■クク主。(病み病み闇)
とんでもない告解(メッセ感想)を頂いたので、エイト視点を速攻で書きました。欲望に忠実であれ。
テーブルについて首からナフキンを下げましたので、是非とも!(ください!)
(追記:一部、抜け落ちやらなんやらあったので修正)
多分。多分、だけれど。
俺はいま現在、ひどい目に遭っている――遭わされている?――のだと、思う。
何故なら、知らない部屋のベッドの上に仰向けに拘束されているからだ。
何日経っているのか、正確には分からない。
体内時計は正常なのだが、窓のない部屋に閉じ込められているので日時の感覚は曖昧だ。
ならば周囲を把握しようとベッドから起き上がろうとすれば、邪魔をしたのは拘束具。
四肢を拘束するその道具は、けれど鎖や鉄の輪といった硬質で冷たいものではない。
絹のリボン。
レースのスカーフ。
そんな、肌触りのいい柔らかな拘束具(?)ばかりなので俺は心の中で首を捻ってしまった。
もしやイタズラなのではないか、と。一握の希望として。
しかしながら、これはやっぱり拘束具の役目を果たしているのだと直ぐに思い知らされる。
(は、外せない……!)
柔らかい材質なのに、手を掛けるとこれが見事にびくともしない摩訶不思議。
摩擦で結び目が緩まないだろうかと腕を動かすも、ゆるゆると布が肌に擦れる以外は全くと言っていいほど緩んだり外れたりする気配がない。
これは一体なんなんだろう?と、こっそり「竜人」の能力を使ってみれば――。
――「竜殺し」という効果を見出してしまい、起き上がったばかりのベッドに卒倒する羽目になった。
おかえりなさい、とベッドに言われた気がしたのはきっと幻聴。
もしくは幻想的友人(イマジナリーフレンド?だっけ)の声か。
……友人。
この言葉を思い浮かべた途端、泣きそうになった。(年月を経た今でも、俺の感情表現は相変わらずなので、簡単に涙は出ないのだけれども。)
俺は、多分――確定したくないけれど――大切な友人を失いかけているのではないか?
そういう気がしているだけで、ただの勘違い、いつもの被害妄想的であれば、俺は今の状況を耐えられる。耐えきれる。
それか、もしもその友人……ククール、が。
もしかすると、かつてトロデーンにあった呪いの杖のようなものに触れてしまって。
それで何かしらの呪いにかかり、こういうことをしでかしてしまっているというならば、まだ耐え忍ぶことができる。
解呪すれば希望があるから。俺も、誤魔化せるよう頑張るし。(仕事だと思えば、幾らでも言い訳は作れるし取り繕える。俺だって成長したのだ。)
天井を見上げながら、初めて出来たトーポ以外のトモダチであるククールのことを考える。
(俺、なんかしちゃったかな……だとしたら、教えてほしいなあ)
この見知らぬ部屋で目覚めてから、これまでの自分の行いを何度思い返しただろう。
少なくとも九十は越えた。もうすぐ百に手が届くところ。
(怒ってるから、あんなに機嫌が悪そうだった……んだよ、な?)
勤務を終えて自室に戻った俺を、そこで待っていたらしいククールが出迎えてくれたのがはじまり。
「また残業か? お疲れ様」
労いの言葉と共に差し出されたカップには、薄い空色の液体が入っていた。今の時期によく見かける清涼感のあるジュースだろうか。
ククールの浮かべていた微笑にちょっとした違和感を覚えたが、俺は友達の優しさに感謝して手渡された液体を飲み干した――そこで、記憶は途切れている。
――そして今に至るのだ。見知らぬ部屋に監禁された状態で。
「お。目を覚ましたのか」
体を捩って声のしたほうへ視線を向ければ、丁度ククールが部屋に入ってきたところだった。
じゃらり。がちゃり。そんな重厚な音がした。それが錠前の鎖を外し、施錠していたドアを開けたものだと気づくのに遅れたのはあまりの厳重さに驚いていたせい。
なんでそんな、たくさんの鍵がついた鍵束を持って。
大きな錠前や太い鎖も、何の必要性があって――。
そもそも、俺は何で拘束されてここにいるんだ?
色々ぐるぐる考えていると、ククールがベッドサイドに置かれていた椅子に腰を下ろすのが見えた。両腕を胸の前で組み、長い足を交差させて、いつもの様になる格好で座る姿はやっぱり格好いい。
ククールは、俺と視線が合うなり笑って――いつもの格好いい笑み、だけどどこか冷たいような笑い方で――何かを一言、二言。
「いい子にしてたか」とか。
「竜殺しが効くとは思わなかった」とか。
気遣っている(?)言葉と、とんでもない言葉を吐いて立ち上がると、ベッドにいる俺の上へ圧し掛かってきた。無言で。笑みを浮かべたまま。
「どうした?」と尋ねようとした言葉は唇で塞がれた。
友好の証、お休みの挨拶とは違う――決して違うと断言できるキス。それは乱暴に深く食いつき、めちゃくちゃに口内を嬲られた。
そのせいで、つい手が出そうになり――寸でのところで加減したのがまずかった。
解けたこぶしが打ったのはククールの頬。
僅かに掠めたそれをククールは流し目で見送り、俺の顎を掴んで笑った。
「もうちょっと本気で殴ってくれても良かったんだぜ?」
折角のチャンスだったかもしれないのにな?と。
そんな囁きと共に、体を直撃したのは拘束の「まじない」と同じもの――呪いの竜殺し。
ぐったりとベッドに横臥した俺にククールは、これまでに自分が重ねた修練の結果を語り(そこは正直すごいと思ったが)、そしてまた顔を近づけてきて俺に囁く。
「何か言いたげだな? 何でも言ってくれ。というか、そろそろ俺はお前の声が聴きたいんだけどな?」
優しい声、優しい目。しかしそれはまやかしで、瞳の奥に見える光は妖しい。
だから「何を考えている」と尋ねたかったことを口にすれば、ククールはますますおかしそうに笑う。哂ってくれた。
「お前のことしか考えてないに決まってるだろ」
砂糖をまぶした嘘。
やっぱりククールの様子がおかしい。警戒の為に身構えるも、ククールに強く両肩を押さえつけられてまた先ほどと同じ口づけを受ける。
今度は長い時間、たっぷりと。舌を軽く食まれ、唾液を流し込まれた時などはさすがに相手がククールだとしても、とんでもない怖気に襲われて混乱した。(でも表情には出なかったと思う。ククールは鼻先で笑って、更に舌を絡めてきたから。)
長すぎるキスから解放された頃には、俺は全身にびっしょりと汗をかいていた。
顔を離したククールは、得体のしれない疲労感に打ちのめされて咳き込む俺を見下ろして――。
「愛してる」
いつかの夜、一緒に見た星空に浮かんでいた銀色の星が落ちてくる。
俺は恐らく、友達を。
今日これから――この先から。完全に失うのかも、しれない。
[1回]
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