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龍宴庭note

突発小話&気まぐれ雑記用。 詳細などは「Category」→「★ABOUT」に記載。
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【マル&クク主drago】十六夜誘い誘う月 4

■雨とか地震とか。

よく分からない天候と気温ではありますが、のたりくたりと書き落とし継続。
御礼の意味を強める為に「~主」要素を深くしてみるとか画策中。
とにかく反応が嬉しくてありがたくて調子に乗っております。

11/23までに完結できると御の字。
以下、宜しければ続きをどうぞ。






「エイト兵士長。良かったらこの後、一緒に飲みに行きませんか。」
少し長引いたものの、どうにか処理し終えた書類の山。纏め終えたそれらを棚にしまい、部屋を後にしようとした時だった。
背後から声を掛けてきたのは、部下である一人の兵士。
彼とは長い付き合いだが、仲が良いというよりは同僚であるから言葉を交わす程度。それも大半は勤務中で、内容は仕事の確認だったり報告だったりで私語は少ない。
もっとも、これは彼だけでなく城に居る全員と俺とがそうなのだが。(何年経っても遠巻きにされるのと、会話や接触が少ないのは変わらない。)

相変わらず壊滅的な対人関係。
だが、昔ほどの辛苦や悲観はない。何故なら、すっかり慣れた――わけではなく、今の俺には心の支えがいるからだ。
友達、いや、し、しし、親友、が。出来た、ので。心の友、でも、ある。
暗黒神を倒した後のこの世界。
変わらぬ日常の中、自身の不出来さを嘆きながらも俺は兵士長の役職をどうにか頑張っていたのだが……そんな、とある日の仕事終わりに来たのがこの誘いだった。

俺は一瞬硬直し、思考が止まる。

一緒に、飲みに、行きませんか?
勘違いがあるといけないので投げられた台詞を分割し、ゆっくり噛み砕く。
聞き間違えじゃない。そして俺の理解力が確かなら、相手は俺を飲みに誘った。――誘ってくれた!?
夜の見回りで立ち寄った街や村の酒場で、楽しそうにしている同僚や部下たちを見かけたことがある。勿論、話しかけたり近づいたりはしない。気配はきちんと消している。
彼らは勤務を終えた一庶民。すっかり気を抜いて楽しんでいる時に、無表情で愛想のない上司と出くわすなんて最悪だろう?
だから俺は、その光景にそっと背を向けて立ち去っていた。
いつか俺もああいった輪に入れてもらえるだろうか、と思いながら。

それが、その時に願っていたものが、向こうからやって来た。
故に、俺が取るべき選択は一つしかない。
部下の誘いを受けた俺は、即断した。頷きを返すと、場所と時間を決める。
給料日前で持ち合わせが心もとないと素直に言うので、ならば俺が奢ろう――と口を開きかけたのだが、口下手が祟って間に合わなかった。
相手は安価な店を知っていると言い、現地集合にしようと提案してきた。

提案先は――なんと、ドニの村の酒場。
トロデーンから遠い場所なのは、多少の羽目を外しても見つからないだろうとの理由らしい。
成程。
しかし、ドニの酒場とは。
候補先の名前を聞いた俺は、つい思い出し笑いを浮かべそうになった。

――ククールと初めて出会った場所だ。
カードゲームに興じていた姿は、今でも思い出せる。
あまり行儀が良くないことだというのに、美形が足を組むだけでこうも格好良いのか。
長い銀色の髪が似合っている上、すらりとした体躯と長身。陽気で立ち回りが上手く、機転も利く年上の青年。
俺もこうだったら――……と何度も心の中で溜息をついたものだが、その青年と兄とが後に揃って俺の親友になるのだから、全く以って運命はあなどれない。

しみじみとした懐古はしかし、そこで一旦幕を閉じる。
没頭するがあまり約束に遅れてしまっては本末転倒。部下と別れた俺は、急いで身支度を整えてルーラを唱える。
浮かれすぎたあまり、指定場所を見逃して通り過ぎないよう気をつけながら。





そんなこんなで辿り着いた、ドニの村。
その酒場に意気揚々と足を踏み入れた俺は――失念していた。
俺が単独で行動すると、あまり良くない事態を引き起こすことに。

――俺がその場所に立ち入った瞬間、音が消えた。

賑わい、歌い、笑いあっていた人々の声が、騒めきが、一斉に静まったのを俺は見る。
泣きそうになり、踵を返しかけた――が、俺には待つべきものがいる。姿勢を伸ばし、脇目も振らずに真っ直ぐ向かった先は店主がいるカウンター席。
空席であることを確認すると、腰を下ろして店内の視線から逃れる。……こうすればみんな、見えるのは俺の背中だけになるから関心を無くしてまた騒いでくれる筈だ。
俺は挫けない。『初めての飲み会』の約束を果たすからだ。
手元に何もないのは格好がつかないと思ったので、先に軽く注文をする。
店主は無表情で暗い顔をした俺に若干、腰が引け気味だった。
けれどもそこは商売人。気合を入れたのか「分かりました」と答えて注文を受けてくれた。

頼んだのは「赤竜の息吹」という、なんだか凄い名前の蒸留酒。
「オークニス原産です。ちょっとばかり度数が高いんですが、お口に合うと思いますよ。」
なんて、丁寧な説明をつけてくれて。
そうしてナッツのアソートと一緒に出てきたのは、通常のブランデーに比べて赤みの強い色をした液体。
綺麗なグラスに注がれ、目の前にことりと置かれたそれを見て俺はちょっと嬉しくなる。
オークニスは苦手な町だが――寒いのが! 辛くて! ……申し訳ない、メディ殿!――特産品のヌーク草は好きなのだ。この酒にもきっと幾らか混ぜ込まれているだろう。
加工して懐に入れても良し(暖かい)、飲んでも良し(温かい)という優れもののヌーク草。
今年の冬もお世話になるかもしれないから、買い付けに行っておくか――と。
グラスに口を付けてちびりと酒を飲みながら、俺は待つべき人を待つ。

店内の静寂は先程に比べて少し戻ってきた……ような気がするが、早く賑やかに戻って欲しいなあ。そんなことを考えながら零れる溜め息を、酒を飲むことで胃の腑に返す。

ふと、覚えのある気配を感じた。
あれ。これって――?
肩越しに振り返ろうとした、その時だった。

「あっ。先に来てたんですね、兵士長!」
戸口を勢いよく開けてやって来た待ち人は、不思議なことに二人になっていた。
あれ? 約束した時は一人だけだったような?
内心で首を傾げていれば、約束相手が俺の側にやってきて、こっそり耳打ちする。

「もう一人いるって言うのを忘れてた。……すまん、エイト!」
そう言って両手を合わせた部下は、俺が兵士長になる前までは同僚だった彼に戻り、ちょっと砕けた口調になって苦笑してくれた。

その距離感が、ちょっとばかり……いや、かなり嬉しかった。

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