。瞬きすらも惜しく思え、息を詰めて妖艶ながらも敬虔な行いを大人しく見守る。
艶やかな髪が揺れたと思ったら、次は両頬。これも等しく左右に。羽のような軽やかさで。
上から順に降りてくるキス。
この流れでいくと次は――と、ククールがますます息を殺して待った時だった。

――ふっと。
寒さにて薄紅色になった唇から零れたのは、白い吐息。
頬に触れていたエイトの手が離れ、その両手はククールの胸元に当てられ……不意に、トン、と離された。距離を。体を。

唐突に離れた温もり。胸に生じた寂寥感そのままに相手を見るも、返されたのは感情の無い声。
「まじないは、終えた。……部屋に戻ろう」
今しがたまで触れていた手や唇の冷たさと同様の冷気を向けられたククールは、それで何だか無性に――悲しい、いや違う、これは寂しい?――とにかく内から込み上げるものがあって。
為すべきことはしたと言わんばかりに背を向けるなり腰を上げ、冷淡に立ち去ろうとする相手のその腕を、ククールが強く掴んで引き止めた。

「なに、を――」
予想外の行動だったのか、肩越しに振り向いたエイトの声には微かな驚きが混じっていたが激情に駆られたククールは気づかない。気にする余裕も無かった。

もう少しだけ、甘い余韻に浸っていたかった。
あと少し、ほんの少しだけでいいからその先まで触れて欲しかったのに。

いきなり手を離さないでくれ。
急いで離れて行かないでくれ。
俺はまだ寒いんだ。

なあ、もう少しだけ温めてくれよ……エイト――。





灯りのない部屋の中。
ククールが隣に腰を下ろし、そのまま一緒に窓の外を眺めて雪見に付き合ってくれたので「嬉しい!」とエイトは心の中ではしゃいでいた。
けれども、暖炉の火を入れずにいたので室内は冷えすぎていたのだろう。ククールが「寒くないのか」と訊ねてきた。
エイトは職業上それなりに慣れていた――むしろ、一人で居ることが多かったのでこの程度の「寒さ」ならば何ともない――ので否定を返したところ、眉を顰めた相手に自分は寒いからもっとこちらへ来いと誘われた。
目の前で広げられた両手の意味を図りかね、エイトは内心で首を捻る。
やがて、ああこれは彼の優しさなのだなあ、と考えた。
本当は雪見などどうでもよく、いつまでも夜更しをしている不良兵士が気になったから少し付き合ってくれていただけで、それでもなかなか戻る様子が無いから腕の中に引き込んで寝かしつけようとでもしているのか。
なので、エイトは広げられた腕には近づかずに答えた。先に戻っていてもいいよという意味合いの言葉を返して。
だが相手は更に顔を顰め――しまった、俺は何か言葉を間違ったのか。怒られる!――身を固くしたエイトの腕を掴むと、自らの足の間に座らせた。
「あれ?」とエイトが困惑していれば(顔には出ていない)、受けた叱責内容は「体を冷やすな」だったので驚く。
しかもククールはそのままエイトを抱き締め、更には満足げに擦り寄ってきたのでエイトは頭の中を疑問符でいっぱいにしながらも母鳥に温められる雛鳥のような格好で、雪見を続けることにした。

音のない室内。
ガラスの向こうで白い雪が舞い落ちるのを、エイトは黙々と見つめていた。
(……結構降ってるなあ)
本当はテラスに出て直に雪見をしたかったのだが、さすがにククールやマルチェロが一緒に居る時にそれを行うのはマズいと判断したので止めにした。
エイトがしたかったこと、それは「雪の上に寝そべり、空を見上げた状態から雪が落ちてくるのを見る」という少々変わった雪見の方法だった。
そうした格好で落ちてくる雪を見つめていると、吸い込まれそうな気がする。その感覚はゆっくりと広がり、やがてそのまま空に浮き上がるのではないかと――飛び立てるのではないかという錯覚を起こし、そのふわふわした感覚がエイトは好きだった。

(子供の頃に何度かそうやって楽しんでたら、見つけたトーポが半狂乱になったから止めたんだよな)
エイトは内心で苦笑する。
だが実際問題、その小さな友達は、彼の祖父は、雪の上で倒れているエイトを見つけた瞬間、ひどく肝を冷やしたのだった。そして、酷く心を痛めた。柔らかくも氷のように冷たい大地に、自分の孫が無表情に倒れていたのだから。
子供の時から既に恐ろしい美しさを持っていたが故に、人に遠巻きにされていた子供。むしろ自ら孤独を好んでいるような節すらあったので、トーポは彼が単独行動をする際は必ずついて回ったのだった。
エイトは、自らの氷に似た冷ややかな死に惹かれているのではないかと――それに親しみを抱いているのではないかと恐れたが故に。
だが、それが杞憂だったとやっと胸を下ろしたのは、エイトがマイエラ兄弟たちと交流しているらしい情報を得てから。エイトから定期的に送られてくる手紙によって、ようやく祖父は安堵の息を吐いた。

――そんなことなど孫は露知らず。
雛鳥のような扱いをされていたと思ったら、今度はククールがよく眠れるおまじないをしてくれ、と頼んできたのでエイトはそれを受け入れた。
これでククールは部屋に戻るのだろう。
これをすれば、自分はまた雪見が出来るのだろう(一人になってしまうのがちょっと寂しいけれど)と、考えながら、エイトはククールに手を伸ばした。
よく眠れますように。いい夢が見られますように。
それはいつか竜人の里で見かけた本に書かれていた、おまじない。
額から順に、祝福を。祈りを。願いを込めて一つずつに刻み、それをすっかり済ませたので「じゃあ俺は雪見の続きをするから、ククールは先におやすみー」と。

――そこで別れる筈だった。





冷たい床の上にエイトは居た。どういうことだかククールに押し倒された格好で。
見上げた先には銀色の髪を持つ綺麗な顔をした男がいて、険しい顔でエイトを見下ろしている。
そのきつい眼差しを受け止めながら、エイトは頭の中で疑問符を浮かべていた。
(なんで俺はこんな体勢になっているんだろうか。いやククールが引っ張ったからなんだけど)
無表情ではあるがその内心ではとにかく、「何で?」と「どうして?」とが繰り返されていた。

ちゃんとおまじないをしたのに、何で?

「エイト」
掠れた声で名を呼ばれ、綺麗な顔が近づいてきたのでエイトは内心でギャッと驚く。
けれども、どうにか答えた。
「どうした」
なんで俺は押し倒されているんですか。あ、もしかして寒さで足がもつれた?
などとごちゃごちゃと考えていれば、更に顔が近づいて――吐息触れる距離、ククールが囁く。

「寒いんだ」
「……ならば、早く部屋に」
「――中で温まりたい」
エイトは近距離から美しい顔をした男に見据えられた上に、よく分からない囁きを受けてどぎまぎする。
中で、って部屋のことだよな? 寝室の?
うん、早く戻ろう。シーツとか冷えちゃってるだろうけど、マルチェロがいるから温め直すのにそこまで時間は掛からな――。
思考をあちこちに回転させているエイトの頬を、ククールが撫でた。
きくん、と硬直したエイトだったが、自分を見下ろす男が切なげな眼差しをしていることに気づく。

あ、れ。もしかすると、これって。ククールって……。
寒すぎて、低体温症になりかかってるんじゃないか?
だからちょっと不明瞭なことを口走ってて、倒れたのもやっぱり冷えで強張って、それで。

エイトの思考が明瞭になる。
心の中で、「よし!」と意気込むと両手を広げて。

「――来い、ククール」
「え――っ」
そっくり真似たのは、先程ククールがしたこと。自ら両手を広げて相手を抱き込みその首筋に顔を埋めて囁いた。
「少しの間、こうしていよう。お前が暖まりきるまで」
「……っ、お前、そういうの――そうくるかよ」
は、とエイトの耳元で吐息が聞こえた。
苦笑交じりの低い囁きが耳朶を打つ。

「悪い。おかしくなってた。……うん。暖まるまで、こうしてて」
「ああ」
「ん。……お前のそういう懐の大きいところ、好き」
「……そうか」
エイトの肩口に顔をぐりぐり押しつけて、ククールは顔を隠したままくつくつ笑う。どうしようもないなという自虐的なその笑いはしかし、エイトが気づくことは無く。
肩越しから覗く銀の髪を眺め、ククールの背中をポンポンと叩きながら、相手が離れるのを待つ。

冷たい床の上。
雪の降る夜。
仄かに体温が上がるのを感じながら、二人は暗闇の中でただ静かに抱き合っていた。


(背中が! 冷たいけど! ククールが正気に返ってくれたみたいだからもうちょっと頑張ろう!)


メリークリスマス。

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