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龍宴庭note

突発小話&気まぐれ雑記用。 詳細などは「Category」→「★ABOUT」に記載。
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【マル&クク主drago】十六夜誘い誘う月 9

■中世の夜間着を検索したら。

外国産のセクシーな下着が出てきて笑う羽目になる。
ビクトリア調とかシースルーとかシルクとか。合ってるようなないような。いやいやいや、寒いから。着せても似合いそうなのはいるけれども。
しかも「中世の人々は裸で寝ていた(夜着をつけて寝たのは聖職者のみ)」という情報を見かけてしまい、ああもうダメなやつ。これ駄目なやつ。
DQはファンタジーなので、身につけさせていただいております。
あと竜ハーフなので寒さに弱いから真っ裸は可哀想。……いや、そこでマイエラサンドの出番であり威力が発揮され(そこから先のページは破かれていて読めない

などという馬鹿な妄言はさておき、以下、小話続き書き落とし。
内容は上記の前文で察してください。
※腕の状態はだいぶ回復して、何とか平常に戻れそうです。






十六夜月が照らす中、テラスを通って室内へ移動した湯上り後。
柔らかな綿で織られた夜間着のチュニックに着替えたエイトは、ベッドの上にいた。足を投げ出し、ゆるりと寛いだ格好で――いた筈なのだが、いつの間にかそこには侵略者が居た。
濡れた長い銀髪をそのままにした気位の高い猫のような男が側に寝そべり、エイトの伸ばした足に腕を絡めていた。尾を絡める猫が如く。深い緋色の夜間着を着た豪奢な男。
対して、エイトはその濡れ髪を大判のタオルで拭いてやりながら、けれども視線は反対側にいるマルチェロに向けて何かを話し合っていた。

紙をめくる音に混じる、囁き声に似た低音でのやりとり。
報告か、または指摘か。
そこに感情は無い。
ただ淡々と言葉を並べるだけの会話。
閉め切った室内には、とかく聞き触りの良い音だけが響いていた。
猫然とした男――ククールは時々、少しだけ顔を動かして横を向くエイトの視界に混ざろうとするのだが、相手は気づいているのかいないのか――いや、見えてはいるが気に留めていないのだ――マルチェロとの会話を続けている。
しかしながら、エイトの手は動いており、退屈そうにしている高慢な猫の――ククールの髪をタオルで挟み、押さえ、実に丁寧に水気を拭きとっていた。
背中を優しく叩くような、優しいリズム。
それは心地よく、うっかりすると眠ってしまいそうだった。

――だが、それではいけない。
ククールは寝かしつけて欲しいわけではないのだ。

「なー。もう真夜中だぜ。いつまで残業してるんだよ。」
無関心に耐えかねて、抗議の声を投げ込んだ。にゃー。
二人が会話を止めて視線を落とす。不機嫌さを隠さない、全くに素直な子供へ。
ふうと溜息をついたのはマルチェロ。どちらの物かは分からない――別に知りたくも無い――仕事の紙束を纏めると、それをベッド脇のテーブルへと置いて片付けた。
それを見て、ククールは「あれっ?」という顔をする。

「……止めてくれるんだな?」
ついそんなことを言えば、彼の兄上様は眉間に皺を刻んでじろりと睨む。
「強行したところでお前は煩くするのだろう。」
「する。」
これまた素直に即答したククールに、マルチェロが呆れ顔になる。
「阿呆。……おい。お前も、甘やかしていないで何とか言ったらどうだ。」
矛先向けたは、われ関せずといった姿勢で淡々と猫の毛並み――ならぬ、ククールの髪を拭いている女神サマ。
彼の青年は落ち着いた眼差しをマルチェロへ向け、首を傾げる。
「……何を。」
言えばいいのか、と眼差しで問い掛けたエイトは、そこで、はたと思いつくものがあった。
手入れをしていた動作を止め、押し黙る。

「……エイト?」
穏やかな心地でいたククールが、すぐさまそれに気づいて手の主を見上げた。
不安げな瞳。エイトの足に絡めていた腕をそろそろと動かして、控え目に撫でる。
「悪い、大事な話だったか?」
相手の顔色を窺いながら問いかけるも、答えはない。反応すらも無く。
元々、エイトはそうはっきりとした感情を表には出さない。けれども、その時のククールはすっかり甘えていたので――ぬるま湯の温もりに安心しきっていたので、不意に訪れた氷の気配に動揺してしまう。
「エイト。」
無意識に、名前を呼ぶ。甘さを作った声音で。
媚びを売る行為は過去に捨てた筈だった。
けれども、ああ、けれどこれは媚びではない。
敬虔ゆえの、狂愛ゆえの執着心。
「怒ったのか、エイト?」
情けない。見っとも無い。
そうまでして側に居たいのかと笑う声を聞く。
――当たり前だろう!
離れて欲しくない。離れがたい。離れられたくないとしがみつく子供は胸中の嘲笑を振り払い、口を開く。
「エイト、なあ、悪い、俺――」

――ぺち。

左頬に衝撃。
いいや、衝撃というにはそれは軽すぎた。頭を撫でるのと同程度の力で頬を押えられた――叩かれた?――ククールは、目を丸くしてエイトを見つめる。
「エイ、ト……あの、」
触れる手の体温を感じながら問い掛けようとしたククールに、エイトが少し首を傾げ――それから、ゆるりと氷を解く。

「甘やかさないで、みた。……どうだ。」
「どう、って……なんで、お前」
なんでそんな綺麗に笑うんだよ。
ククールはぎゅうっと眉根を寄せて、己の頬に触れている手に自分のものを重ねる。
こうも優しく撫でておいて、どうして甘やかしていないなどと言いのけるのだろう、この女神サマは。
甘い罰。甘やかな鞭。胸の奥の柔らかい場所を、残酷に貫いてくる。
「お前、ほんと、酷い。」
責める言葉を紡いだはずの声は、けれどどうしようもなく甘えたものになってしまった。
ククールは少しの間黙り込んでいたが、やがて相手を見上げて問い掛ける。
「なあ……髪の毛、乾いた?」
「いや。」
「……じゃあ、乾かして。」
拗ねるように、ねだるように。頬に触れるエイトの手に自ら擦り寄って、口にしたのは懇願。それを聞いたエイトは嫌な顔をすることなく――それどころか、言われてみれば途中だったなという反応を見せると、「分かった」とだけ返して再び大判のタオルに手を伸ばす。
その際に掴まれたままの手を緩やかに解いたので、温もりを取り上げられたククールがムッとした顔でエイトを見る。
「別に片手でも出来るだろ。」
「ああ。だが、拭き残しがあるといけない。……今が時期は、きちんと乾かさないと、風邪を引く。」
抑揚のない声で答えを返しつつ、それでもククールの頭をぽんぽんと叩いて宥めたその手際は鮮やかで、不満げな子供は大人しくなってしまう。

「……お前は本当に飴と鞭が上手いな。」
戦意喪失した獣は、屋外の浴槽で決意した報復をすっかり忘れてしまったようだ。
感心した声で呟いたマルチェロは、為すがままにされてうっとりと目を閉じているククールを見て溜息を吐く。
(まあ、見えていた結果ではあるが……それにしても、堕ちるのが早すぎる。)
これも日頃からの「調教」の積み重ねか――そんな揶揄を考えて失笑し、それから弟の長い髪の毛を整えてやっているエイトに対して僅かばかりの畏怖を覚える。
秋の夜長。
もう真夜中ではあるが、まだまだ今日は終わりそうにないなとマルチェロは思った。





エイトの手を握り、その左脚に自分の足を絡めながらククールは穏やかな顔で眠っていた。
丁重に扱われたその銀髪は艶やかに肩に、背中に沿って流れて落ちている。
シーツに広がる銀の海は、夜の中でも美しさを保っている。隣にいる女神のように。
エイトは抱き枕よろしく抱きつかれているというのに、涼しい顔。
元より一片も氷の美貌を崩すことなく、上体を起こした格好で本を読んでいる。マルチェロはその手元を軽く覗き込み、問いかける。
「先程から何を読んでいるんだ。」
寝た子は起こすまいと、声は潜めて。
すれば、エイトも声量を合わせて答える。
「人心掌握の、書物を。」
「……何だと?」
物騒な言葉を聞いて、マルチェロはぎょっとする。やや強引にエイトの手を掴み、本の背表紙に目を向けて……肩透かしを食らうことになる。

『対人スキル辞典~初級編~』

これは何の冗談だ?
マルチェロは内心で首を捻り、自身の眉間に皺がきつく寄るのを自覚する。
新人が読むべき教本の一種。マイエラ騎士団の書物庫に置いてあるのを見たことが――いや、これは。
「お前……それはもしや、修道院にあったものか。」
問えば、エイトが本から顔を上げて視線を向ける。
「……ああ。許可は、とってある。……持ち出しは……禁則だったか。」
「いや、お前ならば構わん。構わん、が……」
それは何だ。新しい戦術に組み込む気か。それとも新卒の指導用に復習でもしているのか。
脳内を占める多数の疑問。だが口には出さず、エイトから手を離して口にしたのは謝罪。
「読書の邪魔をした。……俺も、そこの甘えたと同じだな。」
そこの、とククールを一瞥して笑っていれば、エイトが静かに本を閉じてヘッドボードに置いた。
その上でマルチェロに向き直り、首を傾げる。
「マルチェロは……良かったのか。」
「何をだ。」
「髪を。」
髪?と怪訝そうな顔をしたマルチェロだったがすぐに合点がいった。
肩を竦め、フンと鼻を鳴らす。
「俺をそこの子供と一緒にするな。自分の面倒は自分で見る。」
貸しは作らない。弱みを見せれば最後、あっというまに落ちていくのを知っているから。

……そら。そこに堕ちきった獣がいるではないか。
マルチェロは、信頼どころか自らを寄せて安心しきった寝顔を見せている捻くれた子供のなれの果てを見る。
繊細で、警戒心の強い猫のような男。その美しさが祟って散々な幼少期を過ごした腹違いの弟は、女性を誑し込むだけの不逞な輩だった。
適当な理由をつけて追い出した弟。それがいつの間にか側に居て――女神を連れて戻ってきた彼は今、その傍らに遠慮なく侍らって蕩けている。
呆れる一方で、僅かに苛立つ。
素直さを露わにし、愛しい存在に真っ直ぐ甘えるその姿勢を。

(俺は……俺にはあのような真似は出来んな。)
無理をしているわけではない。ただ、そういう性分なのだ。
それに、この女神殿にはどうせ筒抜けだろう。つまらない虚勢も、どうしようもない意地も、悉く砕いて侵食してくる恐怖の存在。
甘えてみせるなんて、出来やしない。
どうせなら、いっそ――。
マルチェロは上体を捩じると、エイトの肩を掴んで抱き寄せた。
油断していたのか、それとも成り行きを見ようと考えたのか。とかくエイトは何の抵抗も無くマルチェロの胸に落ちてきた。軽く、ぽすりと。
ククールに片手を拘束されているせいで、今のエイトは無防備だ。
――そこに付け込むは悪い大人。
僅かな抵抗なのかマルチェロの胸元に空いている手を着いて離れようとするので、その肩を強く抱き直す。
「マルチェロ、何を」
非難めいた氷の眼差しはされど美しく、更に煽ってくれるのだ。胸の奥に凝る純粋ではないものを。

「なあ、女神殿。俺にも、そこの子供に与えたものを分けてはくれないか?」
どろどろに溶けた蜜のような甘い声が、エイトの耳に吹きこまれる。
エイトはマルチェロを見上げて何か言いかけたが――結局は口を噤み、視線を伏せた。
その視線がククールに流れて止まり、それから浮き上がるようにして再びマルチェロに留められる。
黒曜石。薄暗い室内でも強く輝く闇色の瞳はマルチェロを捕らえ、形の良い唇が言葉を紡いだ。

「同じものを望むなら、同じくあればいい。」
意味を問い掛けようとしたマルチェロだったが、しかしそれは敵わなかった。
とん、と軽く胸を押され――肩を抱いていた手はどうしてか離れていて――気づけば、マルチェロは仰向けでベッドに倒れ込んでいた。
柔らかな手際であった為か、ベッドは微かにぎしりと軋んだのみ。ククールは相変わらず眠り込んでいて、エイトを挟んだ向こうでの出来事は感じていないようだった。
茫然と天井を仰ぐマルチェロに、エイトが上体を伸ばして屈みこむ。
その胸に片手を置き、見下ろした格好から言葉を落とした。

「こうすれば、お前の望みに添える。」
酷く柔らかい声と共に頬を撫でられ、髪を梳かれ――最後に頭を軽く叩かれたところでエイトが離れた。
元の位置に戻ると、下の方にずれていた毛布を手繰り寄せてククールとマルチェロの肩に掛け直してやる。
それからエイトもようやく横になると、顔だけをマルチェロに向けて穏やかな微笑を一つ。

「もう、夜も更けている。眠ろう、マルチェロ。」
「……まだ同等ではないが?」
自身の見っとも無さに歯噛みしながら尚もマルチェロが悪足掻きを見せれば、エイトは口元に指先を当てて一拍の沈黙を置いて思考する。
やがてマルチェロに向かって手を伸ばし――伸ばされた白い指先はその唇を軽くなぞり、離れた。
「な、……っ」
その行動は、間接的な接吻ではなかっただろうか。
大きく動揺し、絶句するマルチェロにエイトが告げる。
「良き夢を見れるまじないだ。……おやすみ、なさい。」

エイトは仰向けに戻ると、そのまま目を閉じて眠りにつく。
置いて行かれたマルチェロは己の唇をなぞり、唸り、顔を顰め――やがて諦めたような息を吐くと、それでも毛布の下でエイトの手を探り、弟がそうしているように自らも手を繋いで目を閉じるのだった。

ああ、やはりどうにもこの女神には勝てる気がしない。

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