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龍宴庭note

突発小話&気まぐれ雑記用。 詳細などは「Category」→「★ABOUT」に記載。
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【クク主drago】たわむれかんきんぎんのおり 3

■クク主。(病み病み病み)


寝起きに「三次創作」の威力を思い知った結果の産物。
頂いた小説に対しての for the answer、ざっくり答え合わせ的な続きです。

(ryure様:感想ばかりか、なんとも素敵な小説を頂けて極楽至上の極みであります。
本当にありがとうございました!)
お陰様で別件の話が歪みそうになっていてもう危険なことといったらない。そして時間が足りなくなる。








真夜中の青が広がる室内。
冷えた寝台の上には、アンティークランプの仄かな明かりでさえもぼやけるような輪郭をした仄白い塊がある。

シーツに身を包み、子供のように身を丸めて眠るは氷の女神。
優しい色をした白いシーツは清潔さを保たれているのもあり、心地が良いのだろう。もしかすると、それから心の安寧を得ているのかもしれなかった。

手足を内へ引き寄せて身を丸めているせいか、白い塊は成人男性にしてはひどく小さく見える。
失った空白に、汚れのないシーツを押し付けるようにして。
白い汚濁に満たされた体を、柔らかな感触を持つ相手に委ねる姿はまるで胎児のよう。
けれど、相手は何も語らない。
ただ滑らかに優しく包み込むのがその役目。
物言わぬ友人として。それこそが失い、欠けた空白の元ではあったがーーそれでも。
それでも、男の青褪めた白い花が如く相貌は、今そこにある限りは純粋な美しさのみが崩れずにあるばかり。


「……また眠っているのか」
その部屋に、足を踏み入れた男が一人。寝台の上の塊を見つけるなり、呆れたような溜息を吐いた。
足音に注意を払いながら近づいて、足元のほうへ腰を下ろす。顔の側だと気配が近すぎると考えて。
ぎしりと僅かに軋んだ音が聞こえたが、氷花の美を持つ男が起きる様子はない。
「……連日飽かずに抱き続ければ、さすがのお前も堪えるか。エイト」
口端を歪めて笑みに似た何かを作り、ククールはエイトを見下ろす。
思い返すのは、この檻の中で自身が行った仕打ち。

境界線を乗り越えたばかりかそこにある真白を踏みにじり、凌辱した。幾日も。
罪の意識から逃れたい訳でもないだろうが、『愛』という名のもとに淫らな欲望を身勝手に捧げ、注ぎ捧げた。幾月も。
透明な器はいつも許容量を越えてしまっていて、その神聖ではない行為のあとは大抵、滑らかな脚の間の神秘的な奥から注いだものが溢れていることが多い。
望まぬ貢物を拒絶するかのように、足の間を伝い落ちる体液。
それが、なんだか泣いているようだと思ったところで堪らなくおかしくなった。

くだらない罪悪感は消えろ。
胸中で自嘲して、代わりに淫靡な愛の証として更に刻みつけるのが日課となった。
中へ、外へ。口の中、胎の中へ。薄れる度に、消える毎に、何度も何度でも重ねつけた。
そうして繰り返した刻印は、かつて淡い花びらでしか許されなかったものを歪なものへと変える。
白く滑らかだった肌は、今は噛み跡だらけ。あちこちに。
控えめで敬虔な愛情からの跡は、きっと一つもないだろう。どこもかしこも獣じみた欲でかじり取られた跡があり、所有印でもあるかのように無粋な赤を晒している。
醜くも鮮やかに咲く、血の色に似た花が点々と。
そんな傷跡だらけのエイトをかつての狂信者は暗いアイスブルーの瞳で眺め、口元に浮かべていた笑みを更に歪ませる。

敬虔を乗り越えた向こうの禁忌に走り、透き通った器を穢した張本人。
それが断罪もされず、今もこうして側にいるのは何の冗談だろうな?

「なんとも愉快な現実だよな、エイト?」
神の御手を擦り抜けた罪人は、戯れ言を口にしながらエイトに手を伸ばした。
触れたのは髪。引き被ったシーツで隠されていた為に少し払いのけて、黒髪を梳き始める。緩やかに、相手を起こさぬ加減にて。
それは、すっかり傷つき萎れている花の為か、自身の慰めとしてか。
ただ手つきは優しく、ただただ優しく髪を梳かしていくその指先に、髪が絡むことはない。劣悪な環境下に置かれているというのに、触れる髪はサラリと流れて指の隙間を通り抜けていく。
そのせいか、少し勘違いしてしまう。

絡むことなく解けるのはこの行いが赦されているからではないのか、と。

――馬鹿げた戯言だ、とすぐさま一笑に付す。
シーツに包まる当人は良い夢なんかきっと見ていないだろうに、現実に起きている自分のほうが都合のいい夢を見ているなんて許されるわけもない。

ああ、許されない。……赦しなど乞わない。乞い、焦がれて、領域を犯した瞬間から覚悟は決めていたのだし。
落ちると決めた。どこまでも深く真っすぐの深淵に。

堕とすと決めた。――この悪夢はいつまで続く?


(それにしても、随分と大人しく眠っているな……)
呼吸音は聞こえない。身動ぎ一つしない。
一瞬、実は死んでしまっているのではないかと、暗い考えが浮かぶ。
思わず上体を屈めて近づき見れば、どうにか微かに上下する肩の動きを目視にて確認し、ほっとした。
シーツの隙間から僅かに覗く頬は白々としていて、触れるとひんやりと冷たい。

いつからだろう。どこもかしこも冷たい存在になってしまったのは。
留められる眼差し、触れる肌、心すら碌に通わせずただ獣のように抱いて貪った存在はまさに氷のような冷たい気配を纏うようになった。

どうにかして温められないだろうか、と一日中抱いたこともある。
離れようとする腕を掴み、逃げようとする腰を引き寄せ、圧し掛かり、覆いかぶさり、閉じ込めるように抱いて、抱いて、抱き潰したその体は、残念なことに温かくなることはなかった。

――こうして触れている今も、冷たい。
永久凍土のその下には、確かな熱源があったはずなのに。
何もかもを拒絶する瞳は凛として、怜悧な光でククールを見据えてくる。
禁足の場所より引き摺り下ろしたというのに、どうしてかその距離は以前よりも随分と遠く感じるようになってしまった。

神と、人と、竜と。
分かつ線はもはや無いはずなのに、変わらぬものをこうして見る度にーー見せつけられる度に、胸の奥をつきりとした痛みが走る。
それは部屋の隅に転がった銀の欠片だろうか。
女神を汚した凶徒に対しての罰を、暗がりから与える魔よけのしろがね。

ああ、真の「祝福」には勝てやしない。

それでも、抵抗してみせるのが狂信者としての礼儀だろう。
長い睫毛が影を落とす白磁の美しい顔を見下ろし、ククールは薄く笑う。

祝福には祝福を。
魔よけの色彩を持った獣は目を細め、美しい白包みを剥がしていく。

艶やかなみどりの黒髪を、そろりと掻き上げた額にまずは一つ口づける。祝福のはじまりとして。
……砕けた友情はもう戻ることはない。

すっと通った鼻梁に、二つ目。ついでに鼻先を擦り合わせたのは、無意識下の行動か。
愛し弄ぶことに対しての懺悔など今更だろうに。

薄い肉の下に脈打つ血管の動きを感じながら、喉元に三つ目。軽く顎を持ち上げた際に眉が顰められたので、気づかれぬうちにそろりと手離した。
疼いた欲望は辛うじて抑え込みながら。

名残惜しいままに、今度はシーツを掴む手を緩やかに剥がして、手の平に四つ目。
神を敬い慎む心はもはや在らず。
けれど、この手で頭を撫でられたこともあったな、と思い出しながら顔を埋めて舌で一度舐めたのは、もう一度同じものを望んだためか。
勿論、眠り人の手が動くことはなかったが。

肩を掴み、ゆるりと体を上向けて開けた胸元にて、五つ目を。
薄物の布の下には、いっぱいに広がる花弁の跡がある。
はだけて所有の証が残っているのを確認し、満足したのでもう一つおまけのように重ねて付けた。

そのまま輪郭に手を滑らせて辿り着いた腰を、六つ目にて取り巻く。
こうなる前は、戯れによく抱き着いていた。からかい半分、本当の想い半分で。
その時から既に幾らかの欲情を抱いていたことは否定しない。
それでも、あの頃はまだ引き際を知っていた。弁えていた理性が焼き切れるなんて思ってもみなかったけれど。

綺麗な過去の思い出に切り刻まれながら最終点、七つ目に辿り着いたのは爪先。
自らまつろい、昔ふざけて口づけたことのある足の甲は変わらぬ白雪の色でもって、狂信の偽善を受けとめる。

――そこに想いはあるだろうか。

氷の美貌は変わらぬも、日を経つごとに熱を失い――そのくせ、抱けば妖しく溶けて至上の快楽を与えてくれる。
その瞳はやはり美しい黒曜の光があるままで、体を押し開いてもっとずっと欲しくなる。求めたくなる。
体だけでなく心も欲しくて仕方がないのに――。

「なんで堕ちてこないんだかな、お前は」
再び側に腰を下ろし、いつまでも手の届かない場所にある星に話しかける。どうしようもない独白を。
それゆえに傾聴は望まず、目を閉じている相手に自然と零れる気持ちを吐露する。
「お前はもう俺のものなんだぜ、女神様」
エイトの手首に刻んだ拘束魔法の呪を指先でなぞりながら、ククールは答え返らぬ相手に言葉をぶつける。
「俺はお前に心を捧げているし、お前の中まで俺で満たしてやっただろう?」
どれだけ抱いても渇望が治まらない。
叶わない願い。乞われない愛。
ここに子供はいないのに、誰かの泣き声が聞こえてくるような虚無感に襲われる。
「もっとお前を汚さないとダメなのか?」
暗い声を聞く。
昏く笑う獣がいる。
手首を掴んでいた手を離し、視線を止めた先は無防備な首。先ほどの祝福にて仰向けにした体の上に圧し掛かり、その柔らかそうな肉へ唇を寄せる。
もっともっと欲望をぶつければ、この女神様は願いを叶えてくれるかもしれない。
敵意はない。悪意もない。ただひたすらに希う祈りからの欲望ならば、もしかすると――?

曰く――「天は自ら助くる者を助く」

他者に頼らず、自分ひとりで「努力」すれば神は救いの手を伸ばしてくれるのだと修道院で聞いたことがある。
ああ、だから。
そう、だから。

「俺はもっと頑張るよ、女神様。だから――全部零さず、受け止めてくれよな?」

含み笑い、喉元へ誓いの口づけを落としたそれは果たして純粋な信徒か狂った獣か。

神は知らず、女神も知らず。
青い闇が広がる部屋に、くつくつと笑う男の声だけが響いた。

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