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龍宴庭note

突発小話&気まぐれ雑記用。 詳細などは「Category」→「★ABOUT」に記載。
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【マル&クク主drago】十六夜誘い誘う月 5(裏面)

■小賢しくちらほら。

読み返して、あっちこっちを書き足したり修正したり。
ついでに、途中からタイトルに(裏面)と追加してみたり。
色々小賢しいことをしております。
思いついたままを即時書き落としているので、後で粗が目立つわけで。と言い訳しておいてから、これまた続きを書き落とし。

感想ありがとうございます!
先に少し返信させて頂きます。
>雑記の小説をサイトへ移動しない?
それなりに数が溜まってきたので、纏め直して載せる予定ではあります。
ただ、本編が追いついていないのがあったりするので先のことになりますが。(特にdrago。むしろdrago。)すみません。

以下、小話続きです。






夜空にぼんやり掛かる月が夜道を照らす中、三人の男が肩を並べて歩いている。
右に厳格な表情をした黒髪の男、左に銀色の髪を束ねた端整な顔をした男。
その真ん中、氷の花をそのまま人にしたような美貌を持つ青年が彼らを従えるようにして歩いている。
目的地はマイエラ修道院の近郊、とある屋敷。
ひっそりと建つその場所は、マイエラ兄弟の帰る場所。
時々、女神様も引き止めて――引き込んで。

――こうして三人で過ごす日常が増えたのは、いつからだろう。
ククールは、空に浮かんでいる月のようにぼんやり考える。

それは、歪んでしまってもう元には戻らないと思っていた兄弟の絆が、繋がった時からか。
それとも、その歪みを掴んで引き寄せた――ゴルド崩壊時に躊躇いなく兄を引き上げた、女神サマの慈悲のせいか。
静かに侵食し、いつの間にか篭絡されてしまった我ら兄弟。
ああ、ああ、すっかり落とされたこの心は今や彼の人の手中にありて。
気づけば肩を並べて歩き、いつしか並んで眠るまでになった。

(……まあ、最後のやつに至ってはよく許されてるなと思わなくもないけど。)
ククールは隣を歩く彼の女神――エイトをちらと見やり、曖昧な笑みを浮かべる。

口数少ない、というよりは寡黙に近い青年兵士長。
彼の本籍及び所属はトロデーンなので、世界が平和になった後は必然的に接触も減る――筈だった。
そこで、狡猾たる我が兄上様の出番となる。
修道院や教会の腐敗と汚職を一掃し、新生させたその功績は人々の純粋な尊敬を集めるのに成功した。
犯した大罪は決して消えないものの、幾らかは赦されたのだろう。信頼と憧憬を少しずつ積み重ねた結果、確かな聖職者としてその地位を確立した。
この愚弟も巻き込んでくれたわけだが、結果的にエイトとかかわりを持てるようになったのだから恨みはすまい。それに、忙殺手前で済まされているのだし。
しかし代わりに忙殺する仕事馬鹿二人がいるわけで、そこは「弟」の役割を最大限に使って邪魔をするようにしている。
勿論、兄の身が心配――などではなく、邪魔をしないとその兄上様と女神サマが二人きりになるからだ。
ふたりきり。
密室。
遅い時間。
よからぬものが生まれるには充分すぎる条件だ。

(それは話が違うだろう!)
――ということで、ククールも自分の確立した地位を使って調和を保っていた。
馬鹿みたいに甘え、子供じみた言動を羞恥なく実行して彼らの間にぐいぐい入り込んで輪を作る。
マルチェロは甘えることを良しとしない。弱みを見せるのを、今でも嫌っている。
多分、いろいろ見て来たんだろう。俺と同じように。
ククールは意味も無く前髪を掻き上げて、再びエイトを見る。
綺麗な顔をした兵士長。
それこそ自分と似たような目に遭ってもおかしくはない。
だが、彼の場合は冷ややかな氷の気配を身に纏い、人以外の何かではないかと思う程の、ぞっとする美貌を持っている。
迂闊に踏み込めない、その領域。
不可侵の女神。
その上、彼は非常に腕が立つ。兵士長の役職は飾りでも何でもないのだ。

(竜神王に一人で挑んで勝った、とか言ってたもんな、この女神サマは。)
なぜ事後報告なのか。そして、なぜそんなことをしたのかと詰め寄りたかったが、どうせ詳細は分からない。その美貌と引き換えにしたかのように、彼の女神は寡黙でいるので。
あまり多くを語ろうとしないのでその考えが読み取れない――のは、昔のこと。
思い上がりかもしれないが、今は少しだけ分かる……ような気がする。敬虔な狂信者に与えられた慈悲とでもいうのか。

(それとも、俺があいつにすっかり参っちまっているせいか。)
自身の考えに、思わず浮かぶのは自嘲。己を嘲り、それから――自賛したくなった。
相手を理解しようと努力した結果なのだとしたら、褒めるところだろう、これは。
少しでもエイトの心を知りたい。
もう少しエイトの心に踏み込みたい。
もっと深く近づいて。
手を伸ばし、掴み。
この腕に閉じ込めて――いや、その腕に閉じ込められてしまいたい。

けれどもこの関係は主従ではない。
かといって、友人というにはその距離は近すぎた。
不思議な、けれども絶対な関係。
「それ」に名前はない。つけようも無い。
名付ければ、その途端に壊れてしまう気がして――怖いから。
だから――。

(……このままでいいんだ、俺は。俺たちは。)
ククールは隣に並ぶエイトの肩に腕を回すと、そのまま甘えるように寄りかかった。





(またあいつは、堪えも無く……。)
黙々と歩いていたマルチェロは、右にいるエイトの体がぶつかって来たのを感じて眉根を寄せる。
犯人は我が腹違いの愚弟で、今日も今日とて見境なく女神に甘えているようだった。
(家まで我慢出来んのか、あいつは。)
エイトがマルチェロをちらと見上げてきたので、小さな頷きを返しておく。
――ぶつかってすまない。
――気にするな。悪いのはそこの阿呆だ。
視線だけでそんなやりとりをしたマルチェロは、エイトと、その肩に腕を回して寄りかかっているククールを順番に見てから溜息を吐いた。

思うことはあるものの、夜道で語るには長すぎるので止めておく。
それに、説教したところで返ってくるのは膨れっ面をする「子供」だ。叱ったところでますます甘えるのが見えている。逃げ込む先は当然、彼の女神殿だ。
行き過ぎた素振りを見せたら叩いて止めよう――そんな結論を出して締めくくると、マルチェロは思考を切り替える。

視線を留めた先は、右隣の氷花。己よりも上背のある男たちに囲まれていても、その表情は氷の美貌を保ったままで、前を向いて歩いている。
凛としたその相貌。兵士と言われて、誰が信じよう?
しかしこの女神のように美しい男は兵士なのだ。
大国トロデーンの兵士長。竜神王を素手で打ち負かしたと聞いたが、本当だろうか。
左隣からの重みに負けて僅かにマルチェロの方に寄りかかっているのだが、当人は自覚していないのか涼しい顔をして――無表情に歩いている。
この女神は、ほとんどと言っていいほど喜怒哀楽を表現しない。
ヒビ一つなくその氷の形を保ち、ただ静かに言葉を口にする。
それは常に短く、そして突き放したような物言いだがどういうことか胸の奥を衝いてくる。
溶けた氷が水になり、滴り落ちたそれは気づかれぬよう侵食して――落とす。堕ちてしまうのだ、心ごと。

――いっそ、コイツが法皇になればいいのではないか。そう考えたことがある。
しかし、当人に提案してみたところで一蹴されるだけだろう。――事実、された。「無い。」とだけ返されて。追撃は許されなかった。エイトはとっとと背を向けて、立ち去ってしまったので。
過ぎた権力を得た人間の末路を知っている為か。
ああ、丁度彼の目の前には実に見事なサンプルがいたのだった。

だからマルチェロも勧誘するのは止めた。
代わりに、誘うことにした。自らの領域の仕事を。
手が足りない、人が居ない、時間が無いなどなど、様々な理由を連れて彼に助力を頼んだ。
トロデーンに依頼をして、彼を出向させて。
引き寄せ、繋いで、そうして出来たのがこの円環だった。

この日の為に自分は贖罪をしていたのかもしれない。
信用を重ね、信頼を得て築いたものの対価は我が身、我が精神。――充分な褒賞だ。
愛を信じきれない荒んだ目をした弟が、いつの間にかすっかり丸くなるどころかそれこそ飼い猫のようになっていくのを呆れて見ていた自分も、今は昔。
同じように丸くなり――流石に猫にはなりはしないが――こうして近距離に他人を置くという行為を許してしまっている。
引き込んだつもりが、惹きこまれて。
気づけば兄弟諸共、彼の女神の御手に抱かれている始末。

昔の自分が見たら、どうするだろう。
どうなるだろう?

(発狂するか、それとも――結局はこうして同じ末路を辿るのかもな。)
過去の自分を哂い、今の自分を笑い、それから一度月を見上げる。
冷たく静かに落ちるその光はしかし道を照らし、導いてくれている。隣にいる女神が如く。
右に触れている箇所が温かい。
寄りかかってくれている重みがどこか心地いい。

(……甘える、か。……はっ。馬鹿々々しい。)
浮かべた苦笑と共に内心で吐き捨てたものの、考えに反してマルチェロは自然と右に傾き、弟がそうしているように自らもまた右隣の温もりに身を寄せるのだった。


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